KDDI 山口衛星通信センター センター長 河合 宣行氏

KDDIは11月21日、人工衛星を利用した国際衛星中継が23日に50周年を迎えたことに合わせ、記者説明会を都内で行った。

人工衛星を介して初めて行われた国際映像伝送は、1963年11月23日。ちょうど半世紀前に当たるが、このときに中継された映像をご存じの方は居るだろうか。

今秋、キャロライン・ケネディが駐日米国大使として着任したが、50年前のその日、キャロライン・ケネディの父であるジョン・F・ケネディ元大統領が凶弾に倒れたというニュースが最初の映像伝送であった。50年後のこのタイミングでキャロライン・ケネディが駐日米国大使として着任するのは何かの巡り合わせかとも思える出来事だ。

衛星通信の取り組み。下の動画は映像にまとめたもの

話が少しズレたが、その後は映像伝送だけではなく、通信手段としても人工衛星は利用され、90年代までは国際通信の要の存在であった。しかしながら、1989年に光海底ケーブルが敷かれたことを皮切りに、大容量通信が可能な海底ケーブルに多くのトラフィックが移った。そして現在の衛星は、放送や移動体の通信がメインに切り替わっている。

技術の歴史。カセグレンアンテナは世界で初めて商業利用された物で、その後多くのパラボラアンテナとして採用された

それに合わせて、KDDIは茨城と山口の2カ所で運営していた衛星通信所を2007年に山口へ機能を集約している。山口衛星通信センターは日本最大の衛星地球局センターとなっており、全20基のパラボラアンテナが現在も稼働している。詳しくは取材記事「【レポート】パラボラが20基!日本最大のKDDI山口衛星通信センターに潜入!(画像77枚)」を参照してほしい。

人工衛星を利用した国際伝送路は、固定衛星通信(インテルサットなど)と移動衛星通信(インマルサットなど)の大きく2つに分かれる。インテルサットは主に固定された地球局同士を繋げる役割として利用されており、下り最大100Mbpsの通信速度を誇る。なお、この最大通信速度は長らく横ばい傾向にあったが、情報通信研究機構(NICT)などが現在、下り最大1Gbps程度の実験を行っている。

一方で、移動衛星通信のインマルサットは、小型基地局との通信向けに利用されており、データ速度は最大でも492kbps程度にとどまる。しかしながら、インテルサットの地球局は巨大なパラボラアンテナが必要なケースが多いのに対し、こちらはBGANと呼ばれる小型アンテナでも受信することが可能だ。1~2kgのA5~A3サイズで、通信環境が整備されていない砂漠地域などでも利用できる。ほかにも、データ通信ではない音声端末として利用されているイリジウム携帯電話なども存在する。

ただ、移動衛星通信で一番利用されている環境といえば船舶との通信だろう。外航船舶の遭難・安全通信に利用されており、いざという時の命綱になる。近年では、豪華客船向けのブロードバンドサービスも提供されており、最大で数Mbpsの通信環境を提供している。ただし、豪華客船向けは"インテルサット"ではなく、固定衛星通信の"インマルサット"向けの電波を利用しているのだという。

また、移動衛星通信の最も重要な役割と言えるのは「災害時の代替インフラ」である。記憶に新しい2011年3月11日の東日本大震災では、携帯基地局の一部がケーブルの破損や電源喪失などで機能しなくなり、代わりに衛星通信を行う車載型基地局が地域の通信手段となった。この教訓を生かして、今後は船舶搭載型の基地局展開も計画されており、実証実験も行われている。

質疑応答では、衛星通信でも競合するNTTドコモやソフトバンクとの優位性について質問があった。発表を行ったKDDIの山口衛星通信センターでセンター長を務める河合 宣行氏は「(日本一の規模を誇る)山口衛星通信センターを主体としたサービス運営が最大の強みと考えている。カバーしているエリアの範囲だけではなく、品質面や対応力が大きく違う」と答えた。