マルチデバイスの普及によりワークスタイルの変革が着々と進行する一方、企業にとってはインフラ整備やストレージの重要性が非常に高まっている。本稿では、「J-PHONE」端末のサービス開発に携わり、「着メロ」「写メール」など、さまざまなケータイサービスの“業界初”を生み出してきたクラウディアン株式会社 代表取締役 CEO 太田洋氏に、今注目のオブジェクトストレージについて大いに語っていただいた。
経済的で汎用性の高いストレージが必要な時代
──クラウディアンを設立したきっかけについて教えてください
太田氏 私は以前、J-PHONE端末から利用するサービスの開発を行っていました。「スカイウォーカー」というショートメッセージングサービス(SMS)を初めて実現したほか、天気やニュースを閲覧できる「スカイウェブ」、着信メロディサービスの「スカイメロディ」、「写メール」の基となる「J-スカイ」なども提供しました。
もともと電話というものは、電話をかけた“時間”、電話のある“場所”に相手が居なければコミュニケーションが成立しないものでした。携帯電話の登場によって、私たちは場所の制約から解き放たれました。これに蓄積型のメールが加わることにより、時間の制約からも解放されたのです。
これらの制約がなくなったことにより、コミュニケーションの範囲は大きく広がりました。相手も会話の数も増えていくと、次に効率のよいコミュニケーションが求められるようになります。そこで登場したのが、ある場所に皆が集まるコミュニティという考え方で、今の「SNS」の基となったものです。そして、これらのコミュニケーションのデータがネットワーク上に貯められるようになり、「クラウド」の世界へと発展していったと感じています。
その後、私はいったんJ-PHONEを離れ、日本で生まれたケータイサービスをグローバルに展開するため、共同創設者のマイケル・ツォーと共にクラウディアンの前身となる会社を設立しました。そこで開発したメッセージングシステムは、世界中で現在でも利用されています。
このシステムは、ピーク時には加入者数千万人のトランザクション、ビッグデータレベルの処理を行うハイパフォーマンスを実現し、かつ厳しい日本の品質要求に応えるキャリアグレードのものです。
ストレージというものは、保管されているデータを“絶対に”守らなければならないミッションクリティカルなシステムです。「Cloudian」には、そこで培ってきた経験・技術・ノウハウが生かされています。
── なぜCloudianを開発しようと考えたのですか
太田氏 私が強い思いを抱いている“メール”というものは、そもそもはメールボックスからダウンロードしたらメッセージデータをどんどん消していく、ストア&フォワード方式のシステムです。つまり、データベースがあまり大きくならないように設計されています。
しかし一方で、スマートフォンやタブレットの普及が象徴するように、マルチデバイスから1つのメールを扱いたいというニーズが生まれました。そこで発想を逆転し、すべてのメッセージをメールボックスに保管し続けるWebメールサービスが登場したのです。
Yahoo!メールやGmailなどは、1人あたり数GBもの容量を無償で提供しており、利用料を支払えばもっと大きなサイズを持つこともできます。彼らは、非常に経済性の高いストレージシステムを保有しており、従来のストレージ方式では太刀打ちできません。
当時、私は“コミュニティ”をテーマとしたサービスの開発に関わっており、またIDCの予測やスマートフォンの普及を考えると、インターネット上のデータが爆発的に増えることを想像していました。そこで私たちは、メールボックスだけでなく広範な用途に利用できる経済的な汎用ストレージシステムのほうが世の中に受け入れられると考え、Cloudianの開発に着手したのです。
── 「データ」の重要性は今後も高まるのでしょうか
太田氏 以前、先輩から「偏りがあるから経済が動く」という言葉を聞いたことがあります。ある“モノ”を持っている者は、それを持っていない者へ売ることができます。いずれ偏りは平坦になるのでしょうが、そこに至る過程が経済の動きというわけです。
その“モノ”が“情報”になってきています。通信技術の発達で世界中へ情報を送ることができるようになり、偏在した独自のデータを保有することが大きな価値を持つ世の中になりつつあるのです。
現在は、人が情報を生み出し、人がその情報を活用しているという状況です。しかし今後、IoT(Internet of Things)ということばのとおり、機械が情報を生み、機械がそれを受け取って活用するようになると、データはより一層増えていくでしょう。
