去る3月1日、Apple Store Ginzaにて、『50代から楽しむiPad』の著者・馬塲寿実氏と83歳のiPad画家・中村作雄氏がナビゲートするシニア向けワークショップ「iPad画家になろう」が開催された。このイベントは、iPadと無料のスケッチアプリ『LINE Brush Lite』を使った絵の描き方を紹介していくというものだ。

ワークショップをナビゲートする『50代から楽しむiPad』の著者・馬塲寿実氏

まずは馬塲氏から今回のワークショップの概要の説明と、中村氏の紹介。中村氏は、馬塲氏の著書『50代から楽しむiPad』にも登場しているとのこと。83歳という年齢は、Apple Storeで開催されたイベント登壇者の中で、おそらく最高齢だろう。この日の参加者は、ほぼ全員、自前のiPadを手に来場。イベント開始時間より前倒しで、使用するアプリの解説があり、レクチャーを受けながら、一斉にダウンロードに勤しむという場面も見られた。

『50代から楽しむiPad』/馬塲寿実 地球丸刊 価格:1,600円+税
タイトル通り、シニア向けにiPadとアプリを組み合わせた具体的な楽しみ方を、その手順とともに紹介していく。サポート動画が公開されており、本ではわかりづらいiPadの動きをより理解しやすく解説してる

馬塲氏は、視覚が不自由な方、高齢でインターネットが苦手な方にユニバーサルな情報提供を行い、支援するNPO法人「ハーモニー・アイ」の代表を務めている。「ハーモニー・アイ」の設立は2006年とのことだが、その一方で、2013年末から執筆活動を開始。2014年の春から「50代からの幸せ研究所」という個人屋号で活動し、iPadやSNSに関する著書を上梓。前述の『50代から楽しむiPad』は今年の2月に刊行された。

紹介された中村氏は、iPadを手に、自身の経歴や作品についての詳細を述べた。20年前に淡彩画家に弟子入り、10年ほど前に小林一茶の英訳された作品にインスパイアされ、パソコンで俳画を描くようになったという。その後、鈴木真砂女の、これまた英訳された俳句にイラストをつけるという作品に着手。それらの作品群もパソコンで手がけていたとのことだが、制作期間中にiPadが登場し、ツールとして取り入れることになったのことだ。最初のうちは思ったようには描けず、四苦八苦したらしいが、すぐに操作には慣れたと話す。

83歳のiPad画家・中村作雄氏

パソコンやiPadで描くきっかけになったという小林一茶の俳画

中村氏が普段、制作用に使っているのは『Brushes Redux』とのことであるが、この日は『LINE Brush Lite』が使用アプリとして選ばれた。「(自身の作例を指して)これくらいの絵は描けるようになりますから」と、参加者には心強い一言の後、実際にiPadを使って作業に取り掛かる。

今回のワークショップで使用された『LINE Brush Lite

まずは、アプリを起動し、白いキャンバスが表示されているかどうか確認。続いて作成した絵を格納する「ギャラリー」をチェックする。キャンバスで描いた絵は、ギャラリーに保存し、制作途中の絵はギャラリーからキャンバスに呼び出すことができるのだが、中村氏曰く、この操作は言葉で言うと簡単だが、感覚的にはなかなかつかめない、ということで、参加者全員で何度か一緒に操作することに。この段で挫折する方が多いとのことで、ゆっくりと作業が続いていく。

まずはキャンバスに線を引く練習

そして、いよいよキャンバスに線を描く。ツールなどを表示させるには画面をタップするのだが、これがシニア層、「タップ」と言われても何だかわからない様子で、馬塲氏から即座に「画面をポンと一回叩いてみてください」とアドバイスが飛んでくる。iPhone/iPadを使い慣れているなら「タップ」や「スワイプ」がどういった操作を指しているか、理解していない人はまずいないと思うが、初めて使う人にとっては何かの呪文か暗号と同じだ。先ほどのタップは「画面をポンと一回叩く」、スワイプは「シュッと画面を掃く」といったように、馬塲氏は具体的な言い方に替えて丁寧に解説していた。これなら初心者でもしっかりついていける。

線を引いてチューリップの輪郭を描く

キャンバスに描いた線は、覚えたてのギャラリーに保存し、また新たなキャンバスを広げ、別なペンで別な線を描いていく。筆の形状を変えたり、色を変えたり、絵を描くための操作をひとつずつ習得する。この間、紙のノートに忘れないようメモをとる受講者が何人かいたようだが、中村氏は「ノートはとらないように」と注意を促す。メモを取るのと絵を描くのとでは頭の使い方が違うから、そのやり方だと何時まで経っても上達しない、というのが氏の持論だ。

中村氏のチューリップの作例

中村氏は、最初から上手く絵を描こうとしてはいけない、まずは道具に慣れることが大事だと話す。ということもあってか、ワークショップも単純な線や円を描くというところから始まっていた。一通りアプリの使い方に慣れたところで、ようやく絵を描く作業に入る、といった具合で進んでいく。途中、中村氏の解説が駆け足になる場面があったが、そこもまた馬塲氏がサッと割って入り、参加者全員の進捗状況を見てから次へと移る。筆者は時々、Apple Storeで開催されるジュニア向けのワークショップを取材させて頂くことがあるのだが、今回初めてシニア向けのワークショップを拝見してみて気づいたことがある。それは、iPadの操作に関しては子供達のほうが圧倒的に習得が早いということだ。しかし、シニアには子供達にはないものがある、集中力だ。操作を覚えるには個人差があって、なかなか一様にはいかないようだったが、そこは集中力の高さでカバーしているように見える。結果、ワークショップの終盤には、皆、同じことができるようになっていた。参加者は単純図形に色をつけ、チューリップの絵を描き上げた。

最後は作品をAirPlay+Apple TV経由でスクリーンに投影し、皆で鑑賞

中村氏は小技として、彩色するためのインクの濃淡、彩度の調整法などを紹介。一段上に仕上がるテクニックを学んだ。仕上げとして作品に署名を入れ、iOS標準アプリ『写真』に保存し、一通りのレクチャーは終了。最後は参加者の作品をAirPlay+Apple TV経由でスクリーンに投影、鑑賞して皆で楽しんだ。