2015年5月16日、カザフスタン共和国のバイカヌール宇宙基地から打ち上げられたロシアの「プラトーンM」ロケットが打ち上げに失敗し、搭載していたメキシコ合衆国の通信衛星「メクスサット1」と共に墜落するという事故が発生した。
プラトーン・ロケットは、大型衛星を打ち上げられるほぼ唯一のロシア製ロケットで、ロシアの主力ロケットとして活躍し、また世界的な人工衛星の商業打ち上げ市場においても高い存在感を放ち、さらに国際宇宙ステーションの建設でも活躍するなど、ロシアの宇宙産業が持つ技術の高さの象徴でもあった。しかしここ数年は打ち上げ失敗が相次いでおり、今や斜陽化の象徴となってしまった。
前々回の記事では、今回の打ち上げ失敗の概要について紹介した。また前回はプラトーンがどのようなロケットなのかについて紹介した。
今回は、5月29日にロシア連邦宇宙庁(ロスコースマス)から発表された、今回の事故調査結果について見ていきたい。
プラトーンの第3段エンジン
ロシア連邦宇宙庁(ロスコースマス)は5月29日、今回の失敗原因について断定したと発表した。
それによると、問題はロケットの第3段に装着されている、「RD-0214」という補助エンジンで起きたとされる。
本題に入る前に、プラトーンMロケットの第3段について軽く触れておきたい。プラトーンMの第3段ロケット・エンジンはメイン・エンジン「RD-0213」と、補助エンジン「RD-0214」の2種類のエンジンから構成されており、この2つを総称してRD-0212とも呼ばれている。RD-0213は大きな推力で速度を稼ぐことを目的としており、一方のRD-0214は飛行中の第3段の姿勢を制御することを目的としている。RD-0214は4基のノズルを持ち、RD-0213を囲むように装備されている。4基の根元にはそれぞれ電気モーターが装備され、最大で45度まで可動できるようになっており、噴射の方向を変えることで姿勢制御を行っている。
推進剤には非対称ジメチルヒドラジンと四酸化二窒素が使われている。両者は常温で液体なため保存に適しており、また混ぜ合わせるだけで着火できるという利点もある。プラトーン・ロケットは、第1段から第3段のすべてでこの推進剤を使用している。
RD-0213とRD-0214は共に、同じ第3段のタンクから推進剤を供給を受けるが、タンクからエンジンに推進剤を送り込むためのターボ・ポンプや、それを駆動させるためのガスを生成するガス・ジェネレイターはそれぞれ独立しており、別系統のエンジンとして稼動する。
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RD-0212は、メイン・エンジンのRD-0213と、4基のノズルからなる補助エンジンのRD-0214で構成されている。 (C)KBKhA |
プラトーンMの第3段。中央にRD-0213が、その周囲にRD-0124が見える (C)Khrunichev |
問題はRD-0214で起きた
今回の事故では、まずRD-0214のターボ・ポンプのローター・シャフト(軸)が高温の影響で壊れ、それにより回転のバランスが崩れて大きな振動が発生し、続いて異常を検知したロケットのコンピューターが第3段エンジンを停止させたのだという。その時点ではロケットはまだ軌道速度に達していないため、エンジンが止まったロケットはそのまま墜落することになったわけだ。
ロスコースマスはあまり詳細を明らかにはしていないが、ある条件がボーダーラインを下回ると、ローター・シャフトが壊れやすくなる傾向があり、今回の事故ではまさにそれが起こってしまったのだという。
これを受け、
- ターボ・ポンプのローター・シャフトの材料を変更
- ターボ・ポンプのローターのバランス技術を改良
- RD-0214のターボ・ポンプと、RD-0213との結合方法を改良
という、3つの対策を採るとしている。
また、プラトーンMの打ち上げ再開日については、6月中に発表するとしている。
原因は設計ミス
ロスコースマスのアリクサーンドル・イヴァーナフ第一副長官は、タス通信の取材に対し、今回の事故は「設計上の欠陥」が原因であったとしている。
今回の事故を巡っては、プラトーン・ロケットはこれまでに何機も打ち上げに成功しているのにもかかわらず、今回に限って失敗したのは、製造段階でミスがあったためではないか、という見方があった。また過去には実際に、指定の部品が使われていなかったり、部品の取り付け方が間違っていたりといった問題で失敗したことが何度かあり、その線を疑われても仕方がない面はあった。
だが、イヴァーナフ氏によると、あくまで今回の事故に関しては「設計上の欠陥」が原因であり、品質管理の問題や作業員の組み立てミスなどではなかったと強調している。