IoT分野で"オンリーワン"のサービス

米Kii Chief Product Officer(最高製品責任者) Phani Pandrangi氏

IoT(Internet of Things)やモバイル向けのバックエンドサービス(MBaaS)を中心に、アプリ開発やデバイス開発を支援するサービスを展開するKii。IoT分野でもはやくから取り組みを進め、世界各国のアプリ開発者、デバイスメーカーから高い支持を得てきた。

Kiiは東京を本社とし、シリコンバレー、上海、台湾、香港、スペインにオフィスを構え、そのサービスは、世界中のパートナー企業を通して、全世界で数千万人以上のエンドユーザーに利用されている。

IoTへの関心が世界的に高まるなか、Kiiのサービスに対するニーズはますます拡大している状況だという。KiiのChief Product Officer(最高製品責任者)としてシリコンバレーから同社のグローバル戦略を指揮するPhani Pandrangi氏は、同社の強みをこう話す。

「IoT向けの機能やサービスをプラットフォームとして整備し、多数のパートナーとエコシステムを構築しています。そして、それをグローバルに提供しています。こうしたIoTソリューションに必要なサービスをワンストップで提供することができるベンダーは、世界を見渡してもわれわれしかいないと思います」

国内でも取り組みがさかんになってきたIoTだが、ソリューション提供にあたってどんなことが課題になっているのか。シリコンバレーの最新事情に詳しいPandrangi氏に話を聞いた。

IoTソリューション開発の課題とは

Pandrangi氏は、Webカメラを例にIoTソリューション開発における課題を次のように説明する。

「Webカメラを使ってスマートホーム等の何か新しいIoTソリューションを提供する場合、大きく、3つの要素が必要になります。まずは、モノ(Thing)としてのWebカメラ。IoTデバイスという言い方ができます。次に、スマートフォンなどにインストールして利用するアプリ(App)。ここではカメラアプリです。そして、サービス(Service)。モノとアプリをバックエンドで結びつけます。たとえば、Webカメラから得られる映像を保存して加工したり、アプリにプッシュ通知を行ったりします。ソリューションの開発にあたっては、これら、デバイス、アプリ、サービスの3つが連携して動作することが欠かせません」

一般的なIoTソリューションの構成

IoTソリューションは、この3つの要素をどう扱うかによって、大きく3つのパターンに分けられるという。

1つは、1社が単独で、デバイス、アプリ、サービスをすべて開発するパターンだ。たとえば、デバイスメーカーがアプリを開発してサービス提供をしたり、アプリ開発者がデバイスを製造したりする。だが、3つの要素を単独でカバーすることは現実的にはかなり難しく、製品リリースまで時間がかかったり、開発やサポートのリソースが不足したりといったことが起こりがちだという。

2つめは、1社単独で開発するのではなく、デバイスの仕様やAPIを「オープンプラットフォーム」にするパターンだ。アプリやサービスを開発してくれる第三者に開放する。デバイスメーカーは本来のデバイス開発にリソースを集中することができ、失敗した場合のリスクを減らすこともできる。また、さまざまなパートナーと連携することでソリューションを発展させていくことができる。第三者に開放するものとしては、API、SDK、取得データなどがあるという。

3つめは、1社単独かオープンプラットフォームかに関わらず、デバイス間の相互連携を図るパターンだ。デバイス同士をBluetoothやNFCなどの近接通信で連携させたり、クラウドのネットワークを介して連携させたりする取り組みがこれにあたる。必ずしもアプリやサービスの開発をともなうわけではない。

「こうした3パターンではそれぞれ課題が異なります。Kiiでは、それらすべてに対応できるようにプラットフォームを整備しました」(Pandrangi氏)

IoT事業の多岐にわたる課題

IoTソリューションのカギを握る「プラットフォーム」

KiiのIoTプラットフォームは、こうした課題に対し、データ送信やイベント処理、通知などを行う「エージェント」、ユーザー管理やデバイス管理、プッシュ通知、サーバ拡張などの「コアバックエンド」、A/Bテストやダッシュボード、KPI、分析などの「アナリティクス」、「ポータル」、各種「API」でこたえていくという。

