新人および初級の組込み技術者に経験を積ませ、その実力を中級以上へと引き上げることを目的として開催されている(学生の参加も可能)、「ETロボコン」(正式名称:ETロボコンソフトウェアデザインロボットコンテスト)。

11月14日にパシフィコ横浜で開催されるチャンピオンシップ(全国)大会出場を目指して地区大会が全国各地で行われてきている。茨城、千葉、山梨、長野を加えた東京大会は最も参加数の多い地区大会で、今年は去る9月29日・30日に早稲田大学西早稲田キャンパス63号館2Fにて開催された。その模様をお届けする。

ETロボコンは、レゴ マインドストームNXTのパーツを利用した自律型の倒立2輪振子型のロボット=走行体(カラーリングなどビジュアル面を変更できるぐらいでパーツはどのチームもすべて同じ)で使用して難所の用意されたコースを走り、そのタイムを競うと同時に、走行体を自律走向させるためのソフトウェアの優秀さを競う内容だ(画像1)(昨年のチャンピオンシップ大会の模様はこちら)。

画像1。走行体。性能はほぼ一緒(若干の個体差はある)なので、ソフトウェアの完成度の勝負となる。ゼッケン17は、田町レーシング

こう書くと完走タイムの速さで競われているように見えてしまうかもれないが、そうではない。ハードウェアはワンメイク(スタートの方式をBluetooth方式か、タッチセンサを選手が押す方式かという違いは選べる)なので、UML(Unified Modeling Language)などで分析・設計した制御用の搭載ソフトウェアの完成度がどれだけ高いか、どれだけ独創的かの方が重要となる。つまり、プログラム重視のコンテストなのだ。

総合優勝を狙うには、「走らせたらよくわからないけどうまくいった」はダメであり、うまくいった理由や、逆に失敗した原因などをきちんと把握し、非常事態が発生した時の復旧の仕組みなども考慮し、安定した結果を出せるプログラムを開発することが重要なのである。

競技方法は、ゼッケンで番号が若い順から2チーム1組で、コースを走ってタイムを計測する。コースは、インとアウトの2種類があり(コース上に白地で黒のラインが2本描かれており、それを光センサでトレースできる)、まず1回目ではゼッケンの奇数チームがインを、偶数チームがアウトを走る。2回目では、その2チームがインとアウトを入れ替えて走るというわけだ。

基本、どこのチームより前だ後ろだというライバルと競うというよりは、いかにいいタイムを出せるか、いかに難所をクリアできるか、そして高評価を得られるいいモデルを設計できるかが勝負となるので、自分たち自身との戦い的な部分が強い。F1などのサーキットでの抜きつ抜かれつ系のレースというよりも、WRCなどのどれだけベストタイムを出せるかというラリーの方がイメージ的には近い感じだ。

今年のコースレイアウトの全景は画像2と3の通り。昨年から採用されたまずベーシックステージを走って、コースレイアウト上では中間にあるゴールまでたどり着いたらひとまず完走という形。その後は難所のあるボーナスステージとなり、トライするしないは自由だが、難所をパーフェクトに制覇しなければ、まず上位は狙えないという具合である。

一見すると簡単だが、それは基本は、初級レベルの技術者が参加する場なので、最低限完走は狙いやすくなっているのだ。2年前までは、コースを1周する形で、途中に難所があって、それをスキップするかトライするか、という仕組みだったため、完走するだけでも難度が高かったのである。

画像2。今年のコースレイアウトをスタート地点側から。ベーシックステージのゴールは東京タワーの右側のピンクの長方形のポールのところ

画像3。第2コーナー側からコース全体を見たところ。ベーシックステージは昨年からほとんど変わっていない

ベーシックステージの内容は、スタートして1コーナーの手前に坂道があり(画像4・5)、2コーナーから先はS字区間(画像6・7)。そこを終えるともうゴール(画像8)で、その後がボーナスステージとなる。ベーシックステージは、インの方がゴールまでの距離が近い(アウトはコーナーでアウトになることが4コーナー中3回あるので、その分遠回りになる)という差以外は一緒だ。

