フリーソフトウェアとプロプライエタリソフトウェア(proprietary software)は相反する存在だ。Microsoftは、WindowsやOfficeといったプロプライエタリソフトウェアで利益を得るビジネスモデルを長年続けてきたが、エントリーユーザーのPC離れや、Webアプリケーションの台頭に伴い、旧ビジネスモデルからの変革を求めている。

その結果同社は、特定条件を満たすデバイスへのWindows無料化や、iPhone/iPad用Officeにおける基本機能の無料化など次々に将来を見据えた戦略を実行してきた。そして新たな一手として放つのが、11月12日からニューヨークで開催した「Connect();」で発表した「オープンソース化とクロスプラットフォームへの対応」と「Visual Studio Community 2013の提供開始」である。

今後の戦略について語ったMicrosoft Cloud and Enterprise group担当EVPのScott Guthrie氏

Windows/iOS/Android用アプリの開発環境を無償提供

まず、Visual Studioから解説しよう。同製品はMicrosoftが販売するソフトウェア統合開発環境だ。一般的なソフトウェアの開発は、任意の開発言語で機能や動作を実現する命令を組み合わせた文章を作成する。これがソースコードだ。そしてソースコードをコンピューターが理解できるように機械語に変換する。この動作をコンパイル、変換を実行するツールをコンパイラと呼ぶ。ソフトウェアの開発にはその他にも、テキストエディターやコンパイル時に発生したバグを見付けるデバッガーといったツールを必要とするが、これらを組み合わせたのがソフトウェア統合開発環境だ。

「Visual Studio 2013」

現行製品のVisual Studio 2013には、Professional/Test Professional/Premium/Ultimateといったエディションを用意。最下位のProfessionalエディションでも6万円程度。最上位はMSDNサブスクリプション1年分付属で約172万円となる。本稿で強調したいのは、各エディションの機能差ではなく、今回発表したVisual Studio Community 2013の存在だ。

Microsoftは2005年から、プログラミング初心者や趣味のソフトウェア開発を行うユーザー向けに、Visual Studio Expressエディションを無償提供している。もちろん多くの機能を制限しているものの、Visual Studio Express 2013に関しては、ライセンス条項に従えば商用に無料使用可能という大きなメリットもあった。たとえばWindowsストアアプリなら開発者アカウントは有料だが、デスクトップアプリならば一切出費せずにソフトウェアの開発可能となるのである。

そして今回発表したVisual Studio Community 2013は、Visual Studio Professional相当の機能を持ちつつも、大学関係者/非営利団体従事者/オープンソース開発者に加え、PC250台未満もしくは年商1億円未満の5名以下の業務開発者であれば無償使用が可能になった。そのため、アドオン機能の利用やWindowsストア/デスクトップ/Webなど各アプリケーションの開発も1つで済む。

Visual Studio Community 2013。Xamarinなどアドオンを追加することで、Windows/iOS/Androidのマルチプラットフォームアプリケーションの開発が可能になる

Visual Studio Community 2013の注目点は、このアドオン機能である。従来のVisual Studio(Professionalエディション以上)であれば、Xamarinのアドオンを利用すればiOS/Android用アプリケーションの開発可能だったが、今回の同Communityがアドオン機能をサポートしたことで、マルチデバイスの開発環境が無償で使用可能になった。また、数週間内に無償で利用可能になる「Xamarin Starter Edition」は、実行可能なバイナリサイズを64KBに制限しているが、リリース時は128KBに緩和する予定だ。

NETプラットフォームもオープンソース化

そしてもう1つの発表が「.NET Core」のオープンソース化である。こちらはWebアプリケーションフレームワークとなる「ASP.NET」やアプリケーション開発・実行環境の「.NET Framework」といった.NET全体をオープンソース化し、Mac OS XおよびLinux向けの.NET Frameworkを提供することも合わせて発表した。

ソフトウェア開発に携わらないユーザーにはピンと来ない話だが、この施策によりソフトウェア開発者は.NETアプリケーションのターゲットがWindows一辺倒から、Mac OS XやLinuxも対象に含めることが可能になる。つまり、先のVisual Studio Community 2013と相まってマルチプラットフォーム化をさらに推し進めた格好だ。

Microsoftが「.NET Framework Blogs」に掲載したオープンソース化の概要。クライアントに携わる部分は既存のままとなる

ここで疑問に残るのが、Microsoftはどのような形で収益を上げようとしているのか。それがMicrosoft Azureというクラウドプラットフォームである。同社は自社製クラウドプラットフォームを利用する付加価値として、OSの選択肢を広げながら今回は開発環境を充実させた。これは同社CEO(最高経営責任者)であるSatya Nadella氏のスローガン「モバイルファースト、クラウドファースト」に沿った方策であり、先を見通した戦略のひとつといえるだろう。

Microsoftは今なお変わろうとしている。

阿久津良和(Cactus)