今後のビジネスは、情報/データの価値を認め、どれだけ活用できるかどうかという点が重要となります。したがって、ストレージシステムだけでなく、分析や検索などの“使う”という部分ももっと進化しなければならないと考えています。
将来性の高いオブジェクトストレージ技術
── オブジェクトストレージ技術の特徴を教えてください
太田氏 最大のポイントは「分散ストレージ」であることです。場所を問わず、世界中にデータを蓄積することができます。
情報をビジネスに活用するためには、パブリックなものであれプライベートなものであれ、いたるところにあるさまざまなデータを有機的につなぎ合わせ、自在に使えるような世界が望ましいと考えています。
そのためには、分散という考え方が非常に重要です。NASやSANのような従来のストレージ技術はデータセンターなどの場所に依存しており、分散環境を作ることができません。
もう1つのポイントは、コモディティハードウェアを最大限に活用できるソフトウェアベースの技術であることです。データの増加に伴ってコストも増大するようなシステムでは、情報の価値に見合いません。経済的なストレージシステムを構築するためには、「コモディティ化」が非常に重要です。
コモディティというと、“安かろう悪かろう”とイメージする人も多いのですが、まったくそのようなことはありません。汎用品というものは、経済的にも品質的にも高いレベルでないと受け入れられないためです。
多くの企業では、データは失われてはならないものとして捉え、ストレージに莫大な投資を行っています。そのため、コモディティ製品など選べないという考えに凝り固まってしまっているのです。
しかし、Cloudianを採用しているクラウドストレージサービスには”イレブン・ナイン”の堅牢性を売りとするものもあり、経済性と安全性を両立した技術であることが認められています。そうした新しいストレージ技術が登場していることを知っていただきたいと考えています。
── 既存のストレージ技術は限界が来ているのでしょうか
太田氏 オブジェクトストレージは、書き換えや更新頻度の高いデータの扱いには向いていません。更新処理速度が重視される基幹業務システムの現場などでは、既存のブロックストレージが必要です。
今では、速さが重視される領域ではフラッシュメモリ技術、大容量でリモートアクセスが求められる領域ではオブジェクトストレージ技術という棲み分けが起きつつあります。中間に位置するNASやSANなどのファイルストレージが、今後どの方向に向いていくかは、注目すべきところでしょう。
オブジェクトストレージは、経済性や分散化、さまざまな非構造化データの保管という面で、伸びしろが非常に大きな優れた技術だと考えています。会社のファイルサーバや家庭のデスクトップPC、スマートフォンなどに分散しているデータへリモートからアクセスし、有機的につなぐことができる可能性を持っているのです。
Cloudianセミナーで革新的なコラボレーションアプリをチェック!
── 今後の戦略について教えてください
太田氏 ユーザーがCloudianのメリットを理解しやすく、またもっともっと使いやすく、身近な製品にすることが重要だと考えています。そのためには、パートナー戦略の強化が重要です。開発ベンダーが、Cloudianを活用して魅力的なアプリケーションを開発することができれば、ユーザーも大きな価値を享受することができるからです。
今は、複数のストレージ技術を適材適所で採用することが重要な時代ですから、どう使い分けるべきか、どのような用途が最適かといった技術や情報を提供していくことが、日本のオブジェクトストレージ製品市場のリーダーである私たちの義務であると考えています。
6月2日に開催される「Cloudianセミナー2014」では、Cloudianのアップデート情報や新ラインナップであるCloudianのハードウェアアプライアンス「FlexSTORE」の紹介のほか、IDC Japanの森山正秋氏やインテルの田口栄治氏に、ストレージ市場や分散ストレージ技術のトレンドについて語っていただきます。
また、Cloudianを活用した革新的なアプリケーションの事例として、一太郎で有名なジャストシステムの創業者で、現在はMetaMoJi(メタモジ)社の浮川和宣社長に「ShareAnytime」についてデモを交えてご紹介いただく予定です。これは、あたかもホワイトボードのようにタブレットに手書き文字を書き込み、会議参加者で共有できる非常に面白い画期的なソフトウェアです。ぜひセミナーに参加して、ご自身の目と耳でチェックしてほしいですね。
Cloudianセミナー2014
http://cloudian.jp/news/event_details/20140602.php