初めての東京予選が開催

ロボットを用いたレスキューコンテストである「第13回レスキューロボットコンテスト(レスコン)」の東京予選が、7月7日に浅草寺に近い東京都立産業貿易センター台東館にて実施されたので、今回はその模様をお届けする。

レスコンがどんな内容のコンテストかは、ルールなどを以前解説しているので、そちらを読んでいただくとして、簡単に説明すると、ロボットを駆使して被災地を模したフィールドの中から、ガレキに埋もれた要救助者を模したスポンジ製のセンサ付きレスキューダミー人形、通称「ダミヤン」(画像1)を「やさしく」救出するという内容のレスキューコンテストである(画像2)。

画像1。レスキューダミー人形のダミヤン。センサ内蔵で、粗雑な救助をすると、それがすぐにわかる仕組み

画像2。レスコンは、ロボットを駆使したレスキューコンテストである

意味合い的に差がわかりにくいかも知れないが、「レスキューが題材のロボットコンテスト」というよりは、「ロボットを駆使するレスキューコンテスト」である。ロボコンはロボコンだが、レスキューに主眼が置かれており、単にダミヤンを救出し、そのかかった時間などや得点で順位を競うのではなく、どれだけやさしく救出できるか、どれだけ実際の被災現場と考えてレスキューチームとして行動できるか、そしてロボットはそれらのことを考慮して開発されているか、ということを総合的に問われるコンテストなのである。

東京予選が実施されるのは今回が初めてで、参加チーム数は6チーム、その内4チームが初参加という形で行われた。これまでは本拠地の神戸で予選と本選が行われていたため、予算的なものや時間的なものもあって東日本からはなかなか参加が難しかったが、東京予選が開かれるようになり、首都圏だけでなく、東海地区からも参加しやすくなったというわけだ。

それでは、今回の参加チームを紹介しよう。

  • 特別救助隊産技荒川隊(東京都立産業技術高専 荒川キャンパス)
  • RMF rescue(電気通信大学 ロボメカ工房)
  • S.R.T.(湘南工科大学 ロボット技術研究会)
  • MRF(明星大学)
  • レスキューやらまいか(静岡大学 ロボットファクトリー)
  • 長湫(ながくて)ボーダーズ(愛知工業大学)

この内、長湫ボーダーズとレスキューやらまいかは過去の大会に参加経験があり、残りの4チームが今回初参加、というわけだ。なお、S.R.T.に関しては、予選に先立って行われる書類審査によって評価され、特別協賛枠に選ばれて本選への出場が決定している(本選出場が決定していても、予選にも参加しないとならない)。

そして、東京予選から本選に進出できる「ポイント獲得枠」は3チーム(ポイントの上位3チームが進出できる)。S.R.T.を除いた5チームの内の3チームが進めるわけだが、総勢20チームが参加し、その内2チームが主催者枠ですでに決定しており、事実上18チーム中の5チームがポイント獲得枠という神戸予選に比べると、かなり本選に進出しやすいといえよう。

ちなみに、6月30日に開催された神戸予選の通過チームは、以下の通り。

ポイント獲得枠

  • からくり忍者(東海社会人連合)
  • 救命ゴリラ!!(大阪電気通信大学 自由工房)
  • 大工大TECFER(大阪工業大学 モノラボロボットプロジェクト)
  • レスキューHOT君(近畿大学 産業理工学部)
  • 六甲おろし(神戸大学)

主催者枠

  • SHIRASAGI(兵庫県立大学 ロボット研究会)
  • なだよりあいをこめて(神戸市立科学技術高校 科学技術研究会)

そして、東京予選終了後、両予選において通過はできなかったが、本選でも見てみたい「可能性を感じさせるチーム」の「チャレンジ枠」として3チームが選ばれたが、それは東京予選の結果の後にお伝えする。

助けを求める人たちをどうやってロボットで助けるるのか

さて東京予選のフィールドだが、これは神戸予選も同じで、本選と比較して3分の2ぐらいの小さめのサイズとなっている(画像3)。大別して救助エリアが2つに別れている形だ。本選は、その両エリアの中央にもうひとつ高台エリアがある形である。なお、神戸予選のように参加チーム数が多いと、2チームが同時に競技を行うが、東京予選は参加チーム数が少ないために1チームずつとなり、相手チームを気にせずロボットを移動させられるなど、有利だったといえよう。

また、従来、予選ではダミヤンはセンサを使用せず(ダミヤンがどれだけやさしく扱われているかは、内蔵されているセンサでわかるようになっている)、審判団の目視によって判定されていたが、ここ数年は予選でもセンサが使用されるようになっており、今回の東京予選でも用いられていた。センサが使用されると、観覧者用のスクリーンにどれだけの力が加わっているかを示す赤いバーが、リアルタイムで伸縮して表示される仕組みで、赤いバーが長くなればそれだけ「痛い」「苦しい」というのが見てわかるようになっていた(画像4)。

