科学技術振興機構(JST)は2013年12月21日~22日、国立オリンピック記念青少年総合センター(東京都渋谷区)において、「第1回 科学の甲子園ジュニア」の全国大会を開催した。各都道府県で選抜された47チーム・281名の中学生が出場し、理科や数学を舞台に熱戦を展開。滋賀県代表チームが見事、初代王者となった。

開催場所は甲子園…ではなく国立オリンピック記念青少年総合センター

科学の甲子園は理科と数学の知的競技。"実技"として化学実験もあった

科学の甲子園ジュニアとは?

「科学の甲子園ジュニア」は、高校生を対象として2011年度より実施している「科学の甲子園」の中学生版。科学の甲子園については、昨年のレポートを読んでもらった方が早いが、ひとことで言うならば、科学の知識や応用力を競う大会である。野球などと同じようにチーム競技なので、コミュニケーション能力、そしてリーダーシップとフォロワーシップも重要だ。

「ジュニア」の方は今回が初開催となるが、各都道府県で行われた選考会には、15,000名を超える参加があったという。基本的なコンセプトは高校生向けと同じだが、高校生向けが学校単位のチーム編成であったのに対し、「ジュニア」では混合チームも認められているのがちょっと違う点だ。実際、メンバー全員が異なる学校だというチームもあった。

競技は、筆記競技(1競技/300点)と実技競技(2競技/各300点)があり、その合計点で順位が決まる方式だ。1チームは6名で構成。実技の2競技は別会場で同時に実施されるため、3名ずつに分かれて参加する。前述のように、科学の甲子園はチーム競技なので、実技競技はもちろん、筆記競技中であってもメンバー間で相談することが可能だ。

各競技の課題は、公式WEBサイトにて公開されているのだが、これを見てみると、かなり応用力が問われていることが分かる。筆記競技の中に、暗号を解読させる問題まであるのは面白い。筆記競技については非公開であったため、本レポートでは以下、実技競技の模様について紹介する。

実技競技1「大江戸mathにてとり分けmass!?」

1つめの実技競技は、古来からある和算の「油分け算」がテーマ。この油分け算というのは、大きさの違う枡(マス)を使って何度も入れ替えながら、最終的に油を等分するというものだ。通常の油分け算は3つの枡で2等分するのだが、実技競技1ではこれをアレンジ。なんと4つの枡で3等分するという難問になっていた。

実技競技1の説明動画

使用する枡は、A(0.7L)、B(1.1L)、C(2.0L)、D(2.7L)の4種類。最も手数が少ない方法がベストな方法となるが、今回の枡のケースでは、これは「9手」になるという。この手順は何通りもあるので、考えてみるといいだろう。

実技競技1では、油の代わりに、直径6mmの「黒豆」(実際にはプラスチック製)が使用された。これだとどうしても隙間が生じ、それが誤差となってしまうため、なるべく密度を上げられるように、取り分け時の充填方法を工夫する必要がある。競技の順位は、手数のほか、早さや誤差も考慮されるので、理論だけ良くても駄目なのだ。

黒豆だとどうしても誤差が発生する。これをどう抑えるかもポイント

充填方法の例。別の枡などを使い、力を加えて押しながらすり切る

これが使用する枡。4つの枡で、2.7lの黒豆を0.9lずつに3等分する

会場の様子。難問のため、実演までたどり着けなかったチームも多かった

実技競技2「発泡入浴剤を作ろう」

もう1つの実技競技は化学分野から出題。テーマは発泡入浴剤だ。クエン酸と重曹(炭酸水素ナトリウム)を混ぜて発泡入浴剤を作り、水に溶かすと二酸化炭素が発生する。クエン酸と重曹の配合次第で発生する二酸化炭素の量が変わるが、オリジナルの発泡入浴剤10gを準備して、なるべく大量の二酸化炭素を発生させるのがこの競技の目的だ。

実技競技2の説明動画

最適な配合は、クエン酸と重曹の分子量と、水を加えたときの化学反応式が分かれば計算だけでも求めることは可能であるが、そういったことはまだ学校で習っていないため、今回の競技では、実験的な手法でこれを割り出す。

まず、配合を変えた5種類の試料を用意して水に溶かす。発生した二酸化炭素の量をグラフにすると、2本の直線を描くことができる。このとき、一方の直線はクエン酸が余った状態で、もう一方は逆に重曹が余った状態である。そしてこの交点、つまり、どちらも余らずに反応し切る配合が求めていた答えで、クエン酸が4.5g、重曹が5.5g程度となる。

最適な配合が分かったら、最後に実験で、発生した二酸化炭素を袋に集め、体積を調べた。生徒の最高記録は1.4lで、これは主催者側の事前実験の数値に近く、とても優秀であるとのことだ。

実験で使うセット。電子天秤や電卓も用意されており、自由に使える

5種類の試料は自分で配合を考える。正確に実験する能力も重要だ

ポリ容器の中に捕集袋が入っており、二酸化炭素の体積分だけ水が溢れる

こちらのチームは、化学反応を促すために、手で暖めているようだ

大混戦の中、優勝は滋賀県チーム

各競技の結果は以下の通り。

  • 筆記競技: 1位(愛知県)、2位(福岡県)、3位(滋賀県)
  • 実技競技1: 1位(静岡県)、2位(滋賀県)、3位(秋田県)
  • 実技競技2: 1位(福井県)、2位(神奈川県)、3位(奈良県、広島県)

上位チームがほぼバラけた混戦の中、筆記競技で3位、実技競技1で2位につけた滋賀県チームが総合優勝。以下、2位が兵庫県チーム、3位が広島県チームという結果になった。優勝した滋賀県チームは、滋賀大学教育学部附属中学校と栗東市立葉山中学校の混合チーム。大会前には1~2回しか会えなかったそうだが、キャプテンの前川美月さん(2年)は、「チームワークが良かった」と勝因を分析した。

優勝した滋賀県チーム

2位の兵庫県チーム

3位の広島県チーム

表彰式後に開催された記者会見において、JSTの中村道治理事長は「科学の甲子園は、チームワークで問題にあたるのが特徴。今日、サイエンスの世界でも企業の世界でも、様々な能力を持った人達がお互いの強いところを出し合い、チームで課題を解決することが重要だと言われており、今後ますますそうなるだろう。だから我々は科学の甲子園をチーム競技とした」と狙いを説明。

今回のジュニアについては、「初開催ということで不安もあったが、成功裏に終了できてほっとしている」と感想を述べた上で、「彼らが20~30年後の日本や世界を担う人材。彼らの中から、科学分野でノーベル賞を受賞したり、新たに科学イノベーションを起こしたり、ベンチャー企業を立ち上げたりする人材が出てくる。そういう人材が育つことを期待する」と出場者にエールを送った。

JSTの中村道治理事長

科学の甲子園ジュニアは、引き続き2014年度も開催される予定。11月下旬~12月上旬に開催される見込みの全国大会に出場するためには、まずは各都道府県で代表に選抜される必要があるので、興味があれば、WEBサイトの情報をチェックして、代表選考会に申し込むところから初めてみてはいかがだろうか。