画像4。坂道。経験の浅いチームには、ここをクリアするのも大変だったりする

画像5。人の目からすると大したことのない坂道だが、走行体にとってはそれなりの傾斜角がある

画像6。S字区間。速度を出したいところだが、転倒してしまう危険性も

画像7。S字区間で2体の速度が拮抗していると、抜きつ抜かれつになって面白い

画像8。ゴール。東京タワーの少し手前にある。2台がほぼ一緒にゴールするのはなかなかない

またコースは、必ず通過しなければいけないポイント(画像9)があるだけなので、必ずしもラインをトレースする必要はない。もっとも、コーナーごとにポイントが設定されているため、コーナーを1つスキップするといった大幅なショートカットはできないし、間に障害物が設置されているため、事実上、コースを走行することが一番の近道となる。

画像9。コース両脇に立つポールがポイント。すべてのポイントを通過しないとならない

ただし、昨年のチャンピオンシップ大会で1チームが披露した、アウトからインへのレーンチェンジはルール上問題ない。よって、今年の東京大会でも初日に1チーム、「Spica(NEC航空宇宙システム)」がそれを披露し(画像10)、ベーシックステージの完走タイムで好タイムを出した(ただし、難所などをすべてクリアできたわけではないので、インとアウトの合計となる競技部門で6位となっている)。

画像10。ゼッケン38のSpica。偶数チームなので1回目の走行ではアウトコースを通常は走るが、ご覧の通りインコース(画面奥側)を走っている

そしてボーナスステージの内容だが、インはまず「ルックアップゲート」、今年初登場の「ドリフトターン」、そして「ガレージ」。アウトは、段上で直角ターンすることになった「階段」、「シーソー」、そしてガレージだ。

難所にはそれぞれボーナスタイムが設定されており、成功すれば、完走タイムからその分だけ減算され、Bluetoothによる無線スタートの5秒も加えてパーフェクトに決めれば、ゴールまで20秒台で走ればマイナスタイムにまで到達するというわけである(実際、マイナスタイムじゃないと競技部門の優勝は狙えない)。

まずはインの難所から詳しく説明すると、ルックアップゲート(画像11)では走行体をのけぞらせて、バーをくぐっていくというもの(画像12・13)。イメージとしてはリンボーダンスだ。これは昨年から登場している難所だ。ボーナスタイムは10秒である。

画像11。ルックアップゲート。難所の中では簡単な方だが、それでもきっちり検出して、より倒れやすいのけぞった状態での姿勢を制御するなど、見た目よりは難しい

画像12。ルックアップゲートの通過時は、このように走行体をのけぞらせる必要がある

画像13。一般的に通過時は尻尾を下ろして支えるのだが、この初日のゼッケン6・Subsonicは、尻尾を下ろさず、さらにのけぞらせて通過

続くドリフトターン(画像14)は、リッターサイズのペットボトルが2本立てられており、その間を抜けていくというもの(画像15・16)。ただし左右どちらから抜けるかは、走行体自らに判断させるため、スタート後に指定される仕組みだ。

ドリフトターンの手前のコース脇(画像14の右上の辺り)の左右どちらかに3本目のペットボトルが立っているので、それを超音波センサで検出してどちらから抜けるかを走行体自らが判断するのである。

また、この区間はラインがないため、光センサでトレースして間を抜けるということはできない。超音波センサで2本のペットボトルを検知して、その間をぶつからないように抜けていくのである。そして、さらにボーナスポイントを獲得するためには、ガレージに向かって再びライン上に復帰する必要があるので、ここもかなり難しい。

なお、規定通りに抜ければ15秒だが、反対側から抜けてしまうと、15秒加算されてしまう(コースを間違えたら、直前にギブアップしてしまえば加算はされない)。

画像14。ドリフトターン。ここの区間はトレースできるラインがなくなるため、超音波センサが頼りとなる。非常に難易度が高い

画像15。進行方向左側から間をチーム整理・整頓・躾が抜けていくところ

画像16。2本のペットボトルの間隔は走行体の左右に5cm程度。きっちり真ん中を抜けないと厳しい

そして最後のガレージは、囲いにぶつからず、なおかつきっちりガレージエリア内で停止することが条件だ(画像17・18)。インコースはドリフトターンで大きくラインから逸脱するため、「コース復旧」分を加えた10秒となっている。

