岐阜県多治見市に本拠地を置くバローグループは、スーパーマーケットやホームセンター、ペットショップ、ドラッグストアや調剤薬局といった小売業を中核に、施設運営・メンテナンスなどのサービス、食品の卸売り・生産、物流など、中部地方を中心に幅広い事業を展開する。地域社会への貢献を念頭に、“住民にとってなくてはならない存在になること”が同社の目標だ。

バローグループ各社は、取り扱う商品やサービスの違いこそあれ、生産から物流・小売りという事業の流れにおいては、手法や仕組みが共通する部分も多い。そこで同社は、特にITシステムにおいては「資源および情報の共有による有効活用」という方針で、投資を抑えつつ事業規模の拡大を目指すという手法を採っている。

中部薬品株式会社 システム部 部長 古川哲也氏

グループを形成する中核企業の1つである中部薬品で、システム部 部長を務める古川哲也氏によれば、この方針に従って、各IT担当者も積極的に連携を図っているとのことだ。

「小売業界は決して楽な状況にはなく、過度な値引き競争が企業を消耗させる原因にもなっています。私たちは、個々の小売業ではなくグループ全体で流通業へと進化して、各社の連携を競争力に繋げたいと考えています。この目標の達成をITシステムから支援するため、各社のIT担当者は定期的な合宿や毎週の報告会を開催して情報を共有し、互いによいものを積極的に取り込んでいこうという意識を高く持っています」(古川氏)

もちろん単にシステムを共用化するだけでは、効率化にはつながらない。取り扱う商品情報や取引の方法など、仕組みが異なれば個別のカスタマイズが必要となり、コストや利便性を悪化させるためだ。また、バローグループ自身が流通を効率化することで、メーカーや卸業者などサプライチェーン全体のコストを削減し、競争力を高めることができるという考えもあった。

そこで同社が注目したのが、経済産業省が主体となって推進している「流通ビジネスメッセージ標準(BMS: Business Message Standards)」である。従来の公衆電話網を用いるJCA手順と異なり、インターネットを活用するため高速で、専用機器や通信回線のコストも抑えられる。個別に持っていた業務プロセスや書式を共通化できることは、バローグループが考える「資産の共有」に合致した。結果、EDI(Electronic Data Interchange:電子データ交換)共通インフラ「V-EDI」の構築に至ったのも、『自然の成り行きだった』と古川氏は述べる。

取引先に負担をかけないEDIソリューション

「V-EDI」を構築するため、同社が中核システムとして選定したのが富士通システムズ・ウエストのWebEDIソリューション「FUJITSU 流通業ソリューション ChainFlow 小売向けWebEDIシステム」(以下、ChainFlow) である。

ソリューションを選定するにあたって、第一の要件としてあげたのは、もちろん「流通BMS」への対応だ。ChainFlowは、流通BMSに標準機能として対応しており、すでに多数の実績もあった。

第二の要件は、取引先が容易に導入・利用できることである。取引先に負担をかける仕組みでは、流通全体のコストを削減しようという考えに一致しない。流通BMSは、すでに大規模なサプライチェーンでは普及が進んでいるものの、小規模な企業には負担が大きく、導入が進んでいないのが実情だ。

ChainFlowは、WebEDI機能を実装しており、インターネット接続環境とWebブラウザさえあれば、低コストで受注や出荷などのEDI機能を利用することができる。流通BMSとWebEDIの双方を選択的に利用できることは、数多くの取引先を持つバローグループにとっても重要なことだった。また、バローグループの主要な商圏である中部地方ではChainFlowのシェアが高く、多くの取引先にとって馴染み深いというのもポイントとなった。

第三の要件は、サービスとしての柔軟性である。バローグループ各社は、共通項こそ多いものの、それぞれ固有の条件やニーズが存在する。共用するからといって個別対応がいっさいできないようでは、利便性が大きく損なわれてしまう。ChainFlowは、富士通システムズ・ウエストが独自に開発したシステムであり、メンテナンスも同社が行っている。ASPサービスとしての利用であっても、細かなカスタマイズに対応してくれることは、大きな魅力であった。

