Microsoftの研究所であるMicrosoft Researchは、研究成果を披露する「TechFest」を例年開催しているが、今年も3月5日から7日(米国時間)まで開催した。同社副社長兼同研究所の統括責任者であるRichard Rashid氏は前日に行われたキーノートスピーチで、我々とコンピューターを取り巻く環境が変化しつつあることを述べつつ、さまざまな研究結果を披露。今週はこのTechFestで紹介されたなかから、注目に値する研究プロジェクトをピックアップして紹介する。

今年の「TechFest」で紹介された注目プロジェクト その1

IT企業は研究所を備え、常にイノベーション(技術革新)を起こさなければならない。そのためMicrosoftでは、同社従業員と同社研究所であるMicrosoft Researchの結び付きの強化を目的とした社内イベント「TechFest」を毎年開催している。2013年開催の「TechFest 2013」は、3月5日(米国時間)から7日まで開催されているが、今年もユニークで先進的な研究結果がいくつも紹介された。Webページのプロジェクト一覧を見ると、いくつもの興味深い研究プロジェクトが並んでいるが、まずは同社の次世代技術を紹介する公式ブログ「Next at Microsoft」の記事で取り上げられた「SketchInsight(スケッチインサイト)」を紹介する(図01)。

図01 Microsoft Researchの研究者であるBongshin Lee(ボンシン・リー)氏(以下すべて動画より抜粋)

SketchInsightを一言で述べると、"未来のOfficeアプリケーションを具現化する新UI(ユーザーインターフェース)"だろうか。研究プロジェクトチームを率いるBongshin Lee(ボンシン・リー)氏曰く「自動的にグラフや図を挿入するプレゼンテーションツールの新しい形」とSketchInsightの概要を説明しながら、デモンストレーションは始まる。ディスプレイにタッチペンでL字型の線を描けばグラフの軸が描かれ、円を描けば円グラフが作成され、ユーザーは直感的なグラフ作成が可能になるというものだ(図02~03)。

図02 サジェスト機能により、単語候補が示される

図03 そのままタッチするとグラフ項目に自動変換された

また、サジェスト機能も備えている。「ye」と書くと「year」が候補として現れ、そのままタッチするとグラフの項目が追加される仕組みだ。円グラフに対して「pop」と書くと現れる「Population(人口)」に変換され、タッチすると同じように円グラフを構成する項目として描かれる。グラフの種類を変更するのも容易らしく、散布図グラフに対してボックス風の線を描くと縦棒グラフに、M時型の線を描くことで折れ線グラフに変化していた(図04~06)。

図04 円グラフに対して「Population」と書くと、人口数を示す円グラフの完成となる

図05 散布図グラフに縦棒を示すジェスチャーを描くと縦棒グラフに変化する

図06 縦棒グラフに対してM時型の線を描くと、今度は折れ線グラフに変化する

SketchInsight上のグラフは連動しており、円グラフの要素をタッチすると折れ線グラフの要素も非表示となり、各グラフはリアルタイムに変化する仕組みも備えている。この他にもプレゼンテーションモードのデモンストレーションも行われ、人を模写した落書きを縦棒グラフの要素として使用するなど、多彩な使用方法を紹介していた(図07~09)。

図07 円グラフの要素をタッチすると非表示となり、左側にある折れ線グラフからも取り除かれていた

図08 SketchInsightにはいくつかのモードが用意されているらしく、プレゼンテーションモードのデモンストレーションも行われた

図09 Lee氏が適当に描いた落書きをそのまま棒グラフの要素として使用することも可能

Microsoft ResearchにあるSketchInsightの紹介ページを見ると、同プロジェクトはNUI(ナチュラルユーザーインターフェース)に対するアプローチの一つであり、データと対話するための方法を根本から見直したと紹介されている。もともと同研究プロジェクトはMicrosoft Researchとカリフォルニア大学、カルガリー大学らの学生が2011年頃から始められたものであり、その当時はスケッチを可視化する「Sketch Visualization」を略して「SketchVis」と呼ばれていた(図10)。

図10 SketchInsightの原型となった「SketchVis」。原型となるサジェスト機能やスケッチによるグラフ描画は既に完成されていた

SketchInsightは現時点で商品化されていないものの、会議室にタッチ対応のディスプレイや、コンピューターと連動するホワイトボードを設置できる企業であれば、十分実用的なツールとなるだろう。筆者はSketchInsightを見て、Microsoftのコンセプトビデオで描かれた"コンピューターにグラフ情報を立体投写し、腕を振ってアプリケーションに貼り付けるシーン"も思い出した(コンセプトビデオを紹介した記事はこちら)。コンピューターを利用した可能性は人間の自然な動作と連動し、Microsoft Researchはその点を推し進めているようだ。

同じようなコンセプトながらも似て非なる研究プロジェクトが「BodyAvatar(ボディーアバター)」である。文字どおり体全体を用いたジェスチャーで、任意の3Dアバターを作成するというものだ。根底にあるのはNUIであり、その一点においてSketchInsightと類似している。本プロジェクトは北京にあるMicrosoft Research Asiaの研究結果であり、メンバーには日本人である梅谷信行氏も参加。

ユーザーは自身の体をスキャンし、その後アバターの形状や配色を直感的なジェスチャーで変更していく。本来3Dモデリングツールは比較的高価だ。しかし本プロジェクトは動画を視聴する限り、Kinect for Windowsなどを用いたカメラと手の位置を詳細に示す手袋で画面上のアバターを作り出せるという。斬新ながらも原始的な内容のため、どのような場面に用いることが可能か想像できないが、複数参加型ゲームのキャラクター作成時などに有用ではないだろうか(図11~12)。

図11 体全体を用いたジェスチャーで3Dのアバターを作成する「BodyAvatar(ボディーアバター)」。最初に体全体のスキャンを行う

図12 手を振り回すジェスチャーでパーツを延ばし、胸の部分を横になでることで配色を選択する