2011年に放映されたアニメ「TIGER & BUNNY」は、完全オリジナルのアニメ作品としては類を見ない大ヒットを遂げた。アニメに限らず、映像作品には漫画や小説などの原作がつきものである昨今では快挙と言えるだろう。9月22日から公開される映画『劇場版TIGER & BUNNY -The Beginning-』では、アニメ本編で語られなかったビハインドストーリーが展開されるなど、その世界観の広がりは留まるところを知らない。
同作品のキャラクター原案・ヒーローデザインを手がけた漫画家・桂正和氏は、いったいどのようにしてイメージを膨らませ、デザインを行ったのか。制作当時の様子を振り返る形で、彼ならではの"こだわり"に迫った。なお、記事中の画像はすべて劇場版の場面カットとなっている。
――まず、アニメの企画段階において、どのような形で桂さんにキャラクターデザインの依頼があったのか教えてください。
桂正和 |
この作品が放映されたのは2011年なんですが、僕がキャラクターデザインの依頼を受けたのが2009年ごろなんです。プロジェクト自体は僕が関わるもっと前から動いていたらしいんですけど、依頼をいただいた時点でも内容がまだ固まっていない状態だったんです。
当時分かっていた内容としては、大きく分けて「ヒーローのボディのどこかに実在する企業のロゴをつけること」と、「ヒーローは全部で8人+悪役1人」の2点ですね。ヒーローたちはみな会社に所属しているサラリーマンで、主人公たちについては、ひとりが中年で、ひとりは新人で……というくらい。脚本ができていない段階からデザインは進めていました。
こんな手順になったのは、商品化が最初に決まっていて、放映と同時にフィギュアを全種類売り出したいという計画があったからだそうです。
――実際のキャラクターデザイン制作は、どのような行程を経て進めていったのでしょうか?
ヒーローの(設定についての)表があって、それを参照しつつスタッフの方々と相談しながら進めました。強い要望はあまりなかったですが、仮に要望が出てきても自分で納得できないと前に進めない性格なので、結局は試行錯誤しながら作っていきました。
その上、漫画の連載など他の仕事と同時に進めていたので余計に時間がかかってしまい、迷惑をかけてしまったとは思います。
――先ほど、「フィギュア商品の発売を前提にデザイン制作を進めていた」とおっしゃったのですが、最初から製品化しやすいようにデザインを施していったのでしょうか?
実は、(製品化のしやすさについて)ほぼ意識していません。例外として、ワイルドタイガーとバーナビーのスーツについては商品化を前提に考えた部分もありました。
ですが、そのほかのヒーローに関して、「フィギュアにするためにデザインする」という意識はしていませんでした。
――ヒーローのスーツに実在企業の広告を入れる手法で注目を集めた本作ですが、広告を載せるためにデザイン段階で配慮した部分はありましたか?
一切考えませんでした。その方が企業のマークを"つけられている"感が出て、リアルさが出ると思ったので、わざとスペースを空けて「ここにロゴが載りますよ」という風にはしたくなかったんですね。自分でデザインしておきながら何ですが、ファイヤーエンブレム(3ページ目に画像あり)なんかは「どこにロゴを入れるのかな?」と思っていたくらいですから(笑)。
ですが、すっきりしたデザインが好みだということもあり、結果的に「いかにも広告を載せられそうなスペース」ができてしまったのが、逆にどうかなと思っているくらいです(笑)。タイガーの胸に関して言えば、何も載っていない真っ白な状態が完成のデザインだと思っています。
――ロックバイソンが、掲載ロゴにちなんで視聴者から「牛角さん」というニックネームで呼ばれるなど、広告を入れたことで元のデザインとは違った魅力も生まれたのではと感じます。
あの「牛角」ロゴは(スーツの肩の部分に)見事にはまりましたよね(笑) 。もちろん、ああいった結果を意識してデザインしたわけではないですよ。でも、面白いくらいマッチしているなと思います。
企業ロゴについてひとつ例外があるとすれば、ドラゴンキッドの頭部の丸いパーツ。最後の方にデザインしたキャラクターだったこともあり、「ここに(企業ロゴを)入れたらどう?」という感じでデザインしました。
次のページでは、劇場版の新キャラ「ロビン」のデザイン過程、そして主役のタイガー&バーナビーのデザインに迫っていく。