内閣府が3月に発表した景気動向指数によれば、景気は「改善」している。しかしそれを実感している企業は、どのくらいあるだろうか。中小規模の製造業では、大手企業からの受注量自体は増えてきているものの、発注元から要請されるコスト削減や円安などが重なり、むしろ苦しさを感じているところも多いという。人海戦術で増産に対処すれば、当然、現場への負担は大きくなる。高品質なものづくりを続けていくために欠かせない人材育成・技術伝承は後回しになり、特定の「職人」に仕事が集中してしまうという話も、しばしば耳にする。

金型製造に使用される放電加工機の製造で知られる株式会社牧野フライス製作所は、こうした課題の解決にもつながる新製品を開発し、2015年4月15~18日に開催されるINTERMOLD 2015(会場:東京ビッグサイト)にて展示・発表を行う。

現場の負荷軽減、技術伝承支援に貢献する「Hyper i」

株式会社 牧野フライス製作所 EDM R&D本部 副本部長 木戸正孝氏

今回リリースされるのは、NC形彫り放電加工機の制御装置「Hyper i (ハイパーアイ)」と、その対応機。放電により金属を加工する放電加工機は、自動車のバンパーのような大型部品から、パソコンやスマートフォンのごく微細な部品に至るまで、あらゆる分野で金型製作に利用されている。

「今、自動車業界が活況となってきています。機械部品だけでなく、ハイブリッドカーの電池、モーターや追突防止装置のカメラなど、電子・電気部品産業にも仕事が拡がり、放電加工機の需要も高まっています」(木戸氏)

しかし機材だけを導入しても、すべての企業がすぐに活用できるというわけではない。放電加工機は予め組まれたプログラムによって、自動で金型を仕上げる装置だが、このプログラムづくりには、「職人技」が必要とされているからだ。例えば同社の旧来型制御装置には、用意された設定画面に数値を入力していくことでプログラムが自動生成されるソフトウェアが搭載されているが、いくつもの入力項目があるため、特に初心者にとっては操作に時間もかかる。結果として、習熟した工員のみが対応せざるを得ない。新たに人材を育成するとしても、その間は仕事が滞ってしまう。

そこで生み出されたのが放電加工機の制御装置「Hyper i」だ。設定は簡単で、プログラムを意識しなくても望み通りの金型をつくることができる。2013年にワイヤー放電加工機用がリリースされると、現場ではその使いやすさが評判となった。経験の浅い工員にも扱えるため、導入後すぐに「稼ぐ」ことができると経営層にも喜ばれ、今回のNC形彫り放電加工機用「Hyper i」を待ち望んでいた企業も多いという。

「専門の人が使うのだから多少分かりにくくてもいい、という考え方を変えて、マニュアルいらずの使いやすさを追求しました。9割を自動化しているので、慣れていない人でも水準以上のものは簡単につくれる。ベテランの方は、製品により磨きをかけるための残りの1割だけを習得すればよく、ご自身の負担も減り、人材育成にかける時間やコストを抑えることができます」(木戸氏)

コンセプトは3つの「i」 - 「Hyper i」の特長・機能

では、3つの「i」という「Hyper i」の開発コンセプトに沿って、その特長や機能の一部をピックアップして紹介しよう。

【intuitive(直感的)】
●旧来は機能別に分けていた画面切り替え用タブメニューは、「プログラム」「段取り」「運転」と、仕事の流れに沿ったメニューになり、分かりやすく。
●設定画面にはグラフィックを多用し、設定すべきポイントが一目で分かる。
●22インチ、フルHDのタッチパネル式モニターは、スマートフォンやタブレット同様、ピンチ操作で自由に拡大・縮小ができる。

グラフィカルで分かりやすい設定画面

【intelligent(インテリジェント)】
●加工の深さや電極のサイズなど、必要最低限の設定を行えば、後は自動で最適な加工条件が算出され、プログラミングが完了する(もちろん詳細な設定を行うことも可能)。
●加工が不安定な状況を検知すると、画面に改善案が提示される。提示内容に沿って、いくつかの手順を実施することで改善策を探ることができ、すぐに実行に移せる。この機能「E テックドクター」は、牧野フライス製作所のコールセンターが蓄積してきた電話サポートのノウハウを活かして開発された。安全の確保や技術伝承にもつながる機能だ。

【interactive(インタラクティブ)】
●異常が検知されてアラームが表示された時、従来ならマニュアルをめくって原因を探す必要があったが、「Hyper i」ではアラームの原因をピンポイントで画面に表示してくれる。
●金型形状が複雑になればなるほど、使用する電極の種類も増えてくる。そうした中で発生しがちな電極の装着ミスをなくすため、画面上に使用すべき電極が3Dグラフィックで表示される。ヒューマンエラーを未然に防ぎ、無駄なコストと時間をかけずにすむ。

重要なのは新しいものを採り入れ、変化しつづけること

使いやすさを徹底的に追求するために、日本の開発チームだけで仕様を決めていた、これまでの方針を見直し、シンガポール・アメリカ・ヨーロッパなど、同社が世界中に持つ拠点の現地スタッフと意見交換を行った。

株式会社 牧野フライス製作所 EDM R&D本部 技術部 NC装置課 形彫りソフトウェアチーム リーダ 塩水孝幸氏

「機能を一目で分かるようにしたはずのアイコンも、国によっては分かりにくく映ってしまったり、ちょっとした配色で与える印象が違ったりと、グローバルな使いやすさを実現するには苦労もありました」(塩水氏)

こうした新たな試みのもと、新たな操作方法や機能を盛り込んだ「Hyper i」を開発することは、同社にとって大きなチャレンジだったという。

「先に進むためには常に新しいものを採り入れ、変化していくことが大切です。ぜひ、製造業に携わる多くの方に『Hyper i』の"新しさ"を体験していただき、前向きな変化へのきっかけにしていただければ嬉しく思います」(木戸氏)

INTERMOLD 2015の牧野フライス製作所ブースでは、「Hyper i」に対応した放電加工機EDAF、EDNC各シリーズの新製品が展示される。「Hyper i」はその場でタッチ・アンド・トライできるので、その使い勝手をご自身で確かめてみてはいかがだろう。

「INTERMOLD 2015」開催概要


INTERMOLD 2015(第26回金型加工技術展) / 金型展2015
会期:2015年4月15日(水)~18日(土)
開場時間:10:00~17:00(最終日18日は16:00まで)
会場:東京ビッグサイト(〒135-0063 東京都江東区有明3-10-1)
主催:一般社団法人日本金型工業会
運営:インターモールド振興会
公式サイト:http://intermold.jp