画像17。ガレージ。インコースの方が、ドリフトターンでラインがトレースできなくなるため、難度が高く、ボーナスがアウトの倍の10秒

画像18。きっちり、インコースのガレージインを決めるSKP4.8

それからアウトコースだが、まず最初に来るのがお馴染みの階段(画像19~21)。今年は段上で直角ターンするようなコースとなり、左に90度旋回してから下りるという、昨年までと比べると少々難しくなった。シーソーの方が簡単だったという声も出ていたほどである。ボーナスタイムは10秒。

画像19。2010年に導入され、昨年までは段数の構成こそ同じだが、直線的に抜けていっていたのが、今年は段上で左への直角ターンが導入された

画像20。順調に2段を上ってきた追跡線隊ICSイエロー。このあと、左に90度ターン。上る時は1度軽くタイヤをぶつけてそろえて(走行体を階段に正対させる)から、バックして勢いをつけて上るのが常套手段

画像21。ちゃぶ台返し(MathWorks)が段上で左90度ターンを決めたところ

画像22。続けて、ちゃぶ台返しが階段を下りた瞬間。きれいに着地させるのはなかなか難しく、ここで転倒してしまう危険性も高い

次のシーソー通過は、毎年お馴染みのシングルとダブルが設定されている(画像23~26)。1回で通過してしまった場合はシングルで10秒。1回で通過せず、バッタンとなった時にそこでシーソーから下りずにバックして最初の状態にバッタンと戻して、それから前進してもう1回バッタンとやって抜ければダブルで、20秒。シングルかダブルのどちらかしか選べないが、最速タイムを狙うにはダブルは必須だ。

画像23。シーソー。2010年から導入された。2010年はシーソーのバランスを取った状態で1秒停止という離れ業を成し遂げたチームもあった

画像24。力強くシーソーを上っていくASB48Jr.(リンク情報システム)。シーソーも階段と同様に正対させるのが重要

画像25。シーソーを正面から。追跡線隊ICSイエローが上ってきたところ。実はダブル

画像26。着地もバッチリ。降りる瞬間も段差があるので、ここの衝撃でバランスを崩してしまうチームも多い

最後のガレージインは、ドリフトターンのあるインコースに比べれば若干優しいので(実際にはシーソーから降りた時にバランスを崩しやすくて決して優しくはないのだが)、ボーナスタイムは5秒となっている。

こうした内容の2012年のコースをインとアウトをそれぞれ1回ずつ走って、その合計タイムで、競技部門の順位が決定する仕組みだ。なお、持ち時間は120秒で、ベーシックステージでそれ以内にゴールまでたどり着かないと、完走扱いとはならない。また、途中で転倒やコースアウトなどでリタイヤした場合も、同じく120秒というリザルトとなる。

このETロボコン、速く走れば総合優勝できるかというと、冒頭で述べたようにそうではない。ソフトウェア設計モデル(プログラムの設計仕様、コンセプトなどをまとめたもの)の完成度も重要で、速いのは当然だが、それよりもモデリングの完成度の高さの方が成績に影響する感じだ。実際、モデリングの評価がAで競技部門の成績が8位というチームが、モデリングの評価がB+で競技部門が4位のチームよりも上の成績だった。

また、競技部門とモデル部門のどちらかで優勝したとしても、もう片方の成績がとても悪ければ、総合部門で優勝はもちろん、上位に進出することすら難しくなる。単純に両方の成績を足して2で割って総合得点を出しているのではないからだ。

その計算式だが、まず走行競技の場合は最低タイムを0点とし、最速タイムを1点という形で全チームの得点を0~1点以内で算出。次にモデル部門も同様に最低点が0点で、最優秀が1点として全チームに点数を割り振る。そして、(2×モデル×走行)/(モデル+走行)という計算式でもって得点を算出し、総合順位を決定するのである。それをプロットしたのが画像27(初日)と28(2日目)のグラフで、右上の頂点に最も近いチームが総合優勝となる。

