Microsoftの手に渡った「DOS Shell」
次期バージョンは再びMicrosoft主導で開発が始まり、1991年6月にMS-DOS 5.0がリリースされます。OSの内容は棚に上げますが、本稿で注目すべきはDOS Shellの拡張です。ちょうど前年となる1990年に同社はWindows 3.0をリリースし、Windows 2.x時代に蓄積した多くの技術を投入しました。開発技術はMS-DOSにも反映され、Windows 3.0のファイルマネージャーを意識したUIに変更されています(図08~10)。
ここから便宜上、MS-DOS 5.0搭載のDOS Shellを「新しいDOS Shell」と呼ぶことにしましょう。DOS Shellが疑似マルチタスクを実現するタスク切り替え機能を備えたのは既に述べたとおりですが、新しいDOS Shellでは「Task Swapper」という機能を備え、起動中のDOSアプリケーションを列挙する「Active Task List」を常に表示することが可能になりました。また、[Alt]+[Tab]キーで起動済みDOSアプリケーションを切り替える機能も備わり、タスク管理ツールとして成長しています(図11~12)。
本来の役割であるファイラーとして機能はさほど変化していませんが、起動後のDOSアプリケーションは未使用時にスワップさせるなど、MS-DOS付属ツールとしては優秀な機能を備えていました。図13はDOS Shell上でBASICやフルスクリーンエディターを起動した状態でMS-DOSプロンプトを起動し、c.mos氏の「vmap」を実行してみますと、コンベンショナルメモリの空き容量は592キロバイト。Config.sysのチューニングなどは一切行っていませんが、なかなか優秀な結果と言えるでしょう(図13)。
もっともすべてのDOSアプリケーションがDOS Shell下で実行できた訳ではありません。DOSエクステンダを必要とするアプリケーションの場合、メモリ管理が衝突してしまうケースや、グラフィカルな描画を基調としたアプリケーションはうまくスワップできなかったように記憶しています。
当初から研究開発されたDOSアプリケーションのマルチタスク化は、Windows 2.xやOS/2 1.xに受け継がれ、MS-DOS上での実行を望む声が少なかったのか、その後リリースされたMS-DOS 6.0にDOS Shellは搭載されていません。この判断はWindows 3.1の大ヒットにより、DOSアプリケーション版のファイラーの必要性を低下させた側面もあるでしょう。
NEC版MS-DOSでは、最終版となるバージョン6.20まで搭載されたDOS Shellですが、資料によると英語版MS-DOS 6.22用の「Supplemental Disk」には、アドオンとして収録されていたとか。筆者は同ディスクを目にしていないため、真偽の程は不明です(図14)。
ナビゲーターは阿久津良和でした。次回もお楽しみに。
阿久津良和(Cactus)
参考文献
・OS-History
・Softpanorama
・Wikipedia