画像3。被災地を6分の1スケールで模したフィールド

画像4。赤いバーが、ダミヤンに力が加えられていることを示す。このバーが長くなればなるほど扱いが粗雑というわけだ

そして第13回から導入されているのが、ダミヤンの1体が置かれている、2階建て家屋を模した家ガレキだ(画像5)。これまでは平屋だったそうだが、今回は2階建てとなり、その2階にダミヤンが1体寝ている形に。この2階建て家屋の屋根の一部が空いているという感じで、この屋根をはがすか、壁はないので横からアームを入れるなどしないと救出できないようになっている。平屋の場合よりも難易度が高くなったというわけだ。

予選は2体のダミヤンが使われ、もう1体は家屋とは別のエリアで地面に倒れており、その上に柱状のガレキが1本、覆い被さっている形だ(画像6)。まずこの柱ガレキを除去しないと、救助作業をするのは難しい。逆をいえば、柱ガレキさえ除去してしまえば、家ガレキからの救助作業に比べたら難易度は低くなる(比較の問題で救助が簡単、というわけではない)。そのほか、フィールドにはガレキが何種類かあり、押しのけられるものもあれば(画像7)、移動が難しくなるものもある(画像8)。

画像5。家ガレキ。2階建てで、2階にダミヤンがいるため、救出の難易度が、昨年までの平屋の家ガレキよりも難しくなった

画像6。救助の難易度はこちらの方がやや楽。柱ガレキをどければより楽に救助が行える

画像7。道路をふさぐガレキ。ただし押しのけることが可能

画像8。路面のひび割れ、陥没など通行がしづらくなっている状況をイメージしたエリア

予選の制限時間は8分で、ダミヤンのフィジカルポイントは各100点からスタート。なので、もし開始してあっという間に救助できれば、最大で200ポイントゲットが可能だ。しかし、時間が経過するにつれてダミヤンの体力が減っていくという現実に即した設定なので、最後は2体とも0ポイントとなってしまう(画像9)。

画像9。刻々と迫るタイムリミット。震災発生から時間が経てば経つほど、要救助者の生命が危険になってくるということで、ダミヤンのポイントが減っていく

それから救助作業の達成度を評価するミッションポイントというものがある。救出完了、搬送完了、個体識別のそれぞれを達成するとダミヤンごとに最大で50ポイントを得られる。なお個体識別とは、ダミヤンの服のマーク、発する音や光、重量などの情報を識別して救出完了より前に報告を行うことで得られるポイントだ。そのほか、タイムインデックス(残り時間)や減点などが考慮され、各チームの競技におけるポイントが確定する仕組みだ。

初参加のチームには遠かったポイント獲得までの道のり

競技は、先ほど紹介した順番で各チームが1チームずつ実施。やはり初出場のチームにとってはなかなか難しいようで、ロボットがまともに動かず、ダミヤンの近くに行くまでで精一杯、救出活動には至らない、というチームが多かった(画像10~13)。結局、初参加の4チームの内でポイントを獲得できたのは、RMF rescueのみ。救助こそはできなかったが、ダミヤンの1体に関しては個体識別などを行えたことから、14ポイントが付いた(画像14)。またベテランチームといえるレスキューやらまいかは、ロボットの調子が悪かったようで、コントロールがうまくいかなかったようだ。

画像10。特別救助隊産技荒川隊の4号機。柱ガレキの要救助者に接近するが、不調で救助できず。

画像11。3番目に出動のS.R.T.。ロボットの制御がうまくいかなかった模様

画像12。MRFの2台のロボットの内、1号機がもう少しで柱ガレキのダミヤンを救出できそうだったが、ちょっとやさしさが足りなかった

画像13。過去の出場経験があるレスキューやらまいかだったが、こちらもロボットがあまり調子がよくなかった模様

画像14。初出場ながら、個体識別に成功して14ポイントを獲得したRMF rescue

こうした初参加チームが苦戦する中、経験豊富な長湫ボーダーズが、さすがという動きを見せた(画像15・16)。まず4台のロボットが全機きちんと出動し(そのほかのチームは、複数台のロボットの内、動くロボットの方が少ない場合もあった)、2台1組で救出活動を開始。レッドゲート側(フィールドに向かって左側にブルーゲート、右側にレッドゲートがあり、参加チームの奇数番はブルーから、偶数番はレッドからスタートする)の柱ガレキの下のダミヤンを救助するチームは1号機と2号機で、家ガレキからダミヤンを救助するのは、3号機と4号機だ。決して何もかもが順調とはいかなかったが、1号機がダミヤンを救出することに成功した(動画1)。その結果、56ポイントを獲得したのである。

