モビリティロボット実験特区の茨城県つくば市にて追加の規制緩和が実現し、パーソナルモビリティに人が搭乗した状態での横断歩行の走行が可能となった。2月20日、つくば駅前の交差点で実際に横断歩道を渡るデモンストレーションが実施されたので、その模様をお届けする。

画像1。横断歩道を渡るセグウェイを利用したガイドツアー一行

つくば市は、2011年6月から日本で初となるパーソナルモビリティロボットの公道実験を行っている。要は、ナンバーを与えられた(正式に許可された)パーソナルモビリティなら、公園や一般の歩道を走ることが可能な特別な地域というわけだ(日本の法律では、パーソナルモビリティで公道を走ってはならないことになっている)。

これまで公道実験には、セグウェイ、産業技術総合研究所(産総研)の車いす型パーソナルモビリティ(技術トライアルの「つくばチャレンジ」に参加した「Marcus」シリーズ)、日立製作所のパーソナルモビリティ(今回のデモンストレーションには参加していない)などが参加している。また、ただ単に走るだけでなく、セグウェイを利用した防犯パトロール実験、エコ通勤実験、観光ツアー実験などの実験も行われてきた。

つくば市によれば、これまでの実証試験によって、安全に運用できること、歩行者アンケートなどにより歩行者とモビリティロボットの親和性の高さを確認できたという。

なんでも、セグウェイで防犯パトロールをしていると子どもたちが喜んで集まってくるというし、街中をツアーしている人たちに対しても周囲の人たちは結構好意的な印象を持つようだ。

画像2。セグウェイ防犯パトロールも今回の実証試験に参加

今回の取材でも、冒頭の画像の通り、セグウェイに乗ったガイド付きのツアー一行が横断歩道を渡り、つくば駅周辺を走っていたのだが、セグウェイは見慣れていると思っていた筆者であっても、なにやらほほえましい眺めに思えた。

つくば市ではこうした成果などを踏まえた上で、平成24年2月に追加の規制緩和の提案を国に対して実施し、その提案の一部が今回認められ、「人が乗った状態のパーソナルモビリティで横断歩道を走行する(渡る)」ことが実現したというわけだ。

さて、ここで「たかだか横断歩道を渡るぐらいで、どうしてそれほど大げさに許可をするしないとしているのか?」とか、「実験パトロールなどですでに横断歩道を渡ってるのではないか?」と思う方もいるかも知れない。

実は筆者も、つくばチャレンジで1km以上先のゴールへたどり着くモビリティロボットたちを見てきたこともあり、「横断歩道を渡るのぐらい余裕だろう」などと思っていた(ちなみにつくばチャレンジでは横断歩道は渡っていない)。しかし、横断歩道は現在のモビリティロボットにとってはまだまだ危険性の高いエリアなのだ。

なぜパーソナルモビリティに人が搭乗した状態で横断歩道を渡ることが危険なのかというと、万が一途中で止まってしまったり、暴走してしまったりした場合、最悪、死亡事故が発生し得るからである。

シニアカート(電動カート)のように搭乗者が動かさない限りは動けないのならまだしも(それでもバッテリ切れで車道にてストップしてしまう危険性はある)、パーソナルモビリティはロボットの1種であり、全自動運転も可能な機能を搭載していることが多い。

というよりも、その全自動運転こそがパーソナルモビリティに求められている大きな技術の1つであり、身体の弱ったお年寄りや身体が不自由な方々にとっては、簡単な指示で目的地まで連れて行ってもらえることは望ましいことだ。しかし、危険性のみが日本ではフォーカスされているようで、これまでのところパーソナルモビリティは一般道で乗ってはならないとされているのである。

もちろん、警察などの道交法を取り決める側が事故を心配するということは理解できるが、個人的にはもう少し緩和してもいいのではないかと思うところではある。

ただしその結果、事故が発生してしまって「それ見たことか」的になり、「パーソナルモビリティは危険」というレッテルが貼られてしまってもよくないのも確かで、日本においては着実に1歩ずつ前進していくしかない、というところだろう。

また、実際に技術的にすでに全自動運転はかなり完成度が上がっており、首振り型のレーザーセンサで周囲の環境の3次元データを取得したり、GPSを使用したりして自己位置を確認するなどして、問題なく走行できるようになってきている。

