MySpaceなどが立ち上げ、Facebookが確立したソーシャルネットワーク市場だが、9億人のユーザーを抱えるFacebookの後も、次々と新しいネットワークが生まれている。ソーシャルネットワークサービス(SNS)はどこに向かっているのか ― 10月にアイルランド・ダブリンで開催された「Web Summit 2012」でのSNSベンチャーによるパネルディスカッションから、今後の方向性が垣間見られた。

SNS第1フェーズの終わりを告げたFacebookのIPO

奇しくも今年春のFacebookのIPOは、Facebook1社が市場を独占するSNSのフェーズに終わりを告げることになったかにみえる。パネルディスカッションに参加したのは、ソーシャルなリーディングサービスReadmill、女性限定で人気のTV番組「セックス・アンド・ザ・シティ」の世界をオンラインで実現するというLuluvise、スキルのある人を発見するソーシャルツールSkillPagesなど3種類の新興SNSの(共同)創業者兼CEO。そして、欧州で一世を風靡(ふうび)したSNSの「Bebo」を夫婦で創業(その後、米AOLに8億5000万ドルで売却)し、インキュベーター企業のMonkey Inferonoを立ち上げたXochi Birch氏の4人だ。

左からSkillPages共同創業者兼CEOのIain MacDonald氏、Monkey Inferno共同創業者のXochi Birch氏、Luluvise創業者兼CEOのAlexandra Chong氏、Readmill創業者兼CEOのHenrik Berggren氏

今後も多くのSNSが存在し続けるのか? それとも統合されていくのか?

LuluviseのAlexandra Chong氏は、「巨大なSNS時代から、(自分たちのような)分断化されたニッチなSNSが多数存在することになる」と豪語する。その背景には、自分に関連性があるSNSを求めているというユーザーのニーズがあるという。Facebookが漠然としたソーシャルを目的とするのに対し、Luluviseはおしゃれや恋愛に関心のある女性、Readmillは電子書籍の読者コミュニティ、SkillsPagesは職とスキルを明確なターゲットとしている。

FacebookのIPOについてコメントしたBirch氏は、「短期的に評価額に影響はあっても、長期的にはSNSへの影響はない」と述べた後、「今後SNSは変わるだろう」と予想する。「これまでは1つのSNSがあり、そこでユーザー数を拡大し独占的になるという流れだった。だが、多数の特化型SNSが生まれ、ユーザーの支持を得ている。今後ユーザーは複数のSNSを用途に応じて使い分けるのではないか」との見解を示した。

ReadmillのHenrik Berggren氏は、「現在のようなSNSから、今後は製品の機能のひとつになる」とみる。Berggren氏はあらゆる製品にソーシャル要素が加わる可能性があるとみており、「すべての業種で自社にとって何を意味するのかを考えるべきだ」と続ける。SkillPagesのIain MacDonald氏も同じ意見で、例としてチケットセールス業者がFacebookと連携し、自分の友達が予約した席がわかるようにするなどの事例を紹介する。「ソーシャルはWebの一部になった」(MacDonald氏)。

プライバシー: あらゆるキュレーションサービスが考慮すべきだ

だが、これはプライバシーへの懸念という負の面もある。MacDonald氏は、いつでも・何でもシェアする人がいれば、Facebookから距離を置き始めた人もいると指摘し、「Webにおけるプライバシーで大切なことは、ユーザーが管理できるようにすること」と述べる。サービス側がユーザーのプライバシー尊重の態度を示さない場合、ユーザーはサービスから離れると続けた。SNSに限らず、ユーザーが生成するコンテンツのキュレーションサービスはどこもプライバシー尊重を念頭にサービスを設計すべきだと助言する。

Birch氏は自身の経験もふまえながら、「同じ人物でも年齢により感覚が変わる。ティーンエイジャーはシェアすることに抵抗がないが、年齢があがるにつれて敏感になる」とする。自身はFacebookとは別に、プライベート専用でつながりの上限が150人のSNS「Path」を愛用しているという。Chong氏はプライバシーとWebについて教育の大切さも強調した。

ビジネスモデル、そしてモバイル

Facebookは広告を主な収益源とするが、多数のユーザーがモバイルからアクセスするなか、サービス提供事業者の間ではモバイルでのビジネスモデル確立が大きな課題となっている。無料が当たり前のSNSにおいて、どのようにして収益を得るのか ― 事業モデルについては誰もが頭を悩ましているようだ。

明確なビジネスとして確立する前にAOLにBeboを売却したBirch氏は、苦笑とともに「わからない」と述べる。LuluviseのChong氏は、「将来はモバイル。モバイルはマイクロペイメント(少額決済)と相性がよく、ここに注目している」と狙いを語る。現時点で広告は考えていないとのことだ。ReadmillのBerggren氏は、それぞれのSNSの特性により事業モデルは異なると述べる。Berggren氏は「大規模に展開するなら広告だろう。だが、モバイルでの広告はまだ離陸していない」とFacebookへの期待をのぞかせた。このパネルディスカッションからは、App.netのサブスクリプションモデルも方法の1つとして挙がった。

なおLulusiveが触れたモバイルについては、どこもフォーカスしているようだ。Lulusiveは数カ月前にモバイル向けにインタフェースを完全に切り替えたという。モバイル向けUIは「ユーザーからの強いニーズだった」とChong氏は明かす。SkillPagesのMacDonald氏は、「モバイルではアクセスが頻繁になるので、ソーシャルから得られるバリューがさらに改善する」と述べる。

自社以外に注目しているSNSとしては、Birch氏が利用するPath、メリットが明確なPinterest、検索との連携が注目されるGoogle+が挙がった。