ルネサスの今後に向けて

Q:もう1つの質問は何故今だったのか、という話なのですが。それはマーケティングの体制が整ったからやろう、ということなのか、あるいは何か他のそろそろやらないとまずいからやろう、という事なのかということを教えてください。

A:まずは作田会長の30カ月の構造改革があります。まだ我々はその中にいて、半分くらいしか進んでいない段階なので、その意味では何か、急に成長戦略があって押し出してゆこうという事ではないです。ただ、まだ半ばではあるのですが、半導体のビジネスを考えると、ご存知の様に車だと5年、産業用でも3年位先のビジネスを今やらなければいけないわけですよ。30カ月後に構造改革が終わってビジネスの盛り返しをやるためには、今の時期にそういうことを仕込み始めないといけないだろう、と。投資する事も今まではほとんどやってこなかったんですが、今回フォーカスするマーケットセグメントも決めましたし、非注力分野も決めて、Carve-outしたりとかしている訳です。そういう意味では、いい時期に来ましたし、我々としても準備も出来てきたし、そういう意味ではいいタイミングだろうと思ってやりました。 Q:では来年は…

A:来年はアメリカですね。

Q:毎年場所変えるんですか?

A:それは全然決めてる訳じゃないんですが、さっきのメッセージのシナリオに沿ってゆくと、日本・アメリカ・日本・他、という感じでやりたいなと思っています。

Q:普通ですと、例えば(Intelのカンファレンス)IDFがそうですし、もうすぐARMもカンファレンスを開催しますが、まず本国でドーンと大きいのをやられて、その派生形みたいな形を色々な国でやられる形をとってます。が、ルネサスさんはそうではなく、メインのものを日本・アメリカ・日本・ヨーロッパとかそういう形を考えておられる?

A:そうですね。それは先ほどの話と関係あるんですが、私が今World Wide Sales Meetingのたびに各リージョンの長に、そのリージョンのイニシアティブを3つ出せと言ってるんです。その3つのイニシアティブというのは、地域性をすごく持っていて、この地域だからこそルネサスを光らせられる、というものにしてくれ、と。ですので、アメリカのDevConではアメリカの地域において「ああ、やっぱルネサスがやるとこうなるよね」というものを出してほしい。発表出来るもの、お客様にとってそこで発表するとすごく意味のあるもの、これを軸にしてやってってもらいたいと思ってます。アメリカは3つとも今とても進んでいますし、ヨーロッパもよく進んでいます。

Q:念のために、その軸をお聞きしてもよろしいですか?

A:これは言えないです(笑)。お客様の情報も含まれていますので。

Q:REEのリリースを読んでいますと、よくヨーロッパのソフトウェアベンダとかハードウェアベンダと共同で、こういうプロトコルに対応しました、とか、こういう開発キットを出しましたとかいう話がでてくるのですが。

A:REEもそうですし、REAもありますよ。リアルタイムOSベンダとかツールベンダとかで、組み込み用のソリューションを提供するというもので。Power of TWOなんてのもこの前発表しました。

ちょっと組織の話に戻りますと、MARCOMの中にPartnersというもののがあるんですよ。Global Partnersという部隊がありまして、今おっしゃられたソフトウェアとかボードとかツールとか、全世界で色々活動しているものを、グローバルで俯瞰してみて、どこにどういうものがあり、お客様が製品を買って下さった時に、どこのものを載せると何ができるかというのを直ぐに展開できるようにしています。今現在では700社強のパートナー企業が全世界に居りまして、チームには「1000は直ぐ超えてくれ」とお願いしているんですが、そうしたグローバルのプログラムをやっています。

Q:では、もう少し先の話を。R-CARやR-INはCortex-Aで推されていて、先を考えると判るんですが。問題はMCUのRXとか下と整合性が取れてないなという気がします。

A:今のMCUのポートフォリオと言いますか、実際に売れているものを見ますと、やはり昔からあるものが相当売れているんですね。SHとかMとか。ですので、そういう意味で言いますと、今ロードマップで出しているRXとかRZだけではなく、昔からあるLegacy MCUというのも事実上は相当出荷しているんです。

我々はMCUに対してどういう物の見方をしているかというと、やはり組み込みですからお客様が使いたい様に使えるように出さなければいけない。つまり周辺がどう揃っているかとか、ツールがどう揃っているかとか、サンプルコードがどう揃っているかとか、OSがどう揃っているかとか。ですからコアのアーキテクチャはもちろん大切なんですが、今々のMCUの我々のビジネスを見ると、コアのアーキテクチャよりも、色々な作りこみのしやすさ、こちらのほうが大切だと思っています。ですので、RX MCUも今拡販しています。

Q:作田会長へのインタビューで、不採算のものはEOLしていくというお話が出てましたが、ではそうなるとSHとかM16はどうなるんだろう? というのは疑問としてあるわけです。