画像27。初日の各チームの成績をプロットしたグラフ。縦軸が競技結果で、横がモデル評価。境界線の右側に入ってないと、総合優勝は難しい

画像28。2日目の各チームの成績をプロットしたグラフ。競技結果が最高点だったとしても、モデル評価が高くないと、優勝が厳しいことがわかるはず

続いては今年の特徴について触れたいが、最大のポイントは、会場が早稲田大学西早稲田キャンパス63号館に移ったことだろう(画像29)。これまで東京大会で有名だったことといえば、よくも悪くもコース自体が環境的に非常に難度が高かったことである。その理由は、毎年会場として使われていた工学院大新宿キャンパスのアトリウムが、天窓になっていたためだ(昨年のリポートはこちら)。

画像29。早稲田大学西早稲田キャンパス63号館。この2階の1室が会場となった

画像30。63号館の1階には、日本のロボット研究の元祖である早稲田大学ならではの歴史的なロボットたちが展示されている

大会のスケジュールは、おおよそ試走時間帯は午前中、本戦の1回目はお昼頃、2回目はおやつ時という具合で進むので、快晴だと天窓から差し込む日の光が時々刻々と変化し、人間の目にはコースが白とか黒とかにしか見えなくても、センサにとってはコースの状況が常に変化してしまうという環境だったのだ(とても開放感があり、人にとっては居心地のいい空間だったのだが)。

走行体で使えるセンサは赤外線センサ1つのみなので、陽光の変化というのはなかなか厳しく、そのためにスタート直後からラインを見失ってしまうようなチームもあったのである(もちろん、優秀なチームはこの点も克服してくる)。それが、今回は窓はあるものの、通常の壁面に備えられた窓なので、外光の変化はほぼ影響しなかったため、完走率が高くなったようだ。

今回は工学院大学側の周年行事などの都合があってスケジュール的に利用できなかったそうで、早稲田大学に会場を移す形となった。ただし、早稲田大学のキャンパスで開催できるようになった経緯には、同大学のグローバルソフトウェアエンジニアリング研究所の所長で、同大基幹理工学部情報理工学科准教授(さらに国立情報学研究所客員教授の肩書きもある)の鷲崎弘宜 博士の尽力がある。

鷲崎博士は30代半ばでそれだけの大役を任されている人物だが、ETロボコンの初期の大会に参加していたという経験も持つ、それ以降も何らかの形でETロボコンと接してきたそうだが、今回改めて運営側の1人として参加して、この会場の提供に尽力したというわけだ。

ETロボコンは、鷲崎博士のようにかつて参加していた人たちが運営側に回って大会を支えているのが特徴で、今や全国11地区、2012年は337チームが参加する大きな競技会となっている。また、鷲崎博士は会場の提供というだけでなく、後述するが、今年のモデリングに関する技術の新風として「パターンランゲージ」を送り込んでもいる(教え子の学生チームがそれで活躍)。

そして今年の参加チームだが、両日(Aブロック、Bブロック)共に46チームがエントリーし、最終的に8チームが欠場したが、総計で84チームが走行した。この中から、両日とも上位5チーム(上位4チーム+地区実行委員推薦枠1チーム)の計10チームがチャンピオンシップ大会に進めるというわけだ。

また、今年の新機軸の戦術はというと、前述したようにアウトからインへのレーンチェンジ(厳密には完全な新戦術ではないが東京大会では初登場)を1チームが披露。そして、階段をバックで登るというのも1チームが披露した。

ただし、このバック登りは結局のところはうまくいかなかったので、効果があるという話も聞かれたが、実際のところどれだけ有効かは未知数という感じだ。チャンピオンシップ大会でどれだけのチームが採用するのか、また来年以降採用チームがどれだけ増えるか、という点での評価となっていくだろう。

それから、ルックアップゲートの通過時にのけぞった際に倒れないよう3点支持をするための尻尾パーツを下ろしたまま走行する「尻尾走行」は、もはや流行どころか、使って当たり前、の状況になっていた。

