9月20日に販売が開始されたアップルのスマートフォン新製品「iPhone 5s」「iPhone 5c」。今回からドコモがiPhoneの取り扱いを開始したことで、家電量販店の携帯売り場は各キャリアとも新型iPhone一色になっている。しかし、そんな中、1年前に発売された「iPhone 5」がいまだに売れているという。新型iPhoneが登場したにもかかわらず、なぜiPhone 5がまだ売れているのか? 本稿では、その背景を探るとともに、注意すべき点について紹介したい。

全国の家電量販店の実売データを集計した「BCNランキング」が、9月25日に発表した携帯電話ランキング(集計期間:9月16~22日)では、20日に発売されたばかりのiPhone 5s/5cがランキングに登場し、各キャリアが販売するiPhone 5sのうち7機種がトップ10入りする結果となっている。しかし、3位にランクインしているのは、前モデルであるKDDI版iPhone 5 16GBであり、さらにソフトバンク版iPhone 5 16GBも5位に入っている。

iPhone 5s(左)とiPhone 5c

前モデルであるiPhone 5がランクインした要因としては、iPhoneが他のスマートフォンと比べて息が長く、1年前の機種であっても見劣りしないためという点も挙げられる。だが、もっとも影響を与えたと思われるのは、販売店によるiPhone 5の"在庫処分セール"だ。各販売店はキャッシュバックなどを付けることで、残りのiPhone 5を売り切ることに必死のようだ。

そもそも、各キャリアのiPhone 5s/5cは、16GBであれば新規契約・MNPの場合の実質負担額は0円となっており、新モデルであっても入手しやすくなっている。そこで、前モデルのiPhone 5を売り出すために用いられているのが、端末の一括価格の値引きと、現金やポイントによるキャッシュバックだ。

秋葉原のとある家電量販店のKDDI(au)担当に聞いたところ、iPhone 5の在庫は「まだ、ある」とのことで、新規契約の場合はiPhone 5とiPhone 5sで料金は大きく違わないが、MNPの場合、iPhone 5 16GBであれば2万円分のポイントがキャッシュバックされ、さらに端末を一括1円で購入できるため、「トータルで約6万円、(iPhone 5sよりも)安くなる」ということだった。

たしかに、値引きやキャッシュバックで数万円安くなるというのは魅力的であり、「そこまで機能が変わらないなら、iPhone 5でもいいか」と思ってしまう消費者もいるかもしれない。しかし、とくにKDDIを利用している場合、iPhone 5とiPhone 5s/5cでは、利用できるネットワークに大きな違いがあるため注意が必要だ。

新モデルのiPhone 5s/5cでは、iPhone 5が非対応だった800MHz帯のLTEも利用可能となっている。800MHz帯はプラチナバンドと呼ばれる周波数帯で、つながりやすいことが特徴。日本では、ドコモとKDDIが800MHz帯でLTEを展開しているが、とりわけ800MHz帯を熱心にアピールしているのはKDDIだ。KDDIが20日に開催したiPhone発売イベントにおいても、同社の田中社長が「プラチナバンドLTE」の利点を述べ、ネットワークに自信を見せていた。

それだけに、800MHz帯のLTEに対応していないiPhone 5をキャッシュバック付きで大々的に売り出すことには疑問を感じる。KDDIは2013年5月に消費者庁からLTEの広告表示について措置命令を受けたが、これは「受信最大75Mbpsの超高速ネットワークを実人口カバー率96%に急速拡大。(2013年3月末予定)」と広告に表記し、「iPhone 5を含む」としていたものの、実際にはiPhone 5は対象機種ではなく、3月末時点でのiPhone 5の下り最大75Mbpsエリアの実人口カバー率はわずか14%だったという。このLTEエリアの狭さの要因となっているのが、iPhone 5が800MHz帯に対応していない点だ。そのため、800MHz帯に対応した新モデルのiPhone 5s/5cでは、KDDIのLTEエリアの狭さは解消されている。

一方、ソフトバンクもiPhone 5を売り続けているが、同社がLTEを展開しているのは、iPhone 5でも利用できる1.7GHz帯、2GHz帯のため、現時点ではiPhone 5とiPhone 5s/5cでは利用できるネットワークに違いはない。しかし、2014年4月にソフトバンクはプラチナバンドの900MHz帯でのLTEサービスの開始を予定しているため、その頃になればiPhone 5と新モデルのネットワーク品質に違いが出てくるかもしれない。

3キャリアのiPhone 5s/5cで利用できるLTEの周波数帯をまとめると、ドコモとKDDIは、2GHz帯に加えて、プラチナバンドの800MHz帯。ソフトバンクは2GHz帯と1.7GHz帯となる。さらに、ドコモは2013年10月より東名阪エリアで1.7GHz帯のLTEサービスを開始する予定だ。通信が混雑しがちな都市部に対応したもので、同周波数帯でのサービスが開始すれば、ドコモ版iPhone 5s/5cは、3つの周波数帯のLTEに対応することになり、他社を一歩リードする。

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iPhone 5s/5cが発売されたにもかかわらず、いまだに売れているiPhone 5。その背景には、キャッシュバックを付けてでもiPhone 5の在庫を処分したいという販売店の思惑があるようだ。しかし、Twitterなどでは「KDDIは800MHz帯をアピールするなら、同周波数帯に対応しないiPhone 5を販売停止すべき」という声も見られる。数万円のキャッシュバックはたしかに魅力的かもしれないが、iPhoneを購入する際は、目先のオトクにばかり釣られずに、長期的な視点で冷静に判断したいところだ。