自動車業界においては、ワイヤレス・トランシーバ・テクノロジは十分に確立されており、基本仕様の車両でもリモート・キーレス・エントリ(RKE)が標準装備となっています。それに続くのは、リモート・エントリとリモート・スタートを組み合わせたデュアル・トランシーバ・デバイスであるパッシブ・キーレス・エントリ(PKE)、そしてタイヤ圧モニタリングや車と家庭間の通信などの機能を実現するシステムです。

これらの成長著しい分野に技術を提供する部品メーカの主な課題は、最小消費電力で幅広く対応でき、現行規定に準拠する、信頼性が高く費用効果に優れたデバイスを供給することです。キーフォブやタイヤ内部などの分野での用途を考慮すると、制約されたスペースへの対処も大きな挑戦です。

この記事では、ASSPがどのようにミクスド・シグナル・テクノロジや革新的な電源管理方式を使用して、この課題に対応するかを述べています。

革新的アプリケーションからの発展

乗用車と商用車の両方で利便性、安全性、およびインフォテインメントをサポートする電子コンテンツの増加が、近年の自動車業界における最大の話題の1つになっています。片方向、すなわち単向通信RKEの採用は、この進化(もっと言えば革命)で重要な役割を果たしており、現在、新車全体の80%以上が遠隔でのドアのロック解除に、基本的な単向通信技術を採用しています。

単向通信RKEは、ますます高度化し注目を浴びる車関連の無線通信やJohnson Controlsのホームリンク・システムなど、車と家庭をつなぐ通信に対する基盤および跳躍台になることが実証されています。双方向(半二重)通信を使用した第2世代および第3世代システムでは、PKEの実装が可能です。キーの所有者が車内に配置された固定トランシーバのレンジ(2、3m)内にいると、車はロックされます。トランシーバはペアの相手側の存在を絶えずポーリングしています。キーの所有者がドア・ハンドルを引くと車のロックは解除されます。この双方向概念の拡張によって、遠隔始動やタイヤ空気圧モニタ(TPMS)などの機能のサポートが可能になります。

規制

ライセンス・フリーであることが、車載アプリケーションにおけるRKE製品およびPKE製品の開発と採用に役立ってきました。しかし、米国の連邦通信委員会(FCC)やヨーロッパの欧州電気通信標準化機構(ETSI)など、短距離のライセンス・フリー設計を管理する規制が重要な制限を課しています。これらの規制は、自動車メーカーが双方向通信に対応した複雑で大量のデータを扱う高度なアプリケーションを開発する際に、大きな影響を与える可能性があります。例えば規制では、音声、ビデオまたは連続データを送信できない、また送信時間が5秒を超えてはならないと規定されています。その他の制約は、レンジに影響する最大許容電界強度に関するものです。

実現技術

規制要求事項への準拠に加えて、刺激的かつ魅力的な第2世代および第3世代のアプリケーションは、様々な技術的課題を、商業的に実現可能なコスト水準で克服できる場合にのみ現実のものとなります。

送信、受信、およびその他のミクスドシグナル回路を近接して配置するのは、これまで容易なことではありませんでした。RKE、PKE、およびそれらの進化バージョンの実装を可能にするデバイス開発経験を持つON Semiconductorのような企業にとっては、完全なバッテリー動作環境において消費電力を抑えるニーズとも対立します。キーフォブのバッテリと車両バッテリ自体の両方を考慮することが大切です。実際には、おそらく車両ベースRFモジュールの電源管理のほうがより重要です。これはRFモジュールが、起動信号を絶えずチェックし、常時ある程度の電流を流しているためです。これはエンジンが停止しているためバッテリが充電されていない状況で発生します。システムは、可能なあらゆる手段を用いて、動作電流を抑え、全体的な性能に影響を与えることなく「オン時間」を制限しなければなりません。

RKEキー、PKEトランスポンダ(クレジット・カードほどのサイズが多い)、またはタイヤ・バルブに装着されたTPMSについて考えたとき、センサ/トランスミッタ・モジュールをできるだけ小形・軽量にしようとすると、一般にバッテリ・サイズが厳しく制約されることになります。物理学的には、バッテリ・サイズが小さくなるほど利用可能な総エネルギーが減少するため、バッテリ容量も小さくなります。

全容量が220mAHの電池から最小10年のデューティ・サイクルを規定する場合が多い自動車メーカーにとって、バッテリ寿命が長いことが重要な特性です。これは、連続消費電流が平均2.5μAの標準的なTPMSのセンサ/トランスミッタの約85,000~90,000時間使用に相当します。