昨年のチャンピオンシップ大会から速度を出すには有効ということで採用チームが増え、今年の東京大会もおおよそ半数は尻尾走行というぐらい、一般的となっていた。2輪走行よりも速度が完全に上なので、ルールで中止されない限りは、今後はますます尻尾走行が増えていくことだろう。

ちなみに、尻尾走行でどれだけ走行体を寝かせるかは、チームによって結構異なる。垂直に近いチームもあれば、そのままルックアップゲートをくぐれるんじゃないかというぐらい寝かせているチームもあり、角度を見比べてみるだけでいろいろとわかるという具合。走行体が走っているシーンを多数載せてみたので、その寝かせている角度を見比べてみてほしい。

そしてまず初日の結果だが、以下の通り。なお、昨年のチャンピオンシップ大会で設けられたモデル部門の特別賞「IPA賞」は、2012年からは地区大会にも設定されることとなった。

競技部門

  • 優勝:田町レーシング(オージス総研 組込みソリューション部)(画像1)
  • 準優勝:新しいテキスト.txt(早稲田大学 鷲崎研究室)(画像31)
  • 3位:チーム整理・整頓・躾(協栄産業 システム第一事業部)(画像15)

リザルトタイムは、田町レーシングが-13.5秒、新しいテキスト.txtが-10.6秒、チーム整理・整頓・躾が7.6秒だ。

画像31。ゼッケン26の新しいテキスト.txt。パターンランゲージを活用し、早稲田大学 鷲崎研究室の学生たちが上位に進出

モデル部門

  • エクセレントモデル(優勝):NEW UFO(日立製作所 日立研究所)(画像32)
  • ゴールドモデル(準優勝):田町レーシング(オージス総研 組込みソリューション部)
  • シルバーモデル(3位):ARASHI50(日本無線 情報ソリューション技術部)(画像33)
  • IPA賞:新しいテキスト.txt(早稲田大学 鷲崎研究室)

なおモデル部門は、具体的に完走タイムのように順位ではなく、モデルの完成度を評価したランクが公表される(運営サイドでは厳密な点数付けは行われているが発表を行わない)。

NEW UFOは東京地区の常連強豪チームだけあって伝統としてモデリングの完成度が高く(今年は、競技のイン側ですぐにスタートできないというミスがあって、競技部門では26位と沈んでしまった)、評価はA-(マイナス)。田町レーシングもA-、ARASHI50はB+という評価だ。

画像32。ゼッケン44のNEW UFO。惜しかったのは、2回目。スタートに失敗し、大幅なタイムロスをしてしまった。それがなければ、総合で上位を争ったはず

画像33。ゼッケン27のARASHI50。上位陣の中では唯一の2輪走行をしているチーム。それでも、競技部門の7位だ

IPA賞の受賞理由は、鷲崎博士の研究分野の1つであるパターンランゲージをETロボコンのモデリングに導入したことが評価された(残念ながらモデリングそのものの評価はB-)。

ちなみにパターンランゲージはとてもシンプルなコンセプトで、「先達の知恵やノウハウをパターンとしてまとめ、パターン同士に繋がりを持たせたもの」だ。要は、無自覚・無意識になんとなく利用してきた経験やノウハウを、パターン化して関連づけをするという、もっと明確に、誰でも扱いやすいようにまとめたものなのである。

鷲崎博士らはETロボコンにおけるパターンランゲージを9カ月間にわたって収集し、実際にこれらを活用しながら計画・設計・実装を行ったという。実際にこれらパターンランゲージを用いることで、初参加のチームでもETロボコンで培われていた知恵やノウハウを習得することができ、結果を出すことができた形だ。また、チームの会話の中でもパターン名を用いることで円滑なコミュニケーションを可能とするという。

さらに詳しく説明すると、パターンランゲージは、「状況」(繰り返し発生する一群の状況のこと)、「問題」(特定の状況下における問題のこと)、「フォース」(問題を解決する上での制約条件を意味する)、「解決策」(制約条件を満たす問題の解決策を意味する)から成り立つ。また、必要に応じてそれ以外の情報(事例や関連性)を付加させる仕組みだ。

