ここで、人狼ゲームの経験豊富な伊奈川女流1級(人狼)が動いた。自身の投票時にあえて人狼仲間である大平五段(人狼)に票を入れることで、状況を逆に利用したのだ。これなら、仮に大平五段が人狼だと判明しても、その大平五段に票を投じた伊奈川女流1級は人狼だと疑われにくくなる。先々まで読んだ絶妙な"仕込み"であった。

人狼ゲーム経験豊富な伊奈川愛菓 女流1級。今回のMVPは間違いなく彼女だろう

水面下でそれぞれの思惑が錯綜する中、最終的に票は割れ、処刑されたのは井道女流初段(市民)となった。

夜が明け、朝がくる。

2日目の話し合いの前に、人狼に襲撃された人間が一人姿を消すことになる。襲われたのは伊藤四段(市民)。市民が2人消え、残りのプレイヤーは9名となった。

質問の答えや表情から、相手の思惑を的確に読み取っていた井道千尋 女流初段(左)と貞升南 女流初段(右)

事前の研究が生きていた門倉啓太 四段

ここで、及川五段(霊媒師)が、自身が霊媒師であることをカミングアウトした。霊媒師は、前日に処刑された人物が人間だったのか人狼だったのかを知ることができる役職である(役職はわからない)。このタイミングで名乗り出た理由は「人が死んでから名乗り出た方がいいと思った。騎士の方に守っていただければ」というもの。

霊媒師が名乗り出たことで、再び「占い師はやはり不在なのか?」という議論が再燃した。「もしいるなら、今名乗りでてほしい」というのが、市民側の意見である。後半になってから名乗り出ると、騙っているのではないかと疑われるからだ。

実はこのとき、安食女流初段(多重人格)には「自分が占い師だと騙る」という手があった。「多重人格」は、人間でありながら人狼側に味方する特殊な役職で、他の役職を騙るなどして場を混乱させる役割がある。人間なので誰が人狼なのかはわからないが、逆に占い師や霊媒師に占われても「人間」と判定され、潜伏しやすいという強みを持っている。

安食女流初段(多重人格)が占い師を騙るとゲームがさらに混沌としたのだが、結局安食女流初段(多重人格)は動きを見せなかった。

霊媒師として重要な役割を果たした及川拓馬 五段

話し合いが終わり、2回目の質疑応答と投票のターンへ。まだ誰も自らの推理に確信が持てない中、伊奈川女流1級(人狼)が同じ人狼の大平五段にあえて質問をぶつけ、さらに票も投じるという手に出る。徹底的に大平五段を疑っている姿勢を見せることで、人狼2名の間のラインを切る作戦だ。2ターン続けての行動は強く印象づけられ、伊奈川女流1級(人狼)は完全に市民の中に潜伏した。

結局、このターンでは多重人格であった安食女流初段が処刑されてしまうことになった。役職を騙るのがセオリーである多重人格としては十分な仕事ができなかった形であり、占い師不在で若干不利だった人間側が盛り返した。

夜が明け、今度は中田七段(市民)が襲撃されて死亡する。残りは7名。

さすがにここまでくると、「占い師はそもそもいなかった」と結論づけられる。となると占いでの人狼特定は期待できない。そして、そろそろ人狼を1名は処刑しないと人間側は不利になる。話し合いが遅々として進まない中、次に投票で処刑されたのは藤田女流初段(市民)となった。

処刑されたらもう言葉を発することはできない

4日目が明け、状況が動いた。門倉四段(騎士)が人狼の襲撃を防ぎ、犠牲者が出なかったのだ。これにより"騎士はいた"ことが確定した。ここで人間側が勝負に出る。門倉四段(騎士)が自らが騎士であることと、及川五段(霊媒師)を守ったことを明かしたのだ。実は及川五段(霊媒師)はまだ、本物の霊媒師かどうか微妙に疑われていたのだが、門倉四段(騎士)のカミングアウトが本当なら、及川五段が霊媒師であることも確定することになる。と同時に、人狼候補は残った村中 六段、貞升 女流初段、伊奈川 女流1級、大平 五段の4名に絞り込まれる。

4名中、2名。騎士が名乗り出ていることからも、市民側としては人狼を一人は処刑しないとまずいターンだが、ここで伊奈川女流1級(人狼)の仕込みがじわりと効き始める。疑いの目が向けられたのは村中六段(市民)と大平五段(人狼)の二人で、ずっと大平五段(人狼)を疑ってきた伊奈川女流1級(人狼)は自然と疑いの目から外れたのだ。とはいえ大平五段(人狼)が処刑されればまだ市民側にもチャンスがあったのだが、伊奈川女流1級(人狼)の巧妙なリードもあり村中 六段(市民)が処刑されてしまう。

最終夜、当然のように騎士である門倉四段が襲撃され――残った3名中2名が人狼となり、人狼チームの勝利が確定した。終わってみれば、伊奈川女流1級の立ち回りのうまさが際立った勝負であった。

「将棋棋士の人狼2~伝説の企画再び~」は、先読みを得意とするプロ棋士ならではの非常に面白い心理戦となった。前回に引き続きニコ生での反響も上々。ぜひ今後もこの企画を続けていってもらいたいものだ。