実際のシステム導入後は、取引先が流通BMSとWebEDIを自由に選択できるような仕組みを設けた。古川氏によると、中部薬品の取引先のうち、対応が困難な数件を除いて導入が完了しており、43%が流通BMSを選択し、57%がWebEDIを選択したという。このことからChainFlowが従来の流通BMSと新しいWebEDIの双方で、問題なく対応していることがわかる。

図:小売業におけるChainFlowシステム概要図

不明ロス率の低下や人材の最適化を実現

古川氏の所属する中部薬品では、取引全体でEDI化を実現したことにより、3つの大きな効果を得ることができた。

1つは、理論在庫と実在庫の差分を売上比率で示す“不明ロス率”を、0.15%も減らすことができた点だ。紙の伝票による取引は、どうしてもミスやトラブルが発生する確率が高くなりがちだ。同社は年間で約800億円の売り上げがあるため、1億2,000万円の利益を確保できた計算となる。

2つ目は、本部の仕入買掛処理を実質1人に任せられるようになったことである。従来は手入力でミスも多く、4人のチェック体制を整えてトラブルに備えていた。現在では、他の業務を兼務している社員1名と短時間のパート社員1名のみが担当しているという。また各小売店舗においても、伝票入力を行う作業がほとんど必要なくなり、負担を大幅に軽減できた。

「100%に近いペーパーレス化が実現できています。従来の紙の伝票は、複製を印刷したり、厳重に保管したりする作業が必要で、年に2回は安全な方法でごみ処理する作業を1日がかりで行っていました。現在では大きく負担が減って、むしろ戸惑っている店舗スタッフもいるほどです。しかし慣れてしまえば、以前の状態には戻れないでしょう」(古川氏)

そして、3つ目は、自動発注の精度・リアルタイム性が向上し、単品在庫は納品日の当日、夜間のうちに確定することが可能となった点だ。仕入確定の作業は、センターへの納品も店舗への納品も自動化している。定期的な抜き打ち検品を実施して確実性を検証しているが、これまで大きなトラブルはないという。実際にはChainFlowを使った自動確定の導入は グループ各社に先がけて中部薬品で採用した方法で、バローグループの各担当者も採用を検討しはじめた、「ノウハウを蓄積していけば、追随する企業が増えていくはず」と古川氏は見ている。

「私がChainFlowを気に入っているのは、機能が豊富なところです。例えば、卸業者に発注した商品を、メーカーが出荷登録するといった細かな帳合業務などにも対応できます。私たちは、地域に必要な存在となることを目指して、さまざまなニーズに応えていきたいと考えています。新しいビジネスを企画したときにも、柔軟に対応できるシステムであることは、中部薬品ひいてはグループ全体にとって非常に重要なことです」(古川氏)

ChainFlowの導入後、大きなトラブルなく運用を実現できており、システムの共有化・効率化のメリットを享受できているという。古川氏は、富士通システムズ・ウエストをはじめとした富士通グループと協力体制を整えることができた点、また小売業や流通業について非常に詳しいスタッフが揃っていた点を高く評価している。

流通業はプレイヤーが多く、仕組みや作法が煩雑になりがちなためだ。専門的な用語を用いても食い違いなく対話でき、スムーズに導入を進められたことは、富士通グループを選択したメリットの1つだったとする。

「私たちのビジネスにとって、V-EDIはミッションクリティカルなシステムです。当社では、まず中部地方において住民から求められる企業になるべく、優れた商品・サービスの提供を行っていきたいと考えています。そのためにもChainFlowには、水道や電力のように重要なインフラの1つとして、安定的なシステム/サービスの提供を期待しています」(古川氏)