画像15。長湫ボーダーズは、柱ガレキの下のダミヤンの救助に成功

画像16。この日初めての救出に加え、搬送にも成功

動画
動画1。長湫ボーダーズの競技の様子。決して何から何まで順調というわけではないが、1体だけでも救出できたのは見事

最終的に、長湫ボーダーズ、RMF rescueのポイント枠上位2チームが決定。残りもう1チームは、獲得ポイント上はどのチームも0点で横並びだが、その場合は書類審査で評価が高かった順に順位付けが行われるルールで、特別救助隊産技荒川隊となった。

また、チャレンジ枠の3チームは、MS-R(金沢工業大学 夢考房)、MCT(松江高専 機械工学科)、メヒャ!(岡山県立大学 ロボット研究サークル)となっている。

早くも2014年大会の開催も決定

予選終了後、レスコン実行委員会の土井智晴委員長(画像17:大阪府立大学工業高等専門学校 総合工学システム学科 メカトロニクスコース准教授)に話を伺ったところ、0ポイントのチームが多かったのは残念だが、決して簡単な競技ではないので初参加のチームは当然という。今でこそベテランチームの多い神戸予選や本選は高得点を出すチームが珍しくないが、2000年のプレ大会や2001年の第1回大会の頃は今回の東京予選のような感じだったそうである。

画像17。レスコン実行委員会の土井智晴委員長

そもそもなぜ初参加のチームがうまくいかなかったかというのは、だいたいパターンとして決まっているという。スケジューリングを含むマネジメントの手法が確立されていないと、レスキューロボットの開発そのものが一応の完成を見るのが予選の1週間前といった直前になってしまうことがままある。

しかも、完成して一安心してしまうところだが、そうはいかない。実はそこからが大変なのである。動かそうとすると動かないことが普通で、やっと動くようになったら今度はそれまでの負荷などで故障が発生してそれを修理という繰り返しで、まともに練習ができないまま当日を迎えてしまうチームも多いそうだ。現に、いくつかのチームに話を聞いてみたところ、スケジュール的に余裕がなかった的な話も多く伺えた。

しかし、これを2年、3年と続けてくると、どういうスケジュールで開発していけばいいかがわかってくるし、そもそも前年のロボットの完成度が高ければ、それを引き継いで使用することも可能となる(ベテランチームはリソースの継承を行える優位さが出てくる)。その結果、予選の1カ月ぐらい前には機体の準備が整い、調整と改良を重ねるにしてもオペレータが順調にトレーニングを続けられ、その結果、予選できちんとロボットがオペレータの操作通りに動き、なおかつオペレータ自身も確実に操作をこなし、5分も制限時間を残してダミヤンを2体とも救出などという、離れ業的なチームもベテランの多い神戸予選では出てくるというわけだ(さすがにそのレベルは何チームもあるわけではないそうだが)。

神戸での本選は約1カ月後の、8月10日(土)・11日(日)の2日間にわたり、神戸サンボーホールで行われる。長湫ボーダーズ、RMF rescue、特別救助隊産技荒川隊、特別協賛枠のS.R.T.のこの1カ月の間のブラッシュアップによって、本選でのさらなる奮闘を期待したい。この本選に関しては、何らかの形でレポートをお届けしたいと思っている。

また、早くも2014年の「第14回レスキューロボットコンテスト」もすでに開催が決定済みで、神戸予選が6月29日(日)にデザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)にて、東京予選が7月6日(日)に東京都立産業技術高等専門学校(都立産技高専) 荒川キャンパスにて、そして8月9日(土)・10日(日)に神戸予選と同じ会場で本選という具合だ。

残念ながら予選落ちしてしまったというチームは、反省会からスタートし、今後1年間のスケジュールをきっちりと立て(学生チームは年度をまたぐので、引き継ぎなどが大変だとは思うが)、第14回に備えてもらいたいところだ。特に今回初参加のチームは、土井委員長の「結果が出るまで早くても3年はかかるでしょう」という言葉をいい意味で裏切り、2年で「見違えるような結果」を披露してくれることを期待したい。

それから話を2013年の予定に戻すと、12月7日(土)には神戸市立青少年科学館において毎年恒例の「レスコンシンポジウム2013」が、そして翌12月8日(日)には第14回の東京予選会場と同じ都立産技高専 荒川キャンパスにて「レスコン東京説明会」が開催される予定だ。

東日本大震災によって、改めて日本は震災と隣り合わせの宿命を背負った土地であることを誰もが知ったわけで、いつ来るかわからない次の震災に備え、将来は研究機関や企業などでそうした防災に関する技術やレスキューロボットそのものの開発に携わったりしたいという若者たちがいま、きっと多くいるはずである。レスコンで得た技術が、すぐに実際の災害対策用ロボットの開発に結びつくということはさすがに難しいかも知れないが、この競技会に参加することで、人脈を作れたり技術者としての経験やノウハウを得られたりするなど、プラスとなる面が多くあるので、ぜひとも仲間と共に参加して、自分たちの可能性を試してみてほしい。