一般的に、デザイナーは生み出す物の分野によって「○○デザイナー」と呼ばれることが多い。しかし、デザインオフィスnendoの創立者でありデザイナーの佐藤オオキは、極端に言えば"家具からガムまで"、縦横無尽にデザインしてきた。専門分野が見えないほどに多岐にわたる分野で活躍する彼は、いったいどんな風にアイデアを生み出しているのだろうか。

今回は、このほどオープンした大塚家具のセレクトショップ「EDITION BLUE」の総合プロデュースにまつわるエピソードからデザインを行う際の発想の方法、そしてデザインの根本にある思いを聞いた。

佐藤オオキ
1977年生まれ。2002年、早稲田大学大学院理工学研究科建築学専攻修了と同時に「デザインオフィスnendo」を設立。Newsweek誌「世界が尊敬する日本人100人」(2006年)やWallpaper*誌(英)「Designer of the Year」、Elle Deco International Design Award「Designer of the Year」(共に2012年)に選出された。国内ではグッドデザイン賞や日本商環境設計家協会 (JCD)賞 金賞、日本インテリアデザイナー協会 (JID)賞 大賞を受賞している

――最初に、佐藤さんがデザインのお仕事をするようになった経緯を教えてください。

大学では建築を専攻していまして、大学院まで進みました。その一方で、学費を稼ぐために、似顔絵を描いて投稿していました。「笑っていいとも」の似顔絵コーナーにも20回くらい出演したのですが、この通り地味なものですから、全然タモリさんに覚えてもらえなかったですね(笑)

デザインの道へ進んだ直接のきっかけは、大学院の卒業にあたって、当時の仲間につれられてイタリアのミラノへ卒業旅行に行ったことですね。4月に行ったので、ちょうど国際家具見本市「ミラノ・サローネ」が行われていました。この催しに触れて、デザインって面白い、自由なんだな、と感銘を受けたんです。

建築家だから建築だけやっていればいい。インテリアデザイナーはインテリアだけ……ということではなくて、建築家がティーカップを発表していたり、インテリアデザイナーが車のファブリックを発表していたりと、ボーダレスな発表の場となっていました。しかも一般の人を巻き込んで、町全体がデザインで元気になっている感じがして、デザインというものが持っている力に圧倒されたんです。そこで、一緒に旅行に行ったメンバーでデザイン事務所を始めようということになりました。

――そうして立ち上げたのが「デザインオフィスnendo」ということですね。この名前の由来は何ですか?

「nendo」はその名の通り「粘土」のことを指していて、「柔軟な発想で自由なものづくりが出来たら」という思いをこめました。あの時ミラノで感じたことを実践できるような事務所になれたらいいな、ということで名付けました。

――今回大塚家具とのコラボレーションで立ち上げたセレクトショップ「EDITION BLUE」が生まれたきっかけを教えてください。

約5カ月前に大塚社長とお会いしてお話した中で、大塚家具の"弱点"を解消できるようなブランドを作れないだろうか、というアイデアが立ち上がったことですね。

大塚家具には膨大な数の商品が取りそろえられているのですが、良くも悪くもそれに圧倒されてしまうというか。ふらっと入って、ポンと何か買うという感覚ではなくて、部屋を丸ごと買い換えなくちゃいけないんじゃないかという、ある種の緊張感があるように感じたんです。そうではなくて、椅子を一脚、花瓶ひとつでもよいので、気軽にお気に入りの物を買っていってもらえるような感覚を提供しようと考えました。何度も足を運んでいただきながら、必要な物を足していくという「家具を少しずつ育てるという感覚」で訪れていただければと思っています。

「EDITION BLUE」のショールームは、3段階のライフステージに合わせて「家具を少しずつ育てるという感覚」を示すショールームが設置されている。今回のインタビューは、家族の住まいを想定したこの場所で行われた

――ショップの名前に色が含まれていますが、多くの色の中から「BLUE」を選んだ理由は何でしょうか?

まず「EDITION」という単語は、大塚家具の膨大なコレクションの中から一部を抜粋して、北欧の物を中心にイタリアン・モダンやヴィンテージなどを混ぜて再編集する感覚でセレクトした家具の中から、ユーザーが自分の部屋を「構築」していくという意味をこめています。

そして、ブルーという色を選んだのは、北欧の家具をベースにセレクトするショップにしたからです。北欧のデザインでは、さまざまなトーンのブルーを上手に使い分けているので。また、ブルーは木の色とすごくなじみがいいんです。そのため、ブルーをキーカラーに選んだというのが理由になるでしょうか。まだ将来的な展開は未定ですが、ひょっとしたら、「EDITION RED」とか「EDITION BLACK」のように、ブランドが発展していく可能性もあるのかなと思っています。

――「EDITION BLUE」では輸入家具のほか、佐藤さんが「秋田木工」の定番家具をリデザインした家具を取り扱っていますが、工夫した点などをお教えください。

「秋田木工」さんは100年以上の歴史があるメーカーで、元々のデザインがまずとても魅力的なのですが、ややデコラティブな部分が多かったんです。例えば、椅子の背もたれのパーツには彫刻が施されていたりします。そういった部分もとても素敵ではあるのですが、今の暮らしに合うような形で簡略化しました。曲げ木の構造材については、多すぎる部分を減らすことでコストを抑え、他の家具とも合わせやすくなるように調整を行ったんです。また、スツール「No.209EB」に関しては、オリジナルのデザインではスタッキングが出来なかったため、仕様から変更しました。

スタッキングできるようにリデザインされたスツール「No.209EB」

椅子「No.508EB」のオリジナル(左)、と佐藤オオキのデザインしたバージョン(右)。曲げ木の数を少し減らしている

元々のデザインが持っている魅力を殺すのではなく、整理していく感覚と言えるかもしれません。今のライフスタイルにマッチして、このブランドに合うような物となるようにデザインを行いました。また、遊び心としては、椅子「No.500EB」の背には、ダイニングテーブル「No.T-1430EB」の高さより上の部分に色を塗りました。高さを合わせたことで、たくさん椅子を並べた時も、がちゃがちゃした印象には見えないようになっています。