来年のETロボコンに参加しようというチームはもちろん、仕事でも人生設計でも何かの作品作りでも何にでも応用が利くものなので、「どうもうまくいかない」「初めてのことなので進め方がわからない」という時は、パターンランゲージを導入してみてはいかがだろうか(なお、ETロボコンのためのパターンランゲージに関する鷲崎研究室のWebサイトはこちら)。

そして総合部門の順位は、以下の通り。

総合部門

  • 優勝:田町レーシング(オージス総研 組込みソリューション部)
  • 準優勝:飛べ! ぼくらの夢ヒコーキ(アヴァシス)(画像34)
  • 3位:ザ・ファントムタムラ(早稲田大学 鷲崎研究室)(画像35)
  • 4位:ARASHI50(日本無線 情報ソリューション技術部)
  • 地区実行委員推薦:NEW UFO(日立製作所 日立研究所)

競技、モデルの両部門に顔を出していないにも関わらず、飛べ! ぼくらの夢ヒコーキが総合で準優勝になったのは、競技部門で4位、モデル評価でBという成績だったから。同様に、ザ・ファントムタムラも、競技部門で5位、モデル評価でB+という成績による。ちなみにARASHI50の競技部門の順位は7位だ。

前述したように両部門を評価する計算式を用いて総合順位を出すため、部門別ではどちらも3位以内には入っていなくても、どちらもそろって、4位、5位といった具合にバランスの取れた成績を収めたチームが上位に来るのである。

画像34。ゼッケン19の飛べ! ぼくらの夢ヒコーキ

画像35。ゼッケン29のザ・ファントムタムラ

続いては、2日目の30日。この日は、東京大会(いや全国的にも)の名物チームの日立情報制御ソリューションズの追跡線隊ICSのレッド、ブルー、イエローの3チームがそろって出場(2日間の振り分けはランダムなため、今年はたまたま3チームとも2日目となった)。

このチーム、単にチーム名が東映の特撮番組の戦隊ものっぽいというわけではない。ちゃんとメンバーの1名が、全身コスプレでオリジナルの追跡線隊ICSのレッド、ブルー、イエローの格好をしているのだ(画像36・37)。なので、まぁ、とにかく目立つ。

ちなみにICSイエローは女性ということらしいが、コメントは発していないため、真相は不明。本家の東映の特撮ものの戦隊シリーズでは、女性戦士の中にスーツアクトレスではなく、女形スーツアクターが入っているのは常識だが、そこら辺は深く突っ込まずにおこう。

画像36。追跡線隊ICSのレッドとブルー。ちゃんとこのままの姿で仲間を応援しているのだ

画像37。こちらはイエロー。中の人も女性と思い込めば、それはそうなるのだ

また、昨年からチーム名は若干変わったが、強豪チーム「Z-PANDA」も2日目。このチームは、選手がパンダのかぶり物をしているのが特徴で、今年は2日目にハデなチームが集中したようだ。

画像38。パンダのかぶり物をしているZ-PANDAの選手。授賞式での様子

それではまず、競技部門とモデル部門の上位3チームから。

競技部門

  • 優勝:追跡線隊ICSイエロー(日立情報制御ソリューションズ)(画像25・26)
  • 準優勝:追跡線隊ICSレッド(日立情報制御ソリューションズ)(画像39)
  • 3位:SKP4.8(日立オートモティブシステムズ)(画像18)

リザルトタイムは追跡線隊ICSイエローが-19.5秒と、両日合わせて最速タイム。おそらく全国でも上位入賞が可能なタイムと思われる。追跡線隊ICSレッドが5.7秒、SKP4.8が5.9秒だ。ちなみに、追跡線隊ICSブルーも6位で、追跡線隊ICSは3チームとも上位だった。

画像39。ゼッケン34の追跡線隊ICSレッド。追跡線隊ICSの走行体は、特にその名前に全体を塗られているわけではない

モデル部門

  • エクセレントモデル(優勝):芝浦雑伎団(オージス総研 組込みソリューション部)(画像40)
  • ゴールドモデル(準優勝):StrayCab07(ソフトウェアコントロール)(画像41)
  • シルバーモデル(3位):チーム六文銭(日置電機)(画像42)
  • IPA賞:該当なし

