コンピューターにおけるテキストエディターの存在は、数あるソフトウェアの中でも重要な位置を占める。文書を作成やソフトウェアの開発など、文字を入力する際に欠かせない存在であり、コンピューターと共に進化してきたジャンルの一種だ。Windows向けテキストエディターは枚挙にいとまがないが、その中でもWindows 95時代から現在に至るまで、リリースし続けているソフトウェアは数タイトルに限られる。中でも一部のユーザーに根強い人気を集めるのが「WZ EDITOR」シリーズだ。

MS-DOS向けテキストエディターである「VZ Editor」を源流に持ち、バージョン1.0をリリースした1995年当初は、"Vz風"と呼ばれる独自のキーアサインや機能で人気を博していた。その後、独自のメモツールやファイラー、電子メールクライアントを備え、筆者も愛用していたテキストエディターの一つである。その後もバージョンアップを繰り返してきたが、個人的に機能面で不満を覚えるようになり、久しくバージョンアップを控えていたが、3年ぶりに新しい「WZ EDITOR 8」がリリースされるという。

現在すべての機能を試用できる「WZ EDITOR 8 preview 1.0」が、公式サイトで公開されている。そこで同プレビュー版を試用し、既存のWZ EDITORユーザーがバージョンアップに値するか、元VZ EditorやWZ EDITORユーザーが再びメインのテキストエディターとして利用できるか、という点を踏またレビュー結果をご報告したい。

WZ EDITOR 8は従来と同じく文書作成やプログラミングなど、テキストエディターに求められる各種用途を満たすソフトウェアだが、最新版では電子書籍時代を踏まえた強化が中心となる。最大の特徴はPDF形式ファイルの編集機能。通常PDF形式は、編集を終えた最終的な閲覧や印刷といった場面に用いられることが多いが、WZ EDITOR 8では「WZ PDF Book」という機能を新たに備え、表紙や目次・索引といった文書作成を可能にした(図01~02)。

図01 付属のPDF形式ファイルをAdobe Acrobatで開いた状態。通常のPDF形式であることが見て取れる

図02 同形式ファイルをWZ EDITOR 8で開いた状態。表紙に当たる画像ファイルのプレビュー

編集時は特定の記号を用いて見出しや強調を行う体裁文書の編集に近く、以前からのユーザーであれば戸惑う場面は少ない。新たにWZ EDITOR 8から始めるユーザーもMediaWikiなどで用いられるマークアップ言語と同じ感覚で作成できるだろう。もちろん閲覧・編集だけでなく、PDF形式の出力もサポートし、PDF形式ファイルのヘッダを確認すると、ISO 32000-1として国際標準化されたバージョン1.7が用いられている。

PDF形式ファイルの作成はワードプロセッサーやDTPソフトウェアなどを用いるのが一般的だが、テキストエディターからの出力可能にすることで、電子書籍の作成や編集環境を求めているユーザーにアピールしているのだろう。開発・販売元であるWZソフトウェアでは、原稿執筆専用のテキストエディターである「WZ Writing Editor」をリリースしているが、用途や機能的に競合する面がある。

その一方でWZ EDITOR 8の新機能を確認していくと、表示スタイルの文字組版などに余白調整オプションや行頭の括弧オプションなどが加わっている。これらの新機能やWZ Writing Editorのリリースが2011年末であることを踏まえれば、同ソフトウェアで培った結果をWZ EDITOR 8に反映させたと見るのが正しいだろう。

その一方でテキストエディターが求められる編集機能に目を向けると、かゆいところに手が届くような改良が数多く加わっている。編集しているファイルごとに折り返し文字数や表示と印刷の体裁を設定する「専用設定」は、現在編集中のテキストファイルに対してだけ行間や字間の調整などが可能。感覚的には用途に合わせて選択する表示スタイルの一種として扱われるため、場面に応じて切り替える際に役立ちそうだ(図03~04)。

図03 ファイルごとに折り返し文字数や表示設定などを設定する「専用設定」

図04 用途や場面に合わせて選択する文書スタイルも共通設定を廃止し、個別に各種設定しやすくなった

テキストエディターを強化するマクロ機能だが、WZ EDITORシリーズではC言語風のTX-Cマクロを備えてきた。WZ EDITOR 8でダイアログコントロールや文字取得など約380個のAPIを追加。また、従来のバージョン4/5向けとなるTX-Cの互換実行をサポートし、直接実行可能になっている。本体やマクロ言語の仕様変更により、互換性が維持されていない部分もあるが、従来のマクロを流用できるのは大きなアドバンテージとなるだろう。

PDF形式のサポート以外は順当に利便性を向上させた印象を持つWZ EDITOR 8だが、疑問に残るのが本来テキストエディターに、このような機能を求められているのかという点である。WZ EDITORシリーズは本体機能よりも周辺機能を拡充する面が強く、テキストエディターの存在意義である「文書やコードを直感的に作成できる」という意思が曖昧だった。

確かにVZ EditorはMS-DOSというCUI(キャラクターユーザーインターフェース)環境に常駐し、ファイラーとテキストエディターを融合した一種のアプリケーション実行環境にまで昇華したが、WZ EDITORシリーズは成功に至ったとは言い難い。それだけに日本語文書作成に特化したWZ Writing Editorのリリースや、PDF形式のサポートなど独自色を打ちだそうとしているのだろう(図05~06)。

図05 セットアップ時はUSBメモリや個人フォルダーに展開する「WZ個人専用セットアップ」が用意されている

図06 Windows上で軽快なファイル操作を行う「WZ Filer」も従来と同じく用意されている。なお、タブ機能を備える「WZ Tab Filer」も健在だがプレビュー版では試用できなかった

今回はプレビュー版のため、深い部分まで言及していないが、WZ EDITORシリーズを愛用してきたユーザーには興味深いバージョンアップ内容となるだろう。

バージョン7からの更新情報はこちらのWebページにまとめられているので、興味のある方はオンライン版の発売日である2月25日(パッケージ版は3月27日)を前にバージョンアップもしくは、他テキストエディターからの移行を熟慮してほしい。