ところが、実際に横断歩道を渡る場合に限っては、全自動運転はまだ解決すべき問題があるという。その1つは、とても単純な話だが、信号を認識できない点だ。レーザーセンサでそこに信号機があるのはわかるわけだが、肝心の色や点滅などを識別するには画像認識技術も必要であり、今のところつくば市の実証実験に参加しているパーソナルモビリティではその機能を搭載しているものはない。

さらに横断歩道では右左折してくる車との接触事故が考えられるわけだが、この右左折してくる車への対応も難しいという。右左折してきた車は、どんな形状をしていようと、人間なら車以外の何ものでもないと、判断できるが、それをプログラム的に判断しようとすれば、データベースを構築して、そこから該当するデータを選んで、識別画像と比較して、それがマッチしているかどうか、といったような非常に面倒な処理が必要となる。

結局、今の段階では障害物の1種としか判断できないため、右左折して近づいてきている車を認識してストップして横断歩道を渡れないといったこともあるという。

そのほか、人間ならドライバーが歩行者などを優先してくれるので(しない人もいるが)、アイコンタクトすれば、ドライバーが「渡ってください」という手振りを示してくれたりする。人間ならとても簡単なことだが、それをパーソナルモビリティに認識させるにはやはり難しい課題となる。

ちなみに、パーソナルモビリティが右左折してきた車に対して安全に横断歩道を渡る方法としては、ITSの実証実験ですでに披露されている技術だが、パーソナルモビリティと車の間で車車間通信を行い、互いが互いの存在を認識した上で、車は停車し、パーソナルモビリティは進んでいくといったものがある。

しかしこれの問題は、世の中の車すべてにパーソナルモビリティと通信できる機能を搭載する必要がでてくるため、あまり現実的ではない。仮に全メーカーが将来発売する新モデルからその機能を搭載としても、世の中の車がすべてその機能を搭載した車に置き換わるには、どれだけかかるかわかったものではない。

そのほかにも、大々的な無料の取り付けキャンペーンを実施するとか、少なくとも格安で後付けできるから法令で取り付けを定めるなどすれば別かも知れないが、それでも100%になるのは相当先のことになるだろう。そのため、全自動運転機能を実用化するには、パーソナルモビリティ側に事故を防ぐ仕組みを搭載することが必須となるのである。

またちょっとしたことだが、移動に関しても課題があるという。歩道から車道へと踏み入れる部分の段差で、パーソナルモビリティの車体が瞬間的にやや下向きになることがあるわけだが、その際にレーザーセンサが路面を障害物と認識してしまい、ストップしてしまうらしいのだ。

これは条件をうまく設定していけば、路面であって障害物ではない、という風にできるのかも知れないが、道路の状況も千差万別であり、そこら辺はとにかくデータを収集することが重要となってくるのではないだろうか。

そうしたことから、今回は搭乗者が運転して横断歩道を渡った形だ。横断歩道を渡るということは、とても危険で、全自動運転で渡るのはレベルが高いのである。

画像3。今回のデモンストレーションに参加した全自動運転が可能な機能を搭載したパーソナルモビリティは産総研のMarcusシリーズ

今後は、こうしたテストを繰り返すことでさまざまな課題を洗い出し、改良を加えていくことになる。今回のデモンストレーションの1週間ほど前に非公開(とはいっても一般道での話なのだが)のテストが行われ、そこで初めてデータ収集がスタートしたばかりなので、まだまだこれからという形だ。

また、あくまで筆者の考えとして取り上げるのであればだが、セグウェイは別扱いにしてもいいのではないかという気がしている。セグウェイは基本、人が操縦するので、全自動運転はないため(走行中に飛び降りての「野放し運転」は可能だが)、自転車と同じ扱いでも良い気はしている。速度的にはよほど自転車の方がよほど出せるわけだし、よほど混雑するような場所は禁止ということにして、日本でも許可を出しても良いのではないかと思うのだが、いかがなものだろうか。

なにはともあれ、今回の規制緩和により、「実験中は保安要員を配置しなければならない」と「走行できる歩道の限定(幅員3m以上)」といった条件は残されたままだが、パーソナルモビリティに人が搭乗した状態で横断歩道を渡れるようになったことは、1歩前進といえよう。