モデル部門の評価は、芝浦雑伎団がA、StrayCab07がA-、チーム六文銭がB+となっている。なかなかA評価が出ないのが現状だそうだが、あともう一工夫で1ランク上の評価が出る惜しいものも多いという。

画像40。ゼッケン7の芝浦雑伎団。両日共に株式会社オージス総研のチームが制した

画像41。ゼッケン24のStrayCab07。

画像42。ゼッケン14のチーム六文銭。長野県のチームで、戦国大名の真田氏の家紋にちなんでいる

モデリングが複雑になってきているため、提出用のA3用紙6枚(コンセプトシート1枚+モデル図5枚)では面積的に足りなくなってきているようだが、印刷時につぶれてしまうほどの小さな文字でそこを何もかも書き込んだりするのではなく、必要な部分のみを取捨選択して、見せる工夫が必要だとしている。

また、モデルに関する傾向としては、どうしてもモデル部門のエクセレントを受賞したモデルが参考になりやすいため、似た傾向になってしまっていて、オリジナリティが減ってきている点も問題としている。

そして総合部門が以下の通り。

総合部門

  • 優勝:芝浦雑伎団(オージス総研 組込みソリューション部)
  • 準優勝:StrayCab07(ソフトウェアコントロール)
  • 3位:Z-PANDA(日立超LSIシステムズ)(画像43)
  • 4位:チーム六文銭(日置電機)
  • 地区実行委員推薦:追跡線隊ICSイエロー(日立情報制御ソリューションズ)

芝浦雑伎団は、初日の総合優勝の田町レーシングと同門。なんと、2012年の東京大会は両日ともオージス総研 組込みソリューション部が制した形となった。

ちなみに、芝浦雑伎団の競技順位は8位。StrayCab07は13位。Z-PANDAは4位で、モデルの評価はB+。チーム六文銭の競技順位は14位となっている。この2日目の結果からも、どれだけモデルの完成度の高さが重要かということがわかるはずだ。

画像43。ゼッケン18のZ-PANDA。昨年はSUPRAだったが、今年はZに名称の一部を改名

というわけで、今回、東京地区のチャンピオンシップ大会出場チームは、田町レーシング、飛べ! ぼくらの夢ヒコーキ、ザ・ファントムタムラ、ARASHI50、NEW UFO、芝浦雑伎団、StrayCab07、Z-PANDA、チーム六文銭、追跡線隊ICSイエローとなった。

画像44。初日の覇者、田町レーシングのメンバー。実際には会場に来られなかったチームメイトがいたそうだ

画像45。芝浦雑伎団のメンバー。実は、会社が引っ越ししたため、田町レーシングも芝浦雑伎団も来年は名称変更になるとか

画像46。初日のリザルト。競技順位の4位以下のタイム、正確なモデル評価の順位などは発表されていない

画像47。2日目のリザルト

10チーム送り込めるのは東京地区だけなので、東京地区がチャンピオンシップ大会で優勝できる可能性は高いのだが、これまでのところ、自動車関連産業の多い東海地区、そして南関東(実際は神奈川県)などが結果を出しており、東京地区からの優勝チームは誕生していない。ただし、今年は他地区と比べてかなりレベルが拮抗してきているというので、期待できるという。

あとは、チャンピオンシップ大会までどれだけレベルアップできるかであり、今年もどれだけレベルの高い全国のトップチームの活躍が見られるか楽しみな限りである。個人的には、競技部門で-20秒台オーバーのタイムを見てみたい。インもアウトも難所をパーフェクトに達成すると、40秒のボーナスをもらえるので、ベーシックコースを20秒切ると、-20秒オーバーが達成される。昨年はあと1秒短縮できれば20秒を切れるタイムを出したチームがあったので、今年のチャンピオンシップ大会は非常に楽しみだ。

なお、チャンピオンシップ大会は11月14日という週半ばの開催のため、会場に足を運べないという人も多いことだろう。また、会場が遠くて行けないという人もいると思われるが、動画配信も行われる予定なので、そちらもチェックしていただきたい。