パナソニックは5月22日、同社が取り組みを進めているアグリビジネスの現況ならびに、次世代植物工場事業に関する説明会を行った。

同社のアグリビジネスは、これまで家電で培ってきたDNAを継承しつつ、より良い暮らしを広げていく取り組みの一環として行われているもので、「アプライアンス」、「エコソリューションズ」、「AVCネットワークス」、「オートモーティブ&インダストリアルシステムズ」といった4つの事業部門を横断して実施されるビジネスとして位置づけられている。実は同社がアグリビジネスに参入したのは1967年(当時は松下電工)と古く、最初の製品は防蛾灯(果樹用)であったという。以降、農業向け機器の販売を中心にこれまでビジネスを行ってきたが、現在の農業を取り巻く社会環境の変化(農業従事者の高齢化とそれにともなう減少、天候不良などによる不作など)への対応を目指し、農業の安定化を図れる植物工場を中心とした次世代農業への取り組みを強化を進めている段階にあるという。

パナソニック AVCネットワークス社アグリ事業推進室の松葉正樹氏

パナソニックの植物工場事業の目標は、「農業」をいかに「工業化」していくか、という点にあると、同社AVCネットワークス社アグリ事業推進室の松葉正樹氏は語る。「植物工場としてはパナソニックは最後発組。しかし、従来の植物工場には様々な課題が存在しており、我々は最後発であるがゆえに、それらを解決する様々な術を開発してきた」(同)とする。

植物工場の最大の課題となるのが、生産された作物の販売先をいかに確保するか、という点。これについては同社もまだ明確な答えが見つかっていないとするものの、「生産に関する問題についてはほぼ潰した」とする。生産という面で多くの植物工場で問題となっていたのが「実験室と工場では栽培結果が異なる」、「低い棚と高い棚で育成速度が異なる」、「重量歩留りが悪い」といった不均質な栽培環境であり、同社では研究の結果、植物を植えておく棚の最上段と最下段で温度差が平均で4~6℃、最大で10℃の差があることを突き止め、独自の空調装置を開発することで、その差異1.5℃以内に抑えることに成功したほか、蛍光灯や白色LEDではなく、赤色と青色の2色のLEDを使い分けることで、低消費電力化はもとより「味や食感などをコントロールすることを可能とした」としており、植物の生育状況をきっちりと管理できるようになった結果、重量歩留りは95%(80g)を実現したという。「設備メーカーの多くが一日あたりにとれる株数を指数として取り上げているが、実際には採れる作物の重量が重要。ある企業の10000株とパナソニックの3333株が同じ重量というケースもあった」(同)。

植物工場における一般的な課題と、それに対するパナソニックの解決策

また、植物工場は農業ではなく工業という考えのもと、30秒で300個の種まきが可能な治具を自社で独自開発したほか、苗を植えかえる仮植機や定植機、栽培プレートの自動投入・取り出し器などもすでに開発し、生産ラインに投入済みとするほか、今後、工場内部の清掃用ロボットも開発していく計画で、さらなる自動化を推し進めていく予定。こういった機械化により、同社が福島県福島市で稼働させている植物工場では、高さ5m×長さ15mの棚が15列で最低生産規模としては日産2000株を実現しつつ、従業員数は自動化しない場合で8名、自動化した場合で6名で済む状況を構築している。ただし、「日本で植物工場ビジネスを行う場合、パートの人たちは優秀なノウハウなどを有している場合、完全な自動化を図るよりも、そうした人たちの力を借りる方が効率的」とのことで、完全自動化は、海外の労働力がバラつきのあるような地域で植物工場ビジネスをやりたい、といったニーズを受けた時に必要とされるものとする。

パナソニックの植物工場における栽培の流れ。これらの作業を自動化機械と6名の従業員で日産2000株規模でできることをすでに同社では実証している

さらに、そうした植物工場ビジネスに興味を示した異業種企業に向けて同社では、工場設備のみならず、栽培ノウハウの提供も行っていくとしている。「マウスでモニタに映し出される情報をクリックするだけで栽培を可能とするソリューション(マウスクリック栽培)をパッケージ化して提供することで、様々な企業に参入を促したい」とするほか、そうしたノウハウが乏しい企業に対して、ネットワークで工場とパナソニックを接続し、栽培に必要なパラメータをパナソニックが監視し、改善相談やフォローなどを行ったり、BtoB向けウェラブルカメラを使って、現場の人に様子を映しだしてもらって、パナソニックのサービスマンが遠隔地からでも様子を確認しつつ、サポートを行うといったサービスも提供していく。

パナソニックの植物工場の様子

「これまで植物工場は、自治体や政府から補助金をもらってビジネスを成り立たせてきた面があるが、パナソニックでは"全国に存在する空き工場や空き倉庫"を活用することで、補助金なしでも黒字化が可能である」とする。「植物工場ビジネスはレタス換算で日産3000株が黒字化のラインと言われてきたが、我々のソリューションを活用すれば2000株で黒字化が可能だと試算している」とのことで、低カリウムレタスのような高機能野菜の栽培であれば、さらに利益化を促進することができるようになる。こうした高機能野菜の実現に向けた栽培レシピも、福島工場にて、同時に60種類の栽培環境を作り出せるインキュベータを開発・導入し、研究を行っており、高付加価値レシピとして、無償で提供する一般的なレシピ(標準レシピ)とは別に有償で提供していく計画とする。

パナソニックでは、自社が植物工場を保有して植物を生産するのではなく、あくまで設備やシステムを提供して、顧客の植物工場ビジネスをサポートしていくという立場ととっている

すでに福島工場ではグリーンリーフやフリルレタス、ほうれん草といった植物を同県内のレストランに提供しており、今後も販売可能な栽培品目を増やしていく計画。それと同時に販路の開拓も進めていく方針で、「流通業者や食品メーカーなどからの問い合わせもすでにある」とのことで、「パナソニックがやるからには、そうした販路も併せて提供できる形でソリューションの提供を行っていきたい」とした。

パナソニックの植物工場にて栽培されている品種の例。すでに一部が市販されており、福島県内のレストランなどで提供されている

パナソニックの植物工場で栽培され、試験的に販売されているフリルレタスとグリーンリーフ。中央のフリルレタスは低カリウム栽培のもの