日本の「LINE」をはじめ、FacebookやSkypeなど、モバイルで利用できるWebベースのコミュニケーションサービスがオペレーターの収益をおびやかしている。2013年2月末にスペイン・バルセロナで開催された「Mobile World Congress 2013」(MWC 2013)では、OTT(Over-the-top)といわれるこれらのサービスに対抗するというオペレーターの明確な声とともに、そのための技術の展示もみられた。

MWC 2013では、通信インフラ最大手のEricssonが巨大なブースを出展。LTE、LTE-Advancedなど同社の主事業であるモバイル通信技術と同じぐらい関心を集めていたのが、WebRTC(Real Time Communications)とRCS(Rich Communication Suite)だ。

WebRTCは、World Wide Web Consortium(W3C)が開発を進めるブラウザ間で音声やビデオ通話などのコミュニケーションサービスを実現するための仕様。ブースでは、Mozillaと共同でWebRTCを実装した「Firefox」を利用して、プラグインなどの拡張機能を利用することなくアドレス帳と同期してユーザー間でチャットなどのサービスを利用するデモを披露していた。技術的には、MozillaのSocial API、AT&TのAPI Platform、EricssonのWeb Communication Gatewayを利用。すでにFirefox 22のベータ版でWebRTCが標準化されている。モバイル(Android)版では今年夏にリリースするFirefoxで実現の予定だという。

EricssonのゲートウェイをベースにMozillaとAT&TのAPIで構築したWebRTCのデモ

ブラウザ間で直接ビデオ通話中。通話中に同じWebページを表示するなどのことも可能

ここまで紹介したように、WebRTCはこれからである。一方、すでに一部市場でスタートしているサービスがRCSだ。RCSはモバイル業界団体のGSM Associationが標準化を進めており、サービス名は「Joyn」。Joynはすでに韓国、スペインなどでスタートしており、ドイツでもT-MobileがMWC終了後すぐにスタートを発表している。このほか、フランス、イタリア、英国などで2013年に開始が見込まれている。

テレコムサービスといえばこれまで音声、SMS(テキストメッセージ)、MMS(マルチメディアメッセージサービス)などにとどまってきたが、これを拡大してIPをベースとした通話(VoIP)、プレゼンス、アドレス帳、コンテンツの共有などに拡大していこうというもの。音声通話をLTEで行うVoLTEも標準の一部となる。

会場では、スマートフォンとPCを利用し、プレゼンスを確認して電話をする、電話の転送、複数人数での通話などをデモしていた。特徴は、テレコムサービスの一部として提供されるため、FacebookやSkypeなどのように専用アプリを別途インストールする必要はない。「テレコムサービスのユーザーは60億人、Facebookは10億人。テレコムベースのコミュニティを構築できる潜在性は大きい」とEricssonのブースの説明員は説明する。なお、エリクソン・ジャパンでCTOを務める藤岡雅宣氏によると、世界と比べると「日本ではあまり盛り上がっていない。VoLTE導入の際にRCSが入るかもしれない」とのことだ。

「Joyn」のデモ。携帯電話にかかってきた電話をコンピューターに転送して通話を続けることができる

3G、WiFiと異なる通信方式で3人(2人は携帯電話2人、1人はPC)で動画通話中

これらの技術の土台となるのが、IMS(IP Multimedia Subsystem)となる。EricssonでIMS製品ライン担当ディレクターを務めるHakan Djuphammar氏にIMSの現状について聞いたので紹介しよう。

Hakan Djuphammar氏

―― IMSは以前からいわれているが、現状は?

伝送レイヤーをはじめ、ネットワークの全てのレイヤーがIPベースに移行しつつある。ここでネットワークのプラットフォームとなるのがIMSだ。テレコムの基本的価値は相互運用性にある。どのオペレーターの加入者もテレコムサービスを利用できる。

このIMSの上にサービスを開発するわけだが、HD Voice、動画、TV会議、プレゼンスなどが考えられる。IMSが加入者の認証、呼のルーティング、セキュリティなどを処理することになる。さまざまなコンポーネントを組み合わせてユーザーにあったサービスを提供する。

たとえばTV会議は、今日複数ベンダーのプロプライエタリ技術が乱立している。だが、High Definition Visual Communication(HDVC)により、対応機器を購入してオペレーター経由でサービスに加入すると、HDVCの全ての利用者にリーチできる。HDVCは主要なベンダーが集まって、TV会議をテレフォニーのように利用できるようにすることを目指しており、2013年後半にもスタートする予想だ。

―― ユーザーはすでに慣れ親しんだOTTサービスにコミュニティを構築しているが、どうやって既存のサービスに対抗する?

RCS/Joynの長所はリッチさと便利さ。また、グローバルな標準なので、チャンスは無限だ。WhatsAppはそのアプリをダウンロードしている人にしかリーチできないが、標準のメッセージアプリをダウンロードするだけで、同じアプリを持つ人全てとコミュニケーションができる。

現在のJoynはダウンロードが必要だが、Qualcommは9月以降にVoLTEとJoynをサポートする見込みで、Qualcommを採用するスマートフォンメーカーは別途開発することなくJoynをサポートできる。2014年第1四半期以降に登場するスマートフォンのほとんどがJoynを対応すると予想している。つまり、JoynはSMSが電話の標準機能であるのと同じような存在になる。端末側が普及すると利用が増えるだろう。このような普及率は、OTTサービスでは実現不可能だと考える。

―― 現在のスマートフォン上のサービスで普及のカギを握るのはAppleとなっている。AppleがJoynをサポートする可能性は?

Appleはこれまでのところ、新機能を真っ先に取り込むベンダーではない。HD VoiceもAppleが最初ではない。Joynについても、サービスの普及率が上がり始めたところで対応すると期待している。なお、AppleもQualcommのチップセットを利用している。