東京都現代美術館にて、日本の特撮作品に関する貴重な資料や技術を集めた企画展「館長 庵野秀明 特撮博物館-ミニチュアで見る昭和平成の技-」が開催されている。同展では、約500点にのぼる膨大な展示品・映像資料と、今回のために新たに作られた特撮短編映画『巨神兵東京に現わる』を見ることができる。

7月12日の時点ではそれほど混雑なく、行列もないとのこと。行く予定のある方はぜひお早めに

この展覧会が企画された背景には、デジタル技術の発展により岐路に立たされている日本の特撮技術への危機感があり、「僕らが原点のひとつとして体験してきた特撮映像の面白さを伝え、遺し、更に未来へ繋げたい」という、同展"館長"庵野秀明氏の思いがある。同氏の熱い思いは、同展の開会式レポートでさらに詳しく見ることができる。

そんな熱い思いの表出が。単に映像史的資料の体系化で終わるはずはない。見る方にも、それなりの覚悟が必要だ。ここでは鑑賞のポイントを中心に、これから見に行く方のためのガイドをお届けしよう。

ペース配分を見積もっておこう

同展の会場は東京都現代美術館。地下鉄半蔵門線・大江戸線の「清澄白河」か、東西線の「木場」が最寄りだ。チケットは各種プレイガイド、または自宅で発券できる公式オンラインチケットでも購入が可能。会場の券売所で並ばずに済むので、混雑が予想される場合は活用しよう。

会場入口では音声ガイドをレンタルできるが、通りいっぺんの内容では済まない。ナレーターは俳優の清川元夢。エヴァンゲリオンの冬月教授役で有名だが、数々の特撮作品にも出演している。ガイダンスの量は展示品によって多少異なるが、時代背景やその作品のテーマにまで触れるような濃いものが多い。さらに展示品に合わせたBGMや効果音が使われており、後半では特撮美術監督や造形に関わる方々の声も収録されている。

学芸員さんが持っているのは、「詳しすぎる!」とツッコみたくなる音声ガイド

庵野氏による解説やコメントが多くの展示品に添えられている。似顔絵は安野モヨコ夫人によるものだ

展示エリアはいくつかのパートに分かれているが、大別すると3つ。ひとつは、過去の特撮作品で使われたミニチュアや着ぐるみ、マスクなどの造形物とその資料を中心とした展示。次に、短編映画の上映と、そのメイキングに関わる展示。そして、特撮映像を生み出す人々とその技術に焦点を当てた展示だ。

展示物はどのパートも盛りだくさんなので、音声ガイドを借りてじっくり見るなら、少なくとも2時間は見積もっておいたほうがよいだろう。

展示品がいま、ここに並んでいることの意義を考える

最初の展示エリアでは、1960年代の東宝特撮映画を中心に、数々の作品で活躍した特殊メカや兵器などのミニチュアと、そのデザイン画などの資料を展示。『海底軍艦』、『妖星ゴラス』、『宇宙大戦争』、『惑星大戦争』などの作品を少し予習しておくと、どのメカがどんな活躍をしたのかが分かって、より楽しめる。ゴジラ、ガメラなどの怪獣映画も、シリーズ作の歴史を大まかに押さえておくと良いだろう。

サイズの異なるメカが並んでいるところにも注目。ひとつのメカでもシーンに合わせてスケールの異なる撮影用モデルが作られる(左)、TVシリーズ「マイティジャック」の展示。大型撮影用モデルのほか、設定図解やデザインの成田亨氏によるペインティングなども (右)

ヒトの形をした造形物がテーマの展示エリア。ウルトラマンシリーズのマスクや飛び人形、防衛隊のメカ、さらにはカラータイマーなどが並ぶ(左、中央)、ある展示室の入り口部分にはこんなプレートが。スピーカーは頭上に。音が映像に与える力は大きい(右)

これらの展示品のタイトルプレートには、「撮影用オリジナル」の他に「撮影用オリジナルを忠実に修復」と書かれたものがある。学芸員の方に聞くと、これらは大きく破損したり、パーツの一部だけが残っていたりしたもので、今回の展示のため、資料をもとに撮影時の状態に修復されたのだという。つまり、この企画展がなければ、それらはいずれ失われてしまう恐れもあったのだ。この点を見ても、今この時にこの企画展が行われた意義は大きい。修復作業を行った造形職人の技術も、展示の見どころと言っていいだろう。

「ウルトラマンタロウ」ZATの主力大型戦闘機「スカイホエール」。修復作業が展示直前までかかり、図録に収録されなかったもののひとつ(左)、ガメラスーツと、精巧な渋谷パンテオンのミニチュア。屋上の手すりや柱の質感など、ディテールまでリアルに作られている (c)角川映画 NH (c)角川映画 NHFN (c)1999 角川映画 TNHN (右)

民家のジオラマ。素材の質感や汚し、小物使いに加え、ライティングによって作りこまれた影がリアリティを演出

大きな建造物も、レンガや瓦ひとつまで作りこまれている

物理シミュレーションでなく、想像力で作られる"破壊"

同レポート後編では、同展の目玉とも言える特撮短編映画「巨神兵東京に現わる」の本編上映と、その裏側を惜しげもなく披露する展示についても触れていく。