ドスパラで販売するPCを製造するサードウェーブデジノスが、プレス関係者などを対象に同社の綾瀬事業所を公開した。神奈川県綾瀬市に位置するこの施設には、ドスパラで販売するパソコンの生産を一手に担う工場があるだけでなく、通販事業の受注や店舗在庫、関連物流まですべてを統合しており、敷地面積も広大な大型事業所だ。ちなみに一昨年立ち上げたばかりだそうで、今回が初公開という。

サードウェーブデジノスの綾瀬事業所。日本通運の敷地内に同居しており、物流面での強みのひとつとなっている。神奈川県綾瀬市は、広大な土地と国内外への物流経路の利便性から、近年グローバル大手企業の進出も盛んな場所となっている

サードウェーブデジノスは、ゲーミングPCブランドの「GALLERIA」やクリエイターPCブランドの「Raytrek」など、ユーザー毎の様々なニーズに応える必要がり、そのぶん生産に手間のかかるBTOパソコンを取り扱いながらも、製品の品質と納期を武器に、他社との競争力に自信をにじませている。その理由が、この綾瀬事業所に込められた、"魂"なのだという。

ゲーミングPCの「GALLERIA」はじめ、同社のすべてのPCはここで生産している

事業所公開に先立ち、同社取締役社長の松野康雄氏は、「現場を見ても、何ひとつ特異なものはありません。この綾瀬では新しいことは何もやっていない。他社と比べても、敷地が何坪あるのか、生産ラインが何メートルなのかという違いしかありません」と説明した。では、何が異なるのか。「他社と同じように厳しい条件で事業をしている中、サードウェーブが元気な理由は、どの企業にも真似のできない"魂"です。仕事は魂をこめてやれば、絶対にうまくいくというのが私の信念です」と、同氏は語る。この魂は、一見しただけではわからない細かな工夫や配慮として、事業所内にちりばめられているのだという。

サードウェーブデジノス 取締役社長の松野康雄氏。事業所内には様々な工夫が施されているそうだが、企業秘密など気にせず、「"魂"は誰にもまねできないものだから、事業所内のどこでも、すべて記事で公開してもらって問題ありません」と自信をのぞかせていた

受注や物流で特徴のある綾瀬事業所

綾瀬事業所には、前述のとおり生産工場のみならず、通販事業や、店舗事業も含めた物流機能といったものまで、製品企画や営業系などの機能など、一部は東京のオフィスに置いているが、サードウェーブデジノスのビジネスに必要な機能の多くをこちらに統合している。

一昨年、綾瀬事業所を開きビジネスに必要な機能をほぼすべてこちらに統合した

パソコンのビジネスが薄利多売になりがちな昨今の状況で、国内にここまで統合すると、品質面では安心な一方、コスト面で不利になりそうにも見えるが、国内のこの場所にあるからこそ、特に物流のコスト競争力が随一なのだと松野社長は説明する。

地理的には、海老名IC至近であるとともに、羽田空港のアクセスも利用できるのが綾瀬だ。受注もすべて受けているので、例えば、受注があり、生産に入るにあたり、中国等の海外も含むサプライヤからのパーツ受け入れは、すべてここにダイレクトで集める。そのまま同じ場所の工場で生産し、ユーザーへの出荷も同じ場所からダイレクトで行うので、午前の材料入庫でいっぱいになった搬入/搬出倉庫部分は、その日の夜にはからっぽになる。材料に不足があっても、場所的に、海外便もアジアからなら当日注文で当日入庫も可能だ。

300坪くらいあるという大きな搬入倉庫。入庫する部材は、短くて数分、長くても半日でここからはけてしまうそうだ

この製品のオンタイムデリバリーと、在庫や材料のワンストップの体制により、在庫を余計にかかえる必要はほぼ排除でき、物流コストも余分がない。同社のパソコン事業では唯一、ドスパラの実店舗の店頭に在庫があるくらいで、それ以外のモノはこの綾瀬で日々まっさらになるように回転してさばかれていく。ちなみに実績として、同社のパソコンはほぼ全てを予定納期どおりの出荷を行い、一部、法人向けなどで納期都合もあるが、ほとんどが2日間での出荷となっている。国内の綾瀬に一極集中し、一元管理しているからこそできることだ。

綾瀬事業所のメイン倉庫。搬入部材が運び込まれ、ストックされる。およそ700種類、20万点を在庫しているそうだが、ここですらひと月に1.5回転という入れ替わりの早さ。在庫は持たないで、サプライチェーンを活かした回転率でコスト競争力を高めている

同社のパソコンは100%受注生産であり、パーツひとつから、完全受注で、そのユーザーのためだけの製品をつくる必要があり、そのため製品仕様はユーザーの数だけある。上記の綾瀬事業所の取り組みは、これをいかに最適化できるのかを追い求めたものだという。シェアや生産規模で世界のナンバーワンを目指すのではなく、"そのユーザーのためだけの製品をつくる"という特異な取り組みで強みを最大限発揮して、「オンリーワンを目指している」(松野社長)という考えに基づいたものだという。

