2014年9月26日、3人の宇宙飛行士を乗せて打ち上げられたソユーズTMA-14M宇宙船は、ロケットからの分離直後、2枚ある太陽電池パドルのうち片方が開かないという問題に見舞われた。また3月に打ち上げられたソユーズTMA-12Mではスラスターに問題が発生し、ソユーズの貨物機版であるプログレス補給船でも問題が頻発している。

片方の太陽電池パドルが開かない状態でISSにアプローチするソユーズTMA-14M宇宙船。(C) NASA/Reid Wiseman

2011年にスペースシャトルが引退して以来、ソユーズは国際宇宙ステーション(ISS)へ宇宙飛行士を送り込むことができる唯一の宇宙船であり、米国をはじめ、ISS参加国はソユーズへの依存を続けている。当のロシアもそれを誇り、シャトル引退直後には「ソユーズの時代がやってきた」と声高々に宣言した。だが、その直後からソユーズやプログレスをはじめ、ロシアのロケットや衛星に問題が相次いでおり、信頼性は大きく揺らぎつつある。

ソユーズは1960年代に開発された宇宙船だ。もともとは有人月飛行もできるように造られたが、実現することはなく、もっぱら単独での地球周回ミッションや、サリュートやミール、ISSといった宇宙ステーションへの飛行など、地球周回軌道でのみ運用されている。開発以来、基本的な構造はそのままで、改良を重ねつつ運用が続けられており、現在はコンピュータなどを新しくしたソユーズTMA-Mと呼ばれるバージョンが運用されている。

ソユーズはこの半世紀で123回のミッションを行い、300人を超える数の宇宙飛行士を宇宙へ送り込んだ。しかしその中で2回の事故を起こしている。

1回目は1967年のソユーズ1、つまりソユーズの最初のミッションのときで、打ち上げは成功したものの軌道上で問題が続出し、なんとか地球への帰還を試みるも、最終的にはパラシュートが開かず墜落し、搭乗していた宇宙飛行士が死亡している。

2回目は1971年のソユーズ11で、このときは帰還時に、帰還カプセル内の通気弁が何らかの理由で開いてしまい、中の空気が抜け、搭乗していた3人の宇宙飛行士が死亡した。

この2回以外は、宇宙飛行士が死亡するような事故は起きていない。しかし、その一歩手前だったことはいくつもある。

2003年5月、ソユーズTMAの1号機であるソユーズTMA-1が、ISSからの帰還時に技術的な問題が発生し、「弾道再突入モード」と呼ばれる、緊急時の際に使われる帰還方法で大気圏に再突入する羽目となった。

ソユーズは通常、揚力突入といって、機体の姿勢を制御することで揚力を発生させつつ大気圏に再突入する。これにより宇宙飛行士が受ける加速度(G)を小さくすることができる。一方の弾道再突入モードは、打ち上げ時にロケットが故障したりといった緊急事態の際に「飛行士の命だけは助ける」ことのみを考えたモードであり、乗り心地に関しては保障されておらず、このときは約10Gもの加速度が加わったという。また着陸地点も大きくずれ、アンテナも損傷したため位置の特定も難しくなり、回収部隊の到着が大きく遅れたことで、宇宙飛行士は待ちぼうけを食らう羽目にもなった。

2007年10月には、ソユーズTMA-10が、やはりISSからの帰還時に弾道再突入モードに陥った。さらに2008年4月には、ソユーズTMA-11でふたたび同様の問題が発生した。この2件は、大気圏再突入の直前に分離されるはずの帰還モジュールと機械モジュールとが繋がったまま再突入したために起きた。運良く再突入時の高熱によって両者は分離されたことで大事故にはならなかったものの、やはり弾道再突入モードであったため、宇宙飛行士には大きな負荷がかかり、着陸地点もずれることになった。分離されなかった原因は爆発ボルトの不点火であったと結論付けられている。以降は改修が施されたためか、同様の事故は発生していない。

また、ソユーズは通常、耐熱シールドがある底部から大気圏に突っ込むが、この3件では頭部側から大気圏に再突入したため、ハッチには大きな圧力と熱が掛かった。底部とは異なり、ハッチ側は最低限の耐熱処理しか施されていないため、もし加熱が続いていればハッチは破壊され、船内に高熱のプラズマが流れ込み、宇宙飛行士が死亡する事態になったはずだ。また、同じく頭部にあるパラシュートのハッチが壊れ、中のパラシュートが燃えるようなことになっていれば、再突入後の減速と着陸ができず、帰還モジュールは地面に叩きつけられ、やはり飛行士が死亡する事態になっていただろう。

