壇蜜にプロジェクションマッピング、難しかった点は?

では、この番組を構成する要素の中でもひときわ話題を呼んだ、"壇蜜×プロジェクションマッピング"というアイデアはどこから来たのだろうか? バスキュールのクリエイティブディレクターの原氏は、体内を舞台にしてレースをするというアイデアが先にあったと語る。このアイデアを共有した際、テレビ東京側から壇蜜の名前が上がった。そして「壇蜜の体内をどうやって視聴者に見せるか」と考えた結果、プロジェクションマッピングで表現するというところに至り、プロジェクションマッピングを数多く手がけるP.I.C.S.に話を持ちかけた。

壇蜜にレースコースをプロジェクションマッピングしている様子

プロジェクションマッピングの実績豊富なP.I.C.S.だが、マネキンへの投影補助の実績はあるものの、人体へのプロジェクションマッピングは今回が初めて。プロジェクションマッピングは多くの場合建物に対して行われており、同社がCGを制作した東京駅舎が舞台の「TOKYO STATION VISION」など大規模な事例も多く、日本でもイベントのひとつとして知られてきている。しかし、人体は建物と違って湾曲して丸みを帯びており、また当然ながら無機物のように完全に静止することはできないため、そこが難しいところだとP.I.C.S.の加島氏は語る。しかしそんな案件を、同氏は「面白そう」と快諾したのだ。その作業風景は、以下の番組PVでも垣間見ることができる。


このイレギュラーな作業にはさぞかし苦労があるかと思いきや、今回のプロジェクションマッピングで一番大変だったのは「壇蜜さんです」と加島氏は即答。壇蜜は本番も1時間同じ姿勢で横たわっていたが、それはまだ楽なほうというから驚きだ。リハーサルを3回(うち1回は3Dスキャン作業)も行い、最長で3時間もの間同じ姿勢をとっていたそうだ。当初、長時間動かないという点を考慮して、直立した状態で投影を行う予定だったのだが、初回のリハーサルで、「彼女の体のラインの美しさが最もよく出るのは、横たわっている絵」ということで現場の意見が一致。テレビ東京の石井氏は、「一番最初のリハでは本当に苦しそうだったのですが、プロ根性でやりきっていただきました」と当時を振り返っていた。

PV撮影の際と同シチュエーションで撮影した1コマ(左)、プロジェクションマッピングによって"電脳化"される前の壇蜜(右)

技術的な部分では、リアルタイムのツイート内容などの動的なデータを含む映像はバスキュールが制作し、コースを表したりする静的な映像はP.I.C.S.が作成した。プロジェクションマッピングを行う上で苦労したのは、映像の「切り替え」だったという。1時間生放送を行っている間、通して再生する長さの映像を作るのは不可能なので、複数の映像を切り替えて壇蜜に照射していた。その切り替えの瞬間が見えないよう工夫を考えた結果、かなりチャレンジングな試みであったサーバ上のリアルタイムの動的データ、つまりTwitterのツイート内容などの表示が役立ったという。ツイートやレースの順位などを照射する内容に加えることよって、映像のスイッチングに"逃げ場"ができ、放送事故のような状況を回避することができたということだ。

プロジェクションマッピングを「見てもらう物」から「美しい機能」へ

壇蜜とプロジェクションマッピングの融合。これだけで十二分にインパクトのある企画だが、バスキュールの原氏は「視聴者が主人公」という根本の思想があり、プロジェクションマッピングはあくまで「主人公たちが集まる場所でしかない」と断言した。

加えて、原氏は「プロジェクションマッピングは、これまで(イベントなどに用いて)"見てもらう"ものだったが、この番組で使うからには、プロジェクションマッピングが"機能"になっていないといけないと思った」と熱弁。プロジェクションマッピングを単なる映像の上映ではなく、"美しい装置"として制作したというコメントが非常に印象的だった。この頃、ようやくイベントの目玉のひとつとして一般に浸透してきた向きのあるプロジェクションマッピングを、その「次」の展開を見据えた上で活用した選択眼は、クリエイティブ企業として名をはせるバスキュールらしいものだった。

次回は、「BLOODY TUBE」を構成するさまざまな要素についてひとつずつ問いかけ、一夜限りの忘れがたい祭典となったこの番組の謎をひもといていく。こうご期待。