A:それはお客様に買っていただけるので、売っています。

Q:問題はそれをいつまで売り続けるかという話で、それは粗利が45%取れるかどうかというお話かと思うのですが。

A:粗利も良いですし、いつまでも買っていただけるのであればロングテールですし、長期供給製品ですので。

Q:逆に言えば、そのあたりの汎用品はこれからもずっと売り続けると。

A:そうですね。その中に、仮に将来ARMがあるのか無いのかといえば、お客様が「CoreがMatterだ」と仰れば考えるかもしれません。実際にRZなんかもARM入ってますからね。

Q:そのRZが凄く微妙というか、絶妙と言うか。他のメーカーさんは皆さんCortex-MでMCUを作られていますが、ルネサスはCortex-Aに注力していて、M系が何も無い。そしてARMがmbed OSとかmbed Device Serverをアナウンスした訳ですが、「ただし対応はCortex-Mだけだよ」と言っていて、そう考えたときに既存のMCU、RXや850系のコアで商売を継続されていく考えがあるのでしょうか?

A:それはお客様が必要とされるコアが何であるか、というマーケット次第ですね。マーケットを見ながら当然考えてゆくことになります。

Q:そのマーケティングの長としてはどう見られています?

A:それを決めるのはお客様ですから(笑)。私はユーザーじゃないですから、お客様が全員「ARMにしろ」と言ったら、それはARMになるでしょう。ただ今は売れているので、だとすると少なくともそこの売れているエリアではARMは必要無い訳です。

Q:この先の見通しはどうなんでしょう?

A:ARMのロードマップは非常に魅力的ですから、それは我々も考えていくことになると思います。実際にちゃんと対応も進めてきている訳ですし。

Q:もし作るとなったら作れるんですか?

A:実際のところR-CARでもなんでも使ってますしね。焼きゃいいんですから(笑)。ルネサスって、やはり作るのは強いですよ。入社してからも思いましたが、まず信頼性が高い。びっくりする位に信頼性に対して作りこみがあるし、ものの出来もいいですね。もちろん失敗例が無いとは申しませんが、全体をみるとほんの僅かです。そして、比べるつもりもないんですが、信頼性とかきちんとしたものを出しているということで、お客様となる海外企業の購買の方々から「君たちの信頼性はピカイチだ」というように言われています。日本は当然信頼性を求めるお客様ばかりですので当然なのですが。

Q:高橋さんの立場からすると、何が違うんだと思います?

A:ものづくりに対しての作りこみの考え方じゃないですかね?。やっぱり、変なものを出しちゃいけないという思いがすごく皆さんにあるんだと思います。

Q:作田会長が「真面目にやり過ぎて全部カスタムにするから儲からないんだ」と仰ってましたが、それと裏表…

A:カスタムの話はまた違うかと思ういますが。品質の事に関しては、すごい作りこみが出来る技術を持った会社だと自信を持っていえます。カスタムに関しては営業戦略とかそちら話になってきまして。お客様も自分の商品を作っていく中で、一番使いやすいというか要望を突き詰めてゆくと、全部カスタムになっちゃうんですよ(笑)。一方で作る側としては、これはどこのメーカーもそうですが、できるだけ汎用品を使ってもらいたいと思う訳です。ここをどう落としこんで、ASSPなり何なりにできるかというのは凄く大きな課題ですね。

これは我々の営業戦略の問題ももちろんあります。営業戦略的にはカスタムをできるだけASSPのほうに切り替えていくという事になるんですが、逆にお客様の側も、今までカスタムでやっていたけれど、今はそこじゃないよね、といった風に思い始めて、考え方を変えてくださっている方々も多いのも事実です。ですので、R-CARはあれですが、R-INなどのように、言ってみればASSPの塊が産業用でも「これ使えるよね」というように考えてくださってきているということです。

Q:これも営業絡みですが、これまでルネサスはASICのサポートなどをやってこられた訳ですが、そういうビジネスではなく、これからはASSP方向に注力してゆくということでよろしいですか?

A:ASICそのものを止める訳ではありませんが、ASICをやる限りにおいては、その業界のセグメントマーケティングという名前がある位ですから、このセグメントにおけるアプリケーションとは一体何なんだろう、と言う事は理解しながらASSP化を進めると言う事がベースにあるようなマーケティングをするでしょうね。

一個ガチガチのASICを作って「はい終わり」とやるのではなく、必要なTechnologyは何だったのかとか、DMAはどの位の速度が必要なのかとか、Ethernetはどうだとか、絶対その機器に対しての何らかの要望ががあってのASICになっている訳ですから、そこを横展開できるように出来るだけ知識を掴み取ってゆくという事でしょうね。

Q:作田会長のお話で、弱い部分をどうするかという話がありましたが、マーケティング側から「ここは必要なので是非買いましょう」といった進言とかはされるんですか?

