パナソニック デバイス社は、1/3.06型 13Mピクセルの「SmartFSIイメージセンサ」を開発。2012年12月から量産を開始すると発表した。同イメージセンサを活用することで、スマートフォンやタブレット端末に搭載するカメラを、デジタルカメラ並のS/Nと、高い色再現性の実現することが可能になり、高画質化が進んでいるモバイル端末などでの採用が見込まれる。パナソニック デバイス社 半導体事業グループ イメージセンサビジネスユニット・小山一弘ビジネスユニット長と、技術統括の田代信一氏に話を聞いた。

1/3.06型 13MピクセルSmartFSIイメージセンサ(画像提供:パナソニック)

1/3.06型 13MピクセルSmartFSIイメージセンサの概要

独自の光隔壁と光導波路で構成するSmartFSI

パナソニック デバイス社では、2011年12月から14MピクセルのSmartFSIイメージセンサの量産を開始。さらに、2012年6月からは16MピクセルのSmartFSIイメージセンサを量産しており、いずれもデジタルカメラ向けに供給を行っていた。

パナソニック デバイス社半導体事業グループイメージセンサビジネスユニット・小山一弘ビジネスユニット長

SmartFSI技術は、「裏面照射型センサと、表面照射型センサのいいところ取りをしたもの」(パナソニック デバイス社半導体事業グループイメージセンサビジネスユニット・小山一弘ビジネスユニット長)とするように、高画質と低ノイズ、高い色再現性、薄型化を高いバランスで達成しているのが特長だ。

今回開発した1/3.06型 13MピクセルSmartFSIイメージセンサは、デジカメ向け製品で培った同社独自のSmartFSI技術をベースに、高画質を維持しながら、さらなる薄型化を図ったもので、スマートフォンやタブレットなど、デジタルカメラよりも、さらに薄型化が求められる製品向けに開発した。

「現在のスマートフォンの薄さは、カメラモジュールの薄さがそのまま影響する。今回開発したSmartFSIイメージセンサによって、13Mピクセルという高画質を達成しながら、カメラモジュールで5mmを切る薄さを実現できる。また、最終製品では7mm程度の薄さにまでできる。これを実現できる量産技術は、いまはSmartFSIイメージセンサだけといえる。高い競争力を持った製品になる」と、小山氏は胸を張る。

レンズとセンサの距離を短くすることで薄型化を実現できる

SmartFSIイメージセンサには、いくつかの特長がある。中でも最大の特長は、画素ごとに光隔壁と光導波路で構成する独自の集光構造としている点だ。

光隔壁は、カラーフィルタの周りを取り囲んだ壁で、周囲より屈折率の低い材料で構成。光を反射する機能を持っている。これにより、様々な方向から入射してくる光を反射させ、画素の中に閉じ込めることができる。また、光導波路は、周囲より屈折率の高い材料で構成され、画素に入射した光を閉じ込め、フォトダイオードに誘導する光の通路の役割を果たすことになる。

従来の裏面照射型イメージセンサでは、カラーフィルタを通じて集光された光は、遮光膜によって混色を防いでいるが、薄型化すると遮光膜が小さくなり、混色が発生しやすくなるという課題があった。さらに、入射した光が拡散し、集光ロスが発生し、高い感度を維持することが難しくなるという問題もあった。

これに対して、SmartFSIイメージセンサは、光隔壁を画素ごとに配置することで、これが反射鏡となり広い入射角度の光を集光できるほか、じょうご型の光導波路で効率的に光を集め、光を電子に変換するフォトダイオードでは多くの光を混色することなくキャッチできるという。

