現役将棋棋士とコンピュータが5番勝負を繰り広げる「第2回将棋電王戦」が佳境を迎える中、ニコニコ生放送で16日、将棋棋士によるもう一つの興味深い企画が行われた。今年の2月にも開催され話題を呼んだ「将棋棋士人狼」の第2弾企画、「将棋棋士の人狼2~伝説の企画再び~」である。

「人狼」は、アメリカのゲームメーカー「Loony Labs.」が2001年に発売したパーティーゲームで、プレイヤーはそれぞれ「市民」と「市民に化けた人狼」となり、会話を通してお互いの正体を探っていくというゲームだ。

推理力や洞察力、話術などが要求されるこのゲームを、先読みと心理戦のプロである将棋棋士が行うとどうなるのか――。11人の将棋棋士による人狼イベントの模様をレポートしていこう。

11名の将棋棋士が参加

今回、イベントに参加した11名の将棋棋士は以下の通りだ。

中田功 七段
村中秀史 六段
大平武洋 五段
及川拓馬 五段
伊藤真吾 四段
門倉啓太 四段
藤田綾 女流初段
安食総子 女流初段
井道千尋 女流初段
貞升南 女流初段
伊奈川愛菓 女流1級

カードゲーム形式で遊ばれることが多い人狼だが、今回はiPhoneアプリ「人狼ゲーム~牢獄の悪夢~」を使用してゲームを進めていく。全3回勝負となり、放送時間はトータル4時間にも及んだが、そのすべてを詳細にレポートするのは不可能なので、特に熱い勝負だった2戦目を振り返っていこう。

まずは今回の人狼ルールについておさらいだ。

プレイヤーは9名の人間チームと2名の人狼チームに分かれる。人間チームには6名の「市民」と、「占い師」「霊媒師」「騎士」「多重人格」がいるが、今回は4つの役職から1つがランダムで消去される。どの役割がいないのかはプレイヤーには告げられない。

人狼は自分以外の人狼が誰なのかを知ることができるが、人間チームは誰が人狼なのかを知ることはできない。人狼に選ばれたプレイヤーは、自分が人狼であることを悟られないよう市民になりすまし、毎夜ひとりずつ市民を殺害していく。一方、市民は昼の会話を通して誰が人狼なのかをあぶり出し、容疑者をひとり処刑することができる。これを繰り返し、最終的に相手チームを滅ぼした方が勝利となるのだ。

処刑と襲撃を繰り返し、だんだんと参加者が減っていく

何ともおどろおどろしい雰囲気のセット

死亡してしまったプレイヤーは別室の「天国ルーム」で勝負の行方を見守ることに

アプリによる今回の人狼は2名。伊奈川女流1級と、大平五段である。伊奈川女流1級は人狼経験者で、一方の大平五段は初心者である。また、及川五段が霊媒師、門倉四段が騎士、安食女流初段が多重人格となった。それぞれの役割についてはゲームの流れを追いながら解説しよう。

最初のターン、3分間の話し合いがスタートした。まず会話をリードしたのは、村中六段(市民)と門倉四段(騎士)だ。

誰を信じ、誰を疑うのか。言動の一つひとつが推理の鍵となる

二人の考えは、「早めに占い師に名乗りでてほしい」というもの。占い師は夜の間に一人だけ他のプレイヤーを占うことができ、人間か人狼かを知る能力を持っている(役職はわからない)。市民チームのキーパーソンになりうる存在だが、当然占った結果を他の面々に伝えるためには自分が占い師だと告白することになり、人狼に狙われやすくなる。そこで、力を発揮するのが騎士だ。騎士は自分以外の誰か一人を人狼の襲撃から守る能力を持っている。故に占い師が名乗りでて、騎士が占い師を守るというコンビネーションで攻めていきたいというのが村中六段(市民)と門倉四段(騎士)の作戦である。

過去のゲームから人狼のイメージが強く、永世狼の称号も付けられたことがある藤田綾 女流初段

おっとりした口調からニコ生ユーザーからは「妖精」と呼ばれていた安食総子 女流初段

最初に疑われることが様式美と化していた伊藤真吾 四段

人狼初心者だという大平武洋 五段

……しかし、誰も名乗り出ない。それもそのはず、今回のゲームでは抽選の結果、そもそも占い師がいないのだ。また、たとえ占い師がいたとしても、今回のルールでは名乗り出にくい理由がある。もしも騎士が不在だった場合、守る者がいないため、名乗り出たその夜にあっさりと人狼に殺されてしまう恐れがあるのだ。それを考慮してか、及川五段(霊媒師)もこの話し合いでは沈黙を守っていた。

これといった動きがなく、最初の昼が終わった。夜になる前に投票タイムである。ここでもっとも票を集めた人物は処刑されてしまうが、処刑された人物が人間だったのか人狼だったのかは霊媒師にしかわからない。

つねに話し合いをリードする村中秀史 六段(左)と、立場を問わず巧みな話術で場を支配する中田功 七段

投票タイムでは誰か一人に質疑応答をして投票していくが、ここで人狼である大平五段がミスをしてしまう。先に安食女流初段(多重人格)が藤田女流初段(市民)に投票していたのだが、さらにそこに重ねて二票目を入れてしまったのだ。

最初の話し合いにおける情報の少なさから考えると、ここは票をばらして決選投票に持ち込み情報を集めるのが市民側のセオリー。この状況で藤田女流初段(市民)にいきなり票が集まるのは明らかに不自然である。……続きを読む