着陸したソユーズTMA-10宇宙船。頭部から大気圏に再突入したため、いつもより黒く焼け焦げている。(C)NASA

着陸したソユーズTMA-11宇宙船。ソユーズTMA-10と同様、頭部(写真左側)から大気圏に再突入したため、いつもより黒く焼け焦げている。 (C)NASA

その後ソユーズTMAは、ソユーズTMA-22をもって引退し、ほぼ時を同じくして次世代のソユーズTMA-Mが登場した。前述のようにソユーズTMA-Mはコンピュータを中心に大きな改良が加えられており、軽量化のほか、従来打ち上げからISSへの到着までは約2日間掛かっていたが、わずか6時間での飛行が可能となった。

当然これほど多くの改良を加えることに対しては、不安視する声もあったが、1号機から11号機までは安定した飛行を続けていた。

しかし今年3月、ソユーズTMA-12Mが打ち上げ後に、スラスターの噴射で問題が発生し軌道変更に失敗し、予定では6時間でISSに到着するはずが、2日掛かる旧来の飛行プロファイルに急きょ変更された。このときの原因はソフトウェアにあったとされている。

そして9月にはソユーズTMA-14Mが、ロケットからの分離直後に、2枚ある太陽電池パドルのうち片方が開かないというトラブルに見舞われた。原因は今も調査中だ。なお、開かなかった太陽電池パドルはISSとのドッキング後に展開した。ドッキング時の衝撃で引っかかっていた何かが外れたためであると推測されているが、こちらも詳しくは調査中だ。

さらに、ソユーズの貨物機版であるプログレス補給船でも近年問題が多発している。例えば2006年と2008年、2013年に、プログレスの展開式アンテナに関する故障が発生している。このアンテナはソユーズにもまったく同じものが使われており、今後ソユーズでも同様のことが起こる可能性は十分にある。

アンテナのひとつが展開しないままISSにアプローチするプログレスM-19M補給船。(C)CSA/Chris Hadfield

ISSから出航するプログレスM-19M補給船。分離時の衝撃でアンテナ(左上)は展開したものの、ISSと接触したために歪んでしまっている。(C)NASA

また、現在ロシアは新しいランデヴー・ドッキング装置の開発を進めており、ソユーズへの搭載に先立って、まずプログレスに搭載されて試験が行われている。しかし問題が多発しており、実用化のめどは立っていない。この装置はもともとウクライナで製造されていたもので、部品などをすべてロシア製にし、かつ性能をも向上させるという二兎を追ったものであったが、皮肉にもロシアの宇宙技術力の低下を示すことになってしまった。

こうした問題続きの中で、しかしロシアは、プログレスとソユーズの大規模な改良を計画している。

この改良型はプログレスMS、そしてソユーズMSと呼ばれており、まず前述の新しいロシア製ドッキング装置が正式に搭載され、また太陽電池も発電能力と効率がより高いものになるという。さらにスラスターも改良され、新しい航法装置も搭載される。通信システムも改良され、また船体を構成する材料や部品も新しくなり、スペースデブリからの防護システムも搭載されるとのことだ。

まずはプログレスMSが先行して開発され、実際に飛行を行い、これらの改良点に問題がないことが証明された後、ソユーズMSが運用に入るとされる。現時点ではプログレスMSは2015年に、ソユーズMSは2017年にそれぞれ初打ち上げを迎える予定となっている。

しかし、現在のソユーズやプログレスでも問題が頻発し、さらに新しいドッキング装置の試験も不満足な結果に終わっている今、プログレスMSやソユーズMSが無事に開発され、大きな事故を起こすことなく運用されるという見込みは小さい。

またロシアの他のロケットも頻繁に失敗しており、また打ち上げられた衛星が、その後問題を起こすことも多い。ロシアはそもそもロケットや衛星の打ち上げ数が多いということを勘案する必要はあるが、一方でほぼ同じ頻度で打ち上げている中国や米国ではこれほど多発していないことから、やはりロシアの宇宙開発において、設計、製造、検査の質が低下していることは明らかだ。

ソユーズがふたたび問題を起こすのも、またそれが今までよりも深刻な事態になることも、そしてそれが人命に関わるほどの事故になることも、もはや時間の問題であろう。だが、米国の民間企業によって開発されている宇宙船は2017年にならなければ運用に入らないため、それまでISS参加国は、否が応でもソユーズに命を預け続けなければならない。それは言わば、ロシアン・ルーレットの引き金を、連続で引き続けるようなものかもしれない。