SmartFSIイメージセンサと従来の裏面照射型イメージセンサの画素構造の違い

また、裏面照射型イメージセンサに比べて、SmartFSIのフォトダイオードは構造上、広く、深いものを採用することが可能で、これによって高画質化を実現している。

パナソニック デバイス社半導体事業グループイメージセンサビジネスユニット技術統括の田代信一氏

さらに、「トランジスタの低ノイズ化のために、半導体微細加工技術により、トランジスタのゲート酸化膜を薄膜化。画素アンプのノイズを従来製品に比べて50%低減したことで、従来製品に比べて2倍の高S/Nを達成。夜景や暗い室内でもきれいに撮影できる」(パナソニック デバイス社半導体事業グループイメージセンサビジネスユニット技術統括の田代信一氏)という。

SmartFSIでは、光隔壁、光導波路、大型フォトダイオードの採用によって、微細化した際にも高感度を維持。画素面積は1.77μm2 から1.25μm2と71%縮小したにも関わらず、従来の3200el/lx/sec/μm2から、3230el/lx/sec/μm2と、業界トップレベルの高感度を維持することに成功したという。

高い集光効率を持つ構造は、レンズとセンサの距離を短くすることにもつながっており、これが薄型化に寄与。理論的には、現行製品に比べて30%の薄型化も可能だという。

デジカメ用のイメージセンサと比較しても差がないことがわかる

さらに、こうした構造は、集光特性の設計自由度が大幅に増すことにもつながっている。これにより、カメラモジュールのレンズ特性とイメージセンサの集光特性を最適マッチング設計することができるため、カメラの薄型化にともない発生するイメージセンサ周辺画素での混色の減少や、集光率の低下を防ぐことができ、色ムラや輝度ムラのない高画質な薄型カメラの実現を可能にしている。

加えて、製造工程面でのメリットもある。裏面照射型イメージセンサでは、シリコンウェハの表面に支持基板を張り付け、そこからシリコンウェハを削るという作業が発生する。「SmartFSIイメージセンサでは、極薄に削る作業が不要であり、生産リードタイムで約20%の削減が可能。製造コストの削減と、タイムリーな市場投入が可能になる」(小山氏)という。

拡大するモバイル端末市場向け高解像度イメージセンサ市場

パナソニックでは、SmartFSI技術が、今後、拡大が見込まれるモバイル端末向けイメージセンサ市場において、重要な役割を果たすとみている。

同社によると、2012年度のモバイル端末向けイメージセンサの市場規模を100とした場合、2015年度には127へと拡大。年率8%の市場成長が見込まれているという。しかも、8Mピクセル以上の高画質イメージセンサ市場は年率28%で成長し、市場規模は倍増以上になるとも予測されているのだ。

「最も成長が著しいモバイル向け高画質イメージセンサ市場において高い競争力を発揮する製品。すでに10社のモジュールメーカーが、カメラモジュールの製品化に着手している。今後、実績を積み重ねることで、国内外のスマートフォンメーカーへの採用を加速させていきたい」と、小山氏は意気込む。

カメラモジュールとしてすでに10社が製品化に乗り出している(画像提供:パナソニック)

パナソニックのMOSイメージセンサの事業規模は、2011年度実績で約100億円。これを2015年度には7倍となる約700億円の売上高に拡大する計画を打ち出す。そのうち、400億円をモバイル端末向け製品で占める考えだ。

パナソニックでは、2015年度までに約700億円の売上高を目指す

さらに、「パソナニックは、感動、安心、安全という観点からイメージセンサ事業に取り組んでいる。感動では、デジタルカメラ向けや放送用カメラ、業務用カメラ向け、安全では監視・車載カメラ向け、安心ではファイバー内視鏡や硬性鏡カメラなどが対象となる。こうしたなかで成長分野としてモバイル領域へと進出する一方、指のわずかな動きでも感知できるようなセンシング分野にも展開していく。ここでは、デバイスソリューショングループとの連動によって、アプリケーションやソリューションと組み合わせた提案を行っていく」(小山氏)としている。

今回のモバイル端末向けイメージセンサは、同社のイメージセンサ事業拡大の重要な柱となるのは間違いない。さらに、センシングを活用した新規分野への進出も、今後の重要な取り組みになりそうだ。

モバイル向けイメージセンサ市場は高画質化が進展すると予測される