A:製品ポートフォリオに関しては、僕らがWorld Wide Marketing Meetingが年に2回ありまして、そこでTAM(Total Available Market:有効市場)/SAM(Served Available Market:対象市場)の分析を各セグメントごとにやっています。

SAMを作らないとビジネスが上がらないよ、という時にはちょっとした変更修正とかIPの追加で行ける場合があるんですが、TAM作らないといけないという場合とか、SAMも大きくとらないといけないとかいうメッセージがセグメントで出てくると、買収とかそういう話にはなります。それは、我々としては純粋にマーケットでビジネスをこういう風に変えてゆく上で、こういうIPが足りないとか、こういうソリューションが足りないとか、そういう言い方になります。結果としてのM&Aの判断はは経営企画の方でやりますが、そこに対して進言する形になります。

Q:ただそれはマーケットをしっかり見ないと出来ない

A:そうですね。

Q:ではそのマーケットの話です。反転攻勢を掛けると仰ってますが、今は縮小均衡ではあるものの、経営状態を改善するところまでは来ました。この先、反転というのはどうなされていくのでしょうか?

A:これはまったく今申し上げた通りで、我々は世界中の風を読んでいるわけですから、どこにどうTAMがあって、どこにどうSAMがあるというのは判ります。SAMをどう作ってゆくかと言う事に対して言うと、コンペが何をしているかというのも全部分かる訳ですし、そこに対して、ではどういう商品戦略、アプリケーション戦略、ソリューション戦略を出すかと言うのを打ち出していくと、反転にかけられるわけです。ただそんな直ぐには結果出ませんので、産業用だと最低3年、車だと5年くらいかかりますから、今はワーワーやり始めて、結果がでるのはもう少し先という事になると思います。

Q:TAMにしてもSAMにしても、全部の分野に手を出せるほどの体力も商品ポートフォリオもないと思うのですが、だとすると絞って出すのか、それとも新しいマーケットを作るのか難しい判断だと思うのですが。例えば車で言えば、ではここからさらに反転させて5割シェアを増やしましょうというのは無茶ですよね。

A:車も、セグメントマーケティングの中をもう少し細かくセグメンを言えば良かったのでしょうけど、Power Trainだのボディ/シャシーだのは、仰るとおり車の出荷台数が馬鹿みたいに増えない限り変わらない訳です。しかも単価は下がりますから、そこは維持という形ですね。ただADASなんかに関してゆくと、完全な新マーケットなので、何がADASで伸びていくのかということをマーケティング側で色々調べながらシナリオ書いていけば十分伸びしろは取れると思います。産業用でも、我々産業・OA・ICT・家電も白物でモーターを回すところは多いので、そこもまだまだ伸びしろはある訳です。産業ですとIndustry 4.0みたいなイニシアティブがくると、ご存知の様にすべての産業機器がネットワークでつながって、フレキシビリティが上がり生産性が上がり、となる訳ですが、そのためには色々と必要な機能が増えてくる訳で、それをいち早くお客様と勉強させていただきながら実装してゆくと。

ただ途上国はASPが低いし、先進国は伸びしろが少ない。ですので、まずはフォーカスしたセグメントがあって、そこで考えて、その中でも成長するところはやりましょう、ということになります。それは今申し上げたとおりですが、それ以外に、中国とかインドなどは、ASPが低いんので、今持っているルネサスのProductをそのまま持っていってもオーバースペックであったりする場合があります。ご存知だとは思いますが、中国にもマイコン事業部がありまして、SuperDragonという1元MCUというのを出してます。これが今年あたりから結構仕様が上がってきているのですが、たったの1元なので(笑)、凄く数は出てるものの、出たところで売り上げが目に見えて増える訳ではないという。ただし、そこでルネサスのプレセンスをとっていくとか、アーキテクチャを使ってもらうとか、その先には我々のメインのものが来るというように思っていますので、そこでシームレスに狙って行ければと思っています。

Q:1元だけで勝負しようとは思っていない?

A:そこは最初の入り口ですから、それで終わってしまうとちょっと…。

Q:あと、EMEAのお客様の数というか、売り上げというか、そのあたりはいかがでしょう?

A:個別の売り上げは公表していないのですが、人数が居る程度にはある、と言えます。ただ、Multi-Nationalがあるので、中国とかは結構そういった売り上げが多いんです。要するに欧州系が多いんですよね。これに関してはGlobal Account Managerが居りまして、例えばContinentalだとすると、ヨーロッパにManagerは居るものの、中国とかの売り上げが多いという形です。そのため、Report Lineとしては中国からもちゃんともらって、リソースの配分なんかも欧州からDirectionしてやるという形を取れるようにしました。

組織を可視化できるようにした事で、Gloabl Account Managerという仕組みが入れられるようになりました。ただそのContributionとかリージョンの売り上げとか、先ほどもいいましたがそのリージョンごとのイニシアティブはそれに関係なく、どうしたらルネサスに一番貢献できるのかをTop 3のイニシアティブとして考えてもらっています。

Q:もう少しすると、大口アカウント向けという別の軸が入ってくる形になるとか?

A:もうすでに大口は大口ですからね。あまり変わるとも思えないですね。どちらかというとグローバルチャンネルという代理店とか、日本で言うと特約店、こちらのManageに関してもっとグローバルでこれから色々な動きが計画されています。