入庫したパーツはすぐに荷解きされ、ピッキング用のブースに振り分けられる

製品ひとつひとつ毎のカートに、バーコードを読み取りつつ必要パーツをピッキングし、そのまま生産工程へと移る

品質と効率に配慮した生産工場

生産工場部分では、複数人で作業分担して製造するライン方式と、ひとりが最後まで製造するセル方式を組み合わせた方式を採用していた。ベーシックな仕様のデジノスPCなどは、工程の効率化が可能であるぶん、生産スピードに優れるライン方式で生産し、尖った仕様で工程も難しいGALLERIAやハイエンドモデル、最新モデルなどは、モデルや状況に応じて、ライン方式とセル方式を使い分けるという振分けだ。スタッフの熟練度に応じて、高度なスキルを持つスタッフはセル中心に配置したり、受注状況に応じてセルとラインの配置を柔軟に振り分けるなどし、効率化と品質向上を両立させる工夫をしているそうだ。

複数人で組み立てパートを分担して製造するライン方式。ラインの上流から下流にPCが流れるにつれ、あっというまにPCが出来上がっていく

こちらはハイエンドモデルなどを組み立てるセル方式。ひとりが最後まで、じっくりとPCを完成させていく

こちらのセルではノートパソコンを製造していた。女性の方がきめ細かい作業が得意という傾向があるそうで、特にノートのセルには女性スタッフが多いそうだ

組み立てが完了したPCは、そのまま同社独自のシステムセットアップ+検査ツールのチェック工程を経て、最後に人による細かいチェックの後、梱包、配送の部門へと送られていく。この際、万が一、製造上の不具合が見つかると、製造部門のすぐ隣にあるリペア担当の部門がすぐに対応し、その場で製造部門にフィードバックを行うことで、不具合によるタイムロスを減らすことに貢献している。さらに、ユーザー出荷後の製品修理を担当する部門も隣接しており、相互にデータ共有を行うことで対応力を強化している。

システムセットアップ+検査ツールによるチェックを行っている。最後は人の手で細部のチェックも実施していた

製造部門のすぐ隣にあるリペア担当部門の様子。製造上の問題が発生するとここですぐに対策を打つことになる

リペア担当部門のすぐ隣はユーザー出荷後の製品修理を担当する部門になっており、市場に出る前と出た後の不具合を共有し、品質向上に役立てる体制を整えている

こういった仕組みとしての工夫で、品質と効率を高めているわけだが、松野社長は何より、「人に自信がある」とも話していた。ここも日本国内の綾瀬で取り組んでいるからこその部分だろう。セル方式の生産では、担当者のスキルの向上がイコール品質の向上であると考えているといい、綾瀬事業所では「人を徹底的に鍛える」ことを重視しているのだそうだ。「ハイエンドモデルの品質には絶対の自信がある。初期不良ゼロとまで言うと物理的に無理だが、日本一の品質という自信がある」と話していた。先ほどの製造上の検査での不具合率が相当少ない上に、さらに修正プロセスをはさんで出荷としていることが、品質への自信を裏付けているのだろう。

すべてをクリアしたパソコンは、このあとラベリングやクリーニングを経て、付属品とともに梱包。出荷のため搬出口へと運ばれていく。最速では朝入ってきた部材が、夕方には製品となって運び出されていくわけだ

サードウェーブデジノスが運営する上海問屋の製品も並んでいた。およそ3,000種類、数万点の取り扱い製品のすべてがここにある。通販の受注はここで受け付け、ユーザーへダイレクトで発送している。秋葉原の店舗への出荷もここからだ

ドスパラのPCパーツ通販も同様、在庫、受注から出荷までここですべてを手がけていた。注文があれば、すぐに倉庫からピックアップしシュリンクまで済ませ出荷

パソコンの場合、特にデスクトップなどは、規格化されたスペックと、価格の違い、あとは納期程度がユーザーの判断材料のすべてになりがちだ。パソコンは、買うときも悩みは多いが、買った後の方が長く付き合うことになる。同社のこういった取り組みから生まれる信頼感といったものも見えてくると、また違った判断材料となり得ることだろう。

ちなみに今回、事業所内で「Diginnos Tablet DG-D07S/GP ラブライブ!モデル」の天板サンプルを発見(製品情報はこちら)。キャンセル再販待ちの人気製品となっており、実物は貴重
(c)2013 プロジェクトラブライブ!

「GALLERIA ドラゴンクエストX エディション」もあった(製品情報はこちら)。定評あるゲーム推奨PCとともに、最近の同社はキャラクターデザインの製品にも力が入っているようだ
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