4K時代に対応するWS/HPCの条件

既に試験放送が始まっている超高精細テレビ放送「4K」。だが、テレビ放送よりも早くインターネット経由のコンテンツ配信が始まりつつある。そこで求められるのは、コンテンツ提供側の4K制作環境だ。もちろん4Kに対応するデジタルビデオカメラなど多くの機材を必要とするが、問題は編集ソフトである。

ノンリニア編集ソフトの雄であるAdobe Premiere Proは、以前から4K出力に対応しているのをご存じだろうか。1996年のバージョン4.2で4K解像度(正しくは4,000×4,000ピクセル)の出力をサポートしているが、当時のハードウェアスペックでは利用シーンも限られていた。4K映像編集が現実的になったのは2012年頃。同年5月にAdobe Premiere Pro CS6が登場する頃には、PCの性能も大きく向上し、実際の編集も可能になった。

Adobeが用意した4K用テンプレートを用いることで、4Kデジタルビデオカメラに対応するMXFファイルの書き出しが可能(画像はAdobe Premiere CC 2014)

だが、いくら優れたソフトウェアがあっても、4K映像編集に必要なのはハイエンドなプロセッサーとGPUである。大量の映像データを処理するにあたり、プロセッサーの性能が左右するのは言うまでもない。さらに最近はソフトウェア側で並列コンピューティングフレームワークであるOpenCL(CPUやGPUなどコンピューター資源を利用する枠組み)をサポートしているため、ハイエンドなGPUを搭載するビデオボードが求められるのだ。

前述のAdobe Premiere Proは、バージョンを重ねるごとに4Kに関する機能改善を行っている。2013年12月にリリースしたアップデート(バージョン7.2)では、ソニーの4K映像形式であるXAVC(MXF)出力や、MP4形式のXAVC S、パナソニックのAVC-Ultra(Long)の読み込みなどに対応。さらにサポートするGPUも増やし、AMD Fire Proも含まれるようになった。

手頃なハイエンドビデオボード「AMD FirePro W8100」

しかし、4.2TFLOPSの計算能力や8GB(ギガバイト)の超高速GDDR5オンボードメモリと言われてもイメージしにくいだろう。そこで今回、AMD FireProシリーズのハイエンドビデオボード「AMD FirePro W8100」を搭載したPCを借り受け、Adobe Premiere Pro CC 2014によるベンチマークを行うことにした。その前にAMD FirePro W8100について軽く触れておこう。

AMD FirePro W8100

名前からも分かるようにFireProはAMD社製ビデオボードのブランドである。ワークステーションやHPC(ハイパフォーマンスコンピューター)向けに設計し、コンシューマー向けとは一線を画するラインアップだ。描画能力はもとより出力性能もDisplayPort 1.2を用いることで、4,096×2,160ピクセルの出力が可能。FireProシリーズは最上位モデルに「AMD FirePro W9100」も存在するが、W9100はDisplayPort 1.2を6ポートも備え(W8100は4ポート)、搭載メモリーも2倍の16GBとなる。

ちなみに4Kには、ITU(国際電気通信連合)が定めた3,840×2,160ピクセルの「4K UHDTV」と、米国映画作成団体のDCI(Digital Cinema Initiatives)が定めた4,096×2,160ピクセルの「DCI 4K」という、2つの規格がある。前述のとおりAMD FirePro W8100は、4K UHDTVはもちろんDCI 4Kもサポート済み。W8100とW9100の両者は価格も約2倍の開きがあることを踏まえると、安価に抑えつつもプロフェッショナル現場に必要な性能を求める、4Kコンテンツ制作者や企業には絶好のビデオボードである。

ディスプレイはシャープの「PN-K321」を使用しているため、デスクトップ解像度は3,840×2,160ピクセルとなる

高パフォーマンスを打ち出す「AMD FirePro W8100」

それでは、ベンチマークに取りかかろう。なお、ベンチマークに用いたPCのスペックは以下のとおりである。肝心のベンチマークはAdobe Premiere Pro専用のPPBMを用いることにした。どなたでも使用できるため、ご自身の環境にAdobe Premiere ProおよびAdobe Media Encoderをインストール済みの方は下記のベンチマーク結果を比べてほしい。なお、今回はAdobe Premiere Pro CC 2014を使用するが、同CCや同CS6向けのプロジェクトファイルも用意されている。

