アドオンはネイティブ実装したうえでチューニングして高速化

後藤: 今後追加する新機能のうち、まだ発表していないものはありますか?

冨田氏: 発表する必要がないので特に打ち出していませんが、アドオンの機能を追加します。今もベースはChromeなのでアドオンは使えるんですが、まだUIを用意していませんので。

アドオンを入れていくと、ブラウザはどんどん遅くなってしまいます。だから、アドブロックやパスワードマネージャといった、ユーザがよく入れる機能はネイティブに実装したうえで、パフォーマンスのチューニングをして、アドオンを入れて起こるセキュリティ上の問題やパフォーマンスの問題を回避・改善するというのが、我々の基本的な考え方です。

後藤: それでは、レンダリングエンジンを一から作る可能性はありますか? 技術的に一番面白いところですし。

冨田氏: 「OperaのPresto(Opera 12のレンダリングエンジン)はもうメンテナンスをしていないので、オープンソース化して使わせてよという話もしたのですが、さすがにそれは無理でした。結局、GeckoかBlinkを使うという方針になりました。ただ、レンダリングエンジンを開発したい気持ちはあるので、ビジネスとして回ってくるようになれば可能性はあると思います。正直、自社で新しい機能を開発して作りこみたいと思った時にそれができないのは歯がゆいです。

また、Opera 12のユーザは古いPCを使っている方が多いため、Operaではレンダリングエンジンをかなりタイトに作っていたので、いろんな環境で動きました。しかし、今はBlinkの動作環境に対応していないと動かないので、その制限は残念です。

「お、こいつ違うな」と思わせる逆張りのUX/UIの実現へ

後藤: 最近のブラウザは、デザインがすべてChromeのようになってきたように思います。シンプルにするとUIの差別化がしづらい状況にあって、VivaldiはUIやUXをどういう風に考えていますか?

冨田氏: まさしくおっしゃるとおりで、Chromeと同じレンダリングエンジンで、さらにUIまで似ていたら存在意義がないわけです。ブラウザにとってUIが最大の差別化になるので、他のブラウザがChromeのようなストリームラインのデザインになっていくなか、我々は逆張りでいこうと思っています。かといって、いろいろな場所にボタンを付ければいいかと言うと、そうではありません。そこは機能とアクセシビリティを高めながら、最初にインストールしてまず「お、このブラウザ違うな」と思ってもらえるようなデザインを目指しています。

例えば、Vivaldiはタブを変えると色が変わります。それによってタブを切り替えるとすぐにこのページなんだってわかりますが、それ以上に見た目が競合と違うという点を意識しています。

見た目が他のブラウザと違うと、「ラーニングカーブが高そうだな」または逆に「もっと深掘りしてどんどん機能を発見してみよう」と思われるでしょう。我々はパワーユーザを対象にしているので、最初のラーニングカーブは高いんだけど、便利な機能があるのでどんどん生産性が高くなっていくという方向でやっています。

Appleの成功によって、オプションをつけることが何も考えていないデザインの典型例みたいな考え方が確立されました。よいデザインを作れば選択肢を与えなくても、誰もが満足するんだという思想は間違っているとは思いませんが、100%の人が選択肢を与えなくても満足するデザインは存在しないと思っています。8割の人たちにはいいデザインでも、残りの2割の人が自分で選択できるデザインがあってもいいと考えています。

タブを変えると色が変わるVivaldiの画面

バージョン1を早く出したい、だから夏前にはベータをリリース

後藤: 現時点で公開可能なリリーススケジュールはありますか?

冨田氏: バージョン1はなるべく早めに出したいです。それに向けて、ベータ版は夏前には出したいと考えており、次のマイルストーンを開発しています。おそらくベータが出たら2、3カ月後にはバージョン1が出せるんじゃないかと思います。あとは、スマートフォン版のVivaldiをなるべく早く出したいです。デスクトップ版をリリースしたらモバイル版というのがさらに次のマイルストーンです。

開発の初期段階は、UI用の言語を一から開発していたんですが、6カ月くらいやってみて、これはダメだという話にりました。今はWebテクノロジーを使ってUIを開発しているので、必要なビルディングブロックはそろっていて、スピーディーに機能開発が行える状況です。

UIと独立しているので、レンダリングエンジンを切り替えることも可能ですし、Windows、Mac、Linux版も同時にリリースできています。ChromeはLinuxへの移植に時間がかかりましたが、Vivaldiは同時対応です。リリースするたびにFreeBSD版を出せとツィートする方もいますね。

後藤: 最後に、名前の由来を伺いたいのですが、Vivaldiと初めて聞いた時、日本向けじゃないなと思いました。Vで始まる音は日本受けしにくいところがありますし。

冨田氏: 反対意見として、「僕も発音しにくい」ということを挙げたのですが、全然聞き入れられませんでしたね。「Vivaldi」という名称を決める時にこだわったことは、世界中で認識できつつ革新的であることを示せるということです。Vivaldiは今ではクラシックの作曲家と言われていますが、当時は革新的な作曲家だったんです。そこからの"Vivaldi"というわけです。