Autodesk Sr.Product Line Manager,AutoCAD Information Modeling & Platform Products GroupのRob Maguire氏

Autodeskは2012年2月に自社3D CAD製品の最新版となる「AutoCAD 2013」を発表したが、同社Sr.Product Line Manager,AutoCAD Information Modeling & Platform Products GroupのRob Maguire氏にAutoCAD 2013と、さらに将来のAutoCADがどういった方向性に向かっているのかについて話を聞く機会をいただいたので、その様子をお伝えしたい。

AutoCADの開発の方向性としては、3つのテーマがあるという。1つ目が「パーソナライゼーション」。ユーザーごとにAutoCADの環境は変わってくるが、そうした個々人が最適な環境を構築することを目指すというものだ。例えばクラウド型サービスとしてアプリケーションストアの提供を行っており、これによりサードベンダが作成したアプリなどをユーザーは手軽に購入することが可能となる。「安いアプリや従来であればあまり目立たなかった中小企業が作成したアプリなどが良く売れている」とのことで、主にAutoCADの専任担当者が不在の企業などが、従来であればCADマネージャーなどが作成していたオブジェクトなどを開発する手間を省くなどの意味で購入しているようだという(なお同ストアは日本語化はされていないものの、特定のアプリなどは日本向けに良く売れているという)。

Autodesk側もツールがしっかりと機能するか、ウィルスではないかどうか、権利を侵害していないかなどのチェックを行っているが、最大のポイントは「我々が場所を貸すということで、そのツールに対する安心感と信頼を提供することができる」という点にあるという。

2つ目は「クラウドとの連携」。3D CADの設計そのものはノートやデスクトップPCなどを活用して行われるが、SNSやタブレットなどのモバイルデバイスの登場により、その活用範囲が拡大しており、現場で図面と実際の工事状況を比べたり、その場で図面に修正を加えたりということができるようになってきている。しかし、それぞれのデバイスごとにデータが連動していない、環境が異なる、といった状態だと非常に使いづらいことになるため、Autodesk IDを活用することで、ユーザーのドキュメントとセッティングのシンクロを可能となっている。これにより普段から使用しているAutoCADの環境をどこでも利用することが可能となっている。

また、AutoCAD 2012から3Dモデルを2Dの図面に落とすことが可能となっている。AutoCAD 2013では柔軟性が増しており、2D化した際に、細かな設定などが可能になった。また、フォーマットも同社以外のものにも対応しており、「AutoCADをセントラルハブとして活用してもらうためにフォーマットにこだわらないようにしている。AutoCADはユーザーのベストプラクティスを実現するための1つのピースであれば良いと思ってる」と説明している。

そして3つ目が「データアグリゲーション(データの集約/統合)」である。上述のフォーマットの件にも関わるが、このデータというのはそうした競合ベンダのファイルもあるが、例えばGoogle SketchUpで描かれたデータや、写真データ、位置データ、Dropboxのデータなど、通常のCADデータ以外の各種ソースとの連携が必要になってくるという。

こうしたデータを取り込み、活用できるようにすることで、「将来のAutoCADはものづくりの中心になる」と将来に向けた意気込みを語る。「こうしたさまざまなデータの取り込みや機能のクラウドでの提供を通じて、物の見方そのものを変えようとしている。なかなか従来から3D CADを活用している人の視点は変えられないかもしれないが、新たに3D CADを活用する人は、新しい価値観を持っているかもしれない」。ここで言う新たなユーザーというのは、モバイル機器の活用がさらに進む近い将来において、そういう機器で3D CADを活用する人たちのことだという。「例えばEvernoteなどはシームレスにタブレットやPCが連携しており、ユーザーは機器が何であろうとも、それを意識せずにEvernoteを使うことができる。現在、CADベンダでこれを実現できているところはない。我々はこうした体験を実現したいと思っている」と、その意図を明かす。

また、そうしたさまざまなリアルのデータを取得すれば、当然データ量は爆発的に増大していくこととなる。「そうした点では、時系列(ヒストリ)で、誰が何を行ったのかを見えるようにすることが重要になる」。すでに、同社では、リアルの世界の建築物などを写真として撮影するだけで3Dモデル化することができるiPadアプリ「123D Catch」を提供している。

新たなユーザーが新たな3D CADの使い方を生み出すことを前提にそれを見越して対応を図っていくことをAutoCADでは進めている

AutoCADのゴールは、「モダン」「コネクテッド」「パーソナライズド」という3つのユーザーエクスペリエンスを統合した姿だと同氏は語り、モダンでは「例えばコンシューマ向けのゲーム機用のソフトは50ドル程度で3D CADよりもきれいな映像を映しだしているし、Appleの製品は、同じ系統のどのデバイスを活用しても同じ経験を得ることができる。そうしたものをCADでも実現する必要がある」とする。また、コネクテッドでは、「実世界とデジタル世界の境界があいまいになりつつあるのが現在で、例えば撮影した写真が自動的にFacebookに掲載されたりするようになってきている。そうした時代の3D CADに求められるものとしては、例えばARとの連携により、ビルの壁の写真を撮影すると、配管が見えるようになるとか、瞬時に探しているモノを見つけられるようにするということだ」とする。そして、パーソナライズでは、「昔から取り組んできているが、簡単に実現できるものではないことも理解している。自由にアイコンをインタフェース上に置くこともできていないしね」とし、「だからこそのクラウドを活用して自分にあった環境構築などをできるようにしたい」とする。

「最終的には、現実をどうCADの世界に取り込んでいくか、ということがカギになってくる。我々はCADを線や面を書くためのツールとしては見ていない。現実を作るためのものとして見ている」と、CADに対するスタンスを述べる。

AutoCADが目指すゴールを実現するためには3つのユーザーエクスペリエンスが鍵となる

こうした話の一部(時系列での履歴保存など)はPLMにも通じるような話だが、あくまでAutoCADは1ユーザーが使用するツールであり、一般的な数百人や数千人規模の事業で用いられるPLMではなく、考え方はそれに近いものであっても、「ボトムアップ型でエンドユーザーが積み上げていくPLMライクなもの」と言える。こうした考え方について、同社では「Disruptive Technology(破壊的技術)」と呼んでおり、あくまでエンドユーザーとの交流を通じた草の根的な活動からスタートし、それが多くの人に徐々に受け入れられるようになり、気が付くとエンタープライズ分野でも活用されるようになるというのが目標になるという。

なお、同氏はこうした将来のビジョンの実現時期について、「希望として、なるべく早く実現したいと思っている。恐らく、多くの人が考えるよりも早いタイミングで見せることができるようになる。期待して待っていてもらいたい」と、意外に近い将来に実現される可能性が高いことを最後に語ってくれた。