Microsoft Researchの統括責任者がOSチームへ

前述したMicrosoftの組織再編にあたり、何人かの重要人物がMicrosoftを退社している。Xboxの責任者だったDon Mattrick(ドン・マトリック氏)は既にZyngaの最高経営責任者となり、Microsoft Office担当プレジデントのKurt DelBene(カート・デルベーン)氏は退社。元Chief Technical Strategy Officer(最高研究戦略責任者)で、先頃まではCEOシニアアドバイザーであるCraig Mundie(クレイグ・マンディ)氏は予定どおり2014年に同社を去る予定だ(図06~08)。

図06 Interactive Entertainment Business担当プレジデントのDon Mattrick氏

図07 Microsoft Office担当プレジデントのKurt DelBene氏

図08 元最高研究戦略責任者だったCraig Mundie氏

図09 Microsoft Researchを立ち上げたRichard Rashid氏

いずれもプレスリリースで明らかになった人事情報だが、個人的に最も興味深いのが、Microsoft Researchの統括責任者であるRichard Rashid(リチャード・ラシッド)氏の異動である。Microsoft researchの公式ページからリンクをたどれるGeekWireも記事にするとおり、"Microsoft Researchの父"と言えるRashid氏の人事異動は、企業の顔となる人物がいなくなるに等しい(図09)。

そもそもRashid氏はカーネギーメロン大学で教授職を勤め、アメリカ国防総省の肝いりで始まった新OSのカーネルとなるMach(マーク)の開発に大きく携わった人物だ(実装はAvadis Tevanian Jr《アバディス・テバニアン・ジュニア》氏らが行っている)。同氏がMicrosoftに入社する際、Microsoft Researchの設立と独立性を保証させたのはあまりにも有名な話である。

図10 新たにMicrosoft Researchの統括責任者となったPeter Lee氏

今回の組織改編でMicrosoft Researchの統括責任者は、Microsoft Research USAのトップであり、コーポレートバイスプレジデントであるPeter Lee(ピーター・リー)が席に着くと言う。同氏はカーネギーメロン大学の副学長兼コンピューターサイエンス部長を務め、ソフトウェアの信頼性やプログラム解析、セキュリティなど数多くの研究を行ってきた人物である(図10)。

同氏のプロフィールはMicrosoft ResearchのWebページで確認できるが、米国防総省の国防高等研究計画庁(DARPA)に委員会に参加するなど、錚々(そうそう)たる経歴を持つ。Lee氏はもともと研究畑の人物であり、奇しくもRashid氏と同じカーネギーメロン大学と所縁(ゆかり)が深いため、少なくとも数年の間はMicrosoft Researchの方向性や研究内容に影響を及ぼすことはないだろう。

Rashid氏は1951年生まれだから、既に還暦を超えている。冒頭で述べた各役員と同じように第二の人生を歩む選択肢もあったはずだが、Ballmer氏が発した電子メールを元に発表されたプレスリリースを読むと、「Rick return to his roots in OS」とRashid氏が「Operating Systems Engineering Group」へ異動し、OSのコアテクノロジー開発に携わることを明らかにしている。Machの設計思想に携わり、20年以上にも及ぶ研究所の責任者を務めてきたRashid氏がWindows OSへどのような影響を及ぼすのか実に興味深い。

阿久津良和(Cactus