「デジタルマーケティング」という言葉の定義は使う人によってまちまちであるが、以前からあったメールマーケティング、Webマーケティングを経て、マスマーケティングに対するOne to Oneマーケティングのデジタル化という文脈で使われることが多い。数あるコミュニケーションチャネルの内、Webサイトが最も一般的だが、そのほか、携帯電話のメール、インスタントメッセージ、モバイルアプリ、デジタルサイネージなどがあり、実に多様化している。

従来型のマスマーケティングを否定し、顧客データベースを駆使するOne to Oneマーケティングは、90年代から提唱されてきたビジョンだが、この考え方は技術の大変革が起きている現在も今後5年間においても継続することになると見られる。そして、以前よりもさらに多様化したチャネルを活用し、一人ひとりに最適な情報を提供する企業を支援することがデジタルマーケティングと関連する技術に求められている。

以下、デジタルマーケティングを理解するうえで重要な要素である「トレンド」「プラットフォーム」「ゴール」について考えてみたい。

経営環境、技術環境から見た「トレンド」とは?

日本企業を取り巻く経営環境を見ると、国内市場は成熟し、飽和状態となった市場から成長市場へと経営資源をシフトすることが急務となっている。そのためには、国内企業では海外市場への進出を迫られ、地域市場ごとに異なる顧客ニーズに対応していかなくてはならない。

一方、技術環境を見ると、近年のソーシャル、モバイル、ビッグデータに集約される技術の大変革が起きており、デジタル情報を積極的に活用することができるようになった。これらの技術トレンドは、企業と顧客のコミュニケーションやビジネスを大きく変化させるものである。

ソーシャルメディアは顧客とのコミュニケーションのチャネルの1つとして存在感を増しているし、モバイルデバイスはインターネットコマースと共存するコマースプラットフォームとして成長している。さらに、顧客をもっと正確に理解するため、さまざまなチャネルから得られる爆発的に増加したデータを分析するというビッグデータの取り組みがある。これらは、デジタルマーケティングにおけるチャネルの多様化に大きな影響を与えている。

こうした反面、企業と顧客との接点はより複雑なものになり、首尾一貫したカスタマーエクスペリエンスを提供することがこれまで以上に難しくなってきた。これらの環境変化を踏まえ、企業はマーケティング活動の見直しを検討する時期に来ている。

デジタルマーケティング・プラットフォーム構築のコツ

企業がこうした新しい技術を取り入れ、デジタルマーケティング・プラットフォームを設計・構築する際に留意すべき点は、新しいチャネルをいかに「統合」するかである。

多くの場合、企業は単純に新しいチャネルを「追加」する。チャネルを追加するという安易な判断は、多くの場合マーケティング情報システムのサイロ化とマーケティングプロセスの部分最適化につながる。これは、デジタルマーケティングに対する投資対効果を十分に得られないことを意味する。

統合の価値を理解するには、クロスチャネル、マルチチャネル、オムニチャネルの相違を明確に述べたレポートである「Mobile Retailing Blueprint 2.0」が参考になる。このレポートは米NRF(National Retail Federation)が2011年1月に発表したものであり、モバイルコマースに取り組む米国の小売り事業者を読者対象としている。

このレポートの中で紹介された図は、顧客との接点である販売チャネルが多様化しても、顧客とのインタラクションは、データデータレベル、ビジネスプロセスレベル、組織レベルでのサイロをなくすことの重要性を示している。この点は、コミュニケーションチャネルとしてモバイルやソーシャルをとらえるB2B企業についても同様に理解されるだろう。

さらに、顧客体験を1つのブランドに集約することがオムニチャネルのゴールとして示されており、企業がオンラインとオフラインの顧客の購買行動の連携に取り組む際の具体的目標が示されている。

小売事業者と顧客の接点の変遷 資料:National Retail Federation

チャネルや顧客を問わないデジタルマーケティングのゴール

マスマーケティングとは異なり、デジタルマーケティングは個別の顧客をよりよく理解し、パーソナライズされた体験を提供するための考え方や仕組みである。顧客とのやり取りは、潜在的な顧客に自社の製品・サービスを知ってもらうことから始まり、興味を持ってもらい、買ってもらってお客さまになる、繰り返し買ってもらえるお得意さまになるといったライフサイクルがある。

このライフサイクル全体を通した個々の顧客とのやり取りにより、それぞれの快適な体験が積み重なり、全顧客の体験の集合価値が目には見えないブランドの価値として蓄積される。つまり、顧客体験とはブランドを介した顧客とのやり取りであり、優れた顧客体験を提供することはブランド価値の最大化に貢献する。

デジタルマーケティングのゴールは、すなわちブランド価値の最大化である。このゴールは、チャネルがオンラインかオフラインか、顧客が消費者か企業を問わず共通のものと認識しなくてはならない。そして、ブランド価値を高めるために重要なのは、顧客を深く理解するためのパーソナライゼーションであり、これにはITの支援が不可欠である。

最近登場したマーケティングソフトウェアは、手作業による処理量の限界や十分な分析ができないという不満にこたえるものとなっている。マーケティング分野へのIT投資が活性化しているのは、マーケティング部門のゴールを理解し、現場の問題解決のためのソフトウェア製品が供給されるようになったことが大きいと筆者は見ている。