バッテリ寿命を長くするため、特にエンジン停止時RFモジュールのポーリングに絶えず電流を流すメイン車載バッテリのために、デバイスの様々な部分に供給する電源をオン・オフする必要があります。この電源管理方式の一環として、デバイスは「非アクティブ」動作モードと「アクティブ」動作モードを持つ場合があります。TPMSシステムでは、車の動きによって「アクティブ」モードが起動され、タイヤ空気圧読取り繰り返し速度が「非アクティブ」モードと比較して、最大100倍になります。TPMSアプリケーションの最大電流消費モードはRF伝送中であり、このとき電流は圧力測定処理モード時の最大5倍になります。さらに消費電力を節約できるのは、圧力測定値の送信頻度が低い場合、または圧力の大幅低下時にのみ測定する場合です。

双方向RKEシステムのケースでは、運転手が特定のボタンを押したときにキーフォブで送信されるデータによって、アクティブ・モードが起動されます。この例としては、遠隔エンジン始動や遠隔運転席温度制御などがあります。これらのメッセージは車両エンジン停止中に送信されるため、車両ベース・トランシーバの周期的ポーリングにより長期間に渡ってバッテリから電流が流れないよう、効果的な電源管理システムが不可欠です。

連続動作が必要な回路部分は、ウェイクアップ・タイマ用のRC発振器です。連続電流を流す別の要因はデバイスのリークです。非アクティブ・モード時の回路消費電流は全寿命10年の約90%に相当すると予測でき、平均電流は500nAであると考えられます。これによって、アクティブ・モード時の平均電流を約2.8μAにすることができます。

すばやく所要動作点に到達できるため、標準的なRFトランシーバ・パッケージのいくつかの回路で、さらに消費電力を節約することができます。通常かなり長い始動時間を必要とする回路の1つは水晶発振器です。このような状況では、ON SemicondictorのIP「クイック始動水晶発振器」の有効性を実証できます。この自己較正回路は、発振器の始動時間を、標準的な水晶発振器に必要な5~10msに対して、5~10μsに時間に短縮します。

いわゆる「Sniff(スニフ)モード」IPも有効な場合があります。ここでは、ローエンドの専用埋め込み型マイクロプロセッサ・ロジックを使用して、物理IPを制御し、それによって物理IPがドライブするチップおよび外部ペリフェラルの両方で消費電力を低減します。「オフ時間」中に重要性の低い機能がすべてシャットダウンされるため、省電力機能および総合的システム性能が最適化されます。「Sniff(スニフ)モード」によって、デバイスは低消費電力状態から周期的にウェイクアップし、Wake-On-EnergyまたはWake-On-Patternプログラムを通じて有効なパケットをポーリングします。 さらに電力消費を抑えるために、RF伝送の回数を減らすオンチップ・インテリジェンスも利用できます。

サイズが重要

1個のデバイスにできるだけ多くの機能を搭載することは、RKE、PKEおよび関連アプリケーションにとって望ましいことです。この手法では、多くの外付け部品を不要にして、スペースを節約します。スペースを節約することによって、全体のデザインを小型化して容易に車内に搭載できるようにしたり、キーフォブ・モジュールの場合には、より大容量・長寿命のバッテリを使用することができます。

究極の柔軟性を提供すると同時に、容積に関する経済的メリットも実現するには、トランシーバ向けASSPベース・ソリューションが合理的な方法です。この種のアプローチでは、様々な分野の多数のプラットフォーム上のアプリケーションに対して、同じ基本デバイスを使用できます。トランシーバは、特定の国で認可された周波数帯域で動作するようにプログラムできます。特定のウェイクアップ・パターンを備えており、顧客が選択したプロトコルを使用して、他の多くのパラメータをカスタム設定することができます。

なお、ON Semiconductorでは、オン-オフ・キーイング(OOK)/周波数シフト・キーイング(FSK)/振幅シフト・キーイング(ASK)ISMバンド・トランシーバ、I2Cインタフェース、EEPROM、水晶発振器、PLLループ・フィルタ部品、およびオンボード温度感知を内蔵した、小型の低プロフィール・パッケージ収容のデバイスを提供しています。

ON Semiconductorが提供する低消費電力RFトランシーバチップ

コスト

厳しい競争状態にあり、かつ現在の経済状況で縮小する市場において操業する量産自動車メーカーにとって、相変わらず低コストが重要な基準となっています。TPMSなどのアプリケーションでは、大部分の車両プラットフォームにすでに存在するRKEシステムと中央コントローラを結合すると、大きな経済的メリットが得られます。成熟した高い可用性を持つプロセスとIPを使用すれば、最新の小型ジオメトリ技術を使用する場合と比較して、コスト削減にも役立ちます。

例えば、ON Semiconductorでは、実証済みの0,35μm CMOSミクスドシグナルテクノロジを使用しています。安価なEEPROMモジュールをシステムに含めれば、特定用途のデータを保存することができます。TPMSの場合、このデータは較正番号やタイヤのシリアル番号またはポジション番号であり、車両-家庭システムでは、遠隔ガレージ・ドア・コードなどの情報を保存できます。機能および外付け部品の集積化による部品点数の削減も、コスト抑制に有効です。

著者紹介

Herve Branquart
Robert Waterman

ON Semiconductor