もう1つの理由はより根深いもので、Re/codeなどが報じている。筆者は11月初旬にフランスのパリで開催されるICカードの展示会「Cartes」に参加していたが、それとちょうど同時期に米ラスベガスで「Money20/20」というイベントが開催されており、決済関係者の多くがパリではなくラスベガスのほうに出向いていたという話を聞いた。そうしたMoney20/20のエピソードの1つを伝えたのがRe/codeの記事で、MCXの中心的企業であるWal-Mart幹部のMike Cook氏が業界の商習慣について紛糾したという話だ。

CurrentCの話題から外れるが、少しまとめてみる。クレジットカードには店頭での「対人販売」とオンラインなどでの「非対人販売」の2つの考え方があり、この2つでカード利用料率が異なるというのが質問の趣旨であり、「非対人販売のほうが料率が高い」という業界の慣習を問い質したものとなる。これは責任範囲の問題もあるが(「対人販売」のほうが本人確認ができるぶん安全性が高いという前提がある)、同じApple Payであるにも関わらず、NFCのタップ&ペイとアプリでのIn-App Purchaseで料率が異なるということでもあり、一般的な小売店にとっては負担が高いことを意味する。

これはカード利用の長年の慣習として実践されてきたもので、一部小売店側にとっては不可思議なルールとして認識されているものの1つだ。もっとも、ユーザーの買い物トレンドは日々変化しており、従来のルールでは追いつけない部分もある。カードブランド側もその問題を認識しており、その対策の1つとして出したのがApplePayでも採用されている「トークン化」という技術だ。

例えばVisaは3Dセキュアなどの認証の仕組みをオンライン決済に導入しているが、いまひとつ複雑という問題がある。そこで、よりユーザーが簡単に決済を行え、かつ安全性の高い仕組みとしてEMVにより考案されたのが「トークン化」となる。本来のカード番号を隠蔽する技術なので、対面販売ではないオンライン決済でも安全性が比較的高まるというメリットがある。つまり、ApplePayで導入されたトークン化の技術は本来はIn-App Purchaseに利用されるものということになる。

だが実際にはNFCのタップ&ペイにおけるセキュリティの補強要素の扱いであり、本来の「(料率を下げて)オンライン決済の利用をさらに促す」という目的を達成できたかは難しいところだ。こうした販路の柔軟性を確保することの難しさをMCXら小売店側が感じていることの現れなのかもしれない。

MCXに話を戻すと、もともとの出発点は、小売店主導の決済システムを構築することにある。CurrentCの支払い方式は、従来のクレジットカードの決済ネットワークを通さない「銀行の口座残高から直接購入金額を差し引くデビット方式」を採用している点からもうかがえる。

Re/codeで記されていた内容を読み砕けば、「せっかくCurrentCで店舗主導の決済方式を導入しようとしているのに、従来のクレジットカードを使うApple Payで元に戻されてしまう」というジレンマがMCXにはあるようだ。これはあくまで予想に過ぎないが、少なくとも「MCX vs. Apple」という単純な構図ではない点に注意したい。