本体には、米国テキサス州オースティンに本社を構えるBOXX Technologies社の3DBOXX 4920 XTREMEを使用。同社はVFXからゲーム、大学や公的機関から医療分野まで幅広くワークステーションを展開している。ベンチマークで使ったマシンは一世代前のモデルになるが、最新版の3DBOXX 4920 XTREMEでは水冷冷却ユニットを搭載するなど、パフォーマンスと安定性の両立をさらに追求している。ディスプレイには、IGZO搭載シャープの4K2K(3,840×2,160)「PN-K321」を設置。一台でも、開発や制作の現場における作業効率の向上が期待できるが、たとえば、3×3の9面で並べると企業のエントランスなどにも設置可能な180インチ相当の大画面デジタルサイネージとしても使える。

BOXX Technologies社の「3DBOXX 4920 XTREME」とシャープ「PN-K321」

SolidWorksやAutodesk 3ds Max、AutoCAD、Mayaなどクリエイターには馴染み深いツールも含むISV認証を受けている「3DBOXX 4920 XTREME」

必要に応じてボードも大きく増設でき、拡張性も高い。今回は、正規代理店であるトーワ電機株式会社BOXX事業部からお借りした評価機を使用

ベンチマーク用PCのスペック

CPU: Intel Core i7 4960X(6コア、3.6/4.0GHz)
メモリー: 32GB(DDR3 800MHz)
マザーボード: ASUS P9X79 WS
グラフィック: AMD FirePro W8100
HDD: 500GB(7200rpm SATA3)
OS: Windows 7 Service Pack 1 x64
アプリケーション: Adobe Premiere Pro CC 2014

PPBMはディスクI/OやエンコードスピードをAdobe Premiere Proのログファイルを元に測定するベンチマークツールのため、今回は動画再生エンジンであるAdobe Mercury Playback EngineをOpenCL(AMD FirePro W8100)とソフトウェアで切り替えて測定した。結果はご覧のとおり雲底の差である。

PPBMの実行例。エンコードに用いた時間などを用いてディスクI/Oやエンコード性能を測定する

Adobe Mercury Playback Engineで用いるレンダラーとして、OpenCLとソフトウェア処理を切り替えて測定した

PPBMによるディスクI/O結果。同こんのサンプルファイルのエンコードするため、GPU性能が大きく影響を及ぼしている

PPBMによるH.264エンコード結果。CPUのみのエンコード処理は10分以上必要だが、GPU性能を用いると1分程度で終えている

そもそもAdobe Mercury Playback Engineは、テロップやエフェクトなどのシーケンスもレンダリングせずに再生する描画エンジンだが、Adobe Premiere Pro CC以降はサポートするGPUを大幅に増やし、OpenCL対応ボードやNVIDIAのCUDA対応ボードなどが含まれている。

以前からAdobe Creative CloudシリーズはOpenCLをサポートし、GPU性能を際限なく引き出すための改善が進められてきた。このようなプロフェッショナル向けアプリケーションと、ハイエンドビデオボードであるFireProシリーズは好相性である。ちなみに、OpenCLは2013年11月にバージョン2.0を発表済みだが、AMD FirePro W8100は既に対応済み。2014年第4四半期にリリース予定のデバイスドライバーで完全対応する。

Adobe Mercury Playback EngineとしてGPUを選択すると、プログレスバーの進みはかなり速い

Adobe Photoshop CC 2014の設定ダイアログボックスでも、OpenCLの使用が確認できる。なお、OpenCL自体は同CS6からサポート済み

改めて述べるまでもなく、クリエイティブな制作環境で用いるPCは、CPU性能はもちろんWSレベルのハイエンドなGPUが欠かせない。4K映像編集を求められている制作会社やフリーのクリエイター方々は、PCのアップグレードによる作業効率向上を求めるのであれば、まずはGPUのアップグレードを選択してはいかがだろうか。最上位モデルであるAMD FirePro W9100ほど高価ではないため、プロフェッショナルのニーズに十分応え、コストパフォーマンスもよいAMD FirePro W8100は、よき選択肢なるはずだ。