ロボット導入がもたらす付加価値は4兆円以上

続いて講演を行ったのが、菅野教授だ。早稲田大学はロボット、とりわけヒューマノイドに対する学術的な研究の歴史は世界で最も古く、伝説的な存在である故・加藤一郎博士が1960年代にスタートさせ、早稲田大学発のヒューマノイドロボット「WABOT(WAseda roBOT)-1」(画像5)の誕生が1973年、脚部のみの2足歩行ロボット「WL(Waseda Leg)-1)」(画像6)の誕生はさらに遡って1967年だが、最初の義手や義足の研究をしていた時代から数えると約50年になり、菅野教授はその加藤博士に師事した経歴を持つ。

画像5(左):加藤博士らによって開発された早稲田大学初のヒューマノイドロボットのWABOT-1。画像6(右):WABOT-1より以前に開発された二足歩行ロボットのWL-1

また菅野教授は、つくば万博で鍵盤楽器を演奏した「WABOT-2」(画像7)を改良した「WABOT-2mkII」(画像8)を開発した人物である(以前、WABOT-2を早稲田大学西早稲田キャンパス63号館に静態展示されていると紹介したが、正確には親指部分が改良され、ピアノも弾けるようになったWABOT-2mkIIだそうである)。近年では、人間共存ロボット「TWENDY-ONE」(画像9)の開発でも知られている人物だ。TWENDY-ONEに関しては、研究室見学ツアーの記事で紹介しているで、気になる方はそちらをご覧いただきたい。

画像7(左):つくば万博で鍵盤楽器を演奏した早稲田大学の総力を結集したヒューマノイドロボット第2号のWABOT-2。画像8(中):菅野教授が改良したWABOT-2mkII。画像9(右):菅野教授の研究室で開発された人間共存ロボットのTWENDY-ONE

菅野教授は、まず自身が実行委員長を務める国際学会IROS2013についての紹介を行った。IROSは日本で1988年に誕生したロボットの国際学会であり、今回は2100件の応募の中で900件の論文が採択された。それらは、実際に使える技術、シミュレーションではなく実際に作られたロボットであることを重視して採択されたという。

なお、第1回以来四半世紀ぶりに今回の第26回は日本での開催となる。次の四半世紀に向かって、新たな時代を切り開きたいという。IROS2013は11月3日(日)~8日(金)に東京ビッグサイトでの開催となり、ロボットの国際展示会「2013国際ロボット展IREX(International Robot Exhibition)」との併催となる形だ(IREXの開催期間は11月6日(水)~9日(土))。

というわけで、菅野教授の講演の本題は「農林業へのロボットの展開」。経済産業省が今年発表した2011年時点でのロボットの市場規模は約6628億円(日本50%)だが、ロボット導入おける付加価値としては4兆円以上になるという、ロボット産業の現状からスタート。この付加価値で4兆円以上というのはわかりにくいかも知れないが、ロボットそのものが活躍しているのではなく、例えば先ほどのロボットカーのようにRTが応用されている製品が増えており(近年の自動車は非常にハイテク化していて、ロボット率がどんどん高くなっている)、そうした計算で産出されたものである。

そして現在もロボットが最も活躍している分野はいうまでもなくFA(Factory Automation)ロボット、いわゆる製造業で、非製造業やサービス分野への応用が今後期待されるところだ。なお、現在実用化されているロボットの技術は、基本的には1960年代の研究の成果だという(もちろん細かい部分には最新の技術は投入され、日進月歩で進化している)。