Webカメラの例で言えば、Webカメラとクラウドをつなぐエージェントの提供から、Webカメラサービスを利用するユーザーの管理やユーザーへのプッシュ通知、アプリ上でのサービスのA/Bテストの実施、テスト結果の分析、外部サービスとの連携に至るまでを提供できるということだ。

「さまざまなOS、ハードウェア、ファームウェア、チップをサポートし、どのような規模にもスケールできます。オープン性と相互運用性を持ち、パブリックなクラウドだけでなく、顧客の要望に応じてオンプレミス環境やプライベートクラウドでも利用できるように設計しています」(Pandrangi氏)

Kiiのプラットフォーム構成図

もっとも、プラットフォームだけでは、IoTソリューションの課題を完全には解決できない。製品をどう市場へ展開し、利益を確保していくかといったビジネス面での課題が残るからだ。それにこたえるのが、IoTエコシステムの存在だという。

ビジネス課題の解決に欠かせない「エコシステム」

「開発、製造、販売、サポート、改善など、ソリューションを市場で展開し、利益を上げ続けるためには、さまざまな分野でパートナーと協業することが欠かせません。そのためのエコシステムを構成していることが、Kiiのもう1つの強みです」(Pandrangi氏)

パートナーとしては、ソリューションを設計・開発するためのプラットフォームパートナー、試作品(プロトタイプ)や大量生産するための製造パートナー、ターゲット顧客に販売や流通を担うディストリビューションパートナー、サービスを維持するのに欠かせない通信事業者やISPとのコネクティビティパートナー、ソリューションを改善していくための開発パートナーなどがある。

たとえば、製品の試作品を迅速に作り、その後、大量生産したいといったニーズに対しては、中国や台湾の生産拠点を利用するといったパートナーシップを結ぶことをサポートしている。同じように、どの販売チャネルを使いどういった課金モデルでどの国に展開するかといった課題については、各国のディストリビューションパートナーやコネクティビティパートナーと協業することをサポートしている。

実際、Kiiのプラットフォームを使ってソリューションを開発し、エコシステムを活用して、市場展開しているという事例は多いという。たとえば、台湾のデバイスメーカーが米国市場で製品を展開するケースや、米国メーカーが中国市場に製品を展開するケースなどがある。

日本企業についても、ベンチャー企業のみならず大手製造業においても、米国や中国などのマーケットで製品を展開することはさまざまな障壁があるが、Kiiのプラットフォームとエコシステムを活用することで、そうした障壁を乗り越えることができると話す。ここでも「プラットフォーム、エコシステム、グローバルという3つに対応できる強み」が生かされるということだ。日本の製造業が復権し、世界展開していくには欠かせないモデルといえよう。

ソリューションとキーパートナー

ワクワクする取り組みを支援していく

IoTに対する関心は、米国や日本に限らず、グローバル規模で高まっている状況だ。Pandrangi氏は、IoTのトレンドについて次のように話す。

「経済発展の度合いでどのようなセグメントに適用するかは異なります。先進国では、スポーツやスマート家電、スマートホームなど個人の生活に近いところでIoTを活用しようとする動きが活発です。途上国では、スマートシティやスマートビルディング、スマート農業のような社会的な側面が強いように感じます」

Kiiが今後取り組もうとしているのは、特定の分野にフォーカスしたソリューションだという。これまでに整備してきたプラットフォームやエコシステムは、水平的に支える土台のようなものだ。これからは、その土台のうえで特定の課題を解決する垂直的なソリューションを提供していくことを検討している。たとえば、オフィスビル内の照度を自動調整して節電につなげるといったスマートライティング(照明)という分野があるが、それに必要なサービスをワンストップで提供するソリューションなどだという。

「IoTに対する認知度はどの国でも高く、今後、さまざまな課題を解決するソリューションが生み出されていくことになるでしょう。詳しくはまだ明かせないのですが、実際、われわれのプラットフォームとエコシステムを使って、ワクワクするような取り組みを進めている企業がたくさんあります。そうした方を引き続き支援していきたいと思います」(Pandrangi氏)