「甲子園」の隣で開催されたもう1つの「甲子園」

高校球児たちが全力で白球を追う「第84回選抜高校野球大会」の会場である阪神甲子園球場。そこからほど近い「兵庫県立総合体育館」において、3月24日~26日の3日間、こちらも高校生たちが全力で持てる力を出し合って優勝を目指す「第1回 科学の甲子園 全国大会」が開催された。

同大会は、日本全国の高等学校、中等教育学校後期課程及び高等専門学校などの生徒たちを対象とした科学技術・理科・数学などにおける複数分野の競技を通じて、科学好きの裾野を広げるとともに、トップ層を伸ばすことを目的として開催された。今回の大会テーマは「広げよう科学の輪 活かそう科学の英知」で、のべ5000名を超す生徒たちが参加した各都道府県の代表選考で選抜された47チームと、全国予選から選抜された1チーム、合計48チーム(出場チーム一覧はコチラ(注:PDF))が優勝目指して24日と25日の2日間、筆記競技、2つの実験競技、そして2つの総合競技の計5つの競技で競い合った。

第1回 科学の甲子園 全国大会の会場となった兵庫県立総合体育館。ちなみに、すぐ隣に阪神タイガース2軍の本拠地である阪神鳴尾浜球場がある

初日の24日に行われたのは筆記競技と2つの実験競技。実験競技は「ヘスの法則」を利用してマグネシウムの燃焼熱を、マグネシウムと塩酸および酸化マグネシウムと塩酸の反応熱から、計算で求める科学分野の問題と、植物組織の標本を作成し、デジカメで撮影した顕微鏡像から、植物種(単子葉・双子葉)の判別、構造の識別およびその判定を行う生物分野の問題が出された。

1日目の実験競技2の様子(提供:科学の甲子園)

2日目は2つの総合競技が実施された。1つ目は「甲子園の土」と題された課題で、25cm角の段ボールを材料に、「甲子園の土」に見立てたカラーサンドをできるだけ多く詰め込める容器を作製し、その詰め込んだカラーサンドの質量で順位を競うというもの。

総合競技1の競技風景

作成した容器の中に入れるカラーサンド

実測の様子。袋にカラーサンドが入らなくても、計量器の上に落ちていればそれも加算される

上位6チームはステージ上にある椅子にて待機。計量が進むにしたがって、順位の変動が生じる

総合競技1の最終結果

1位を獲得した浦和高校のキャプテン原君が手に持っているのが、同チームが作った6角錐の容器。この競技のポイントはいかに球に近づけるか(2位の甲陵高校は正20面体の採用)、そのため、はじめは3角錐か4角錐を検討していたが、最終的に6角錐にすれば、与えられた材料を余すことなく使いきれるという判断を計算結果から導き出し、見事に勝利した

もう1つは、「クリップモーターカー・フォーミュラー1」と題された課題で、クリップやエナメル線、ネオジム磁石などを材料に自作したモーターを、こちらも自作のレースマシンに搭載し、乾電池の動力でどれだけ速く走れるかを競うというもの。こちらに関しては、大会1カ月前に事前にルールを公開しており、設計が可能となっており、当日はその設計を元に会場でマシンを作製し、それでレースを行った。

総合競技2の風景。左上部に見える黒い四角の物体がレースコース

使用できる材料。ここからモーターと、それを搭載するレースカーを作成する

ハンマーを使って加工するチームも見られた

それぞれのチームが、独自に設計を行い、組み立てを行う

こちらもレースカー

決勝のスタートの様子

決勝レースのゴールの瞬間。手作りモーターながら以外とスピードは速く、かなりの僅差での勝負となった

優勝したのは膳所高校。勝因の1つとして、3極モーターではなく、よりシンプルな2極モーターを採用したことを挙げていた

5つの競技ともに、相当な難易度で、例えばクリップモーターカーでは予選は8チームで1レースが実施されたが、一台もゴールにたどり着けないレースもいくつかあった(その場合は、走行距離を多く稼いだチームに上位進出の権利が与えられる。ちなみに敗者復活戦が当初7チームであったが、急遽、鳥取西高校が追加になるというハプニングがあったが、これは主催者側の集計漏れによるものであったという)。

栄えある第1回大会の栄冠を手にしたのは…

これら5つの競技点数の合計は筆記(6名参加)が(30点×12題の)360点、実験がそれぞれ180点(それぞれ3人参加)、総合がそれぞれ180点(それぞれ3人参加)の合計1080点満点。

だが、前述もしたとおり、難易度が非常に高く、優勝チームでようやく700点超えというものであった。その優勝チームは、埼玉県立浦和高等学校。当初8人での参加を予定していたが、1人がインフルエンザに感染し、参加ができず、7人での参加となりながら(参加人数枠は6~8人)も、見事優勝を勝ち取った。

ちなみに、上位10チームの高校名と所属都道府県、総合点数は以下の通り。

  1. 埼玉県立浦和高等学校(埼玉県、701点)
  2. 滋賀県立膳所高等学校(滋賀県、629点)
  3. 愛知県立岡崎高等学校(愛知県、624点)
  4. 筑波大学付属駒場高等学校(東京都、587点)
  5. 北杜市立甲陵高等学校(山梨県、579点)
  6. 鳥取県立鳥取西高等学校(鳥取県、562点)
  7. 京都市立堀川高等学校(京都府、553点)
  8. 私立栄光学園高等学校(神奈川県、550点)
  9. 大阪府立北野高等学校(大阪府、521点)
  10. 栃木県立宇都宮高等学校(栃木県、512点)

また、各競技の1位チームなどには科学の甲子園の協賛企業から、それぞれの企業名を冠した賞が贈られた。協賛企業は、ベネッセ、島津理科、ケニス、旭化成、パナソニック、JR東日本、帝人、日立製作所、三菱電機、インテルとなっており、各企業賞を獲得した高校と、その授賞理由は以下の通り(インテルは3位の副賞として提供)。

  • ベネッセ賞:「筑波大学付属駒場高等学校(東京都)」(筆記競技で最高得点を獲得)
  • 島津理科賞:「土佐高等学校(高知県)」(実験競技1の最高得点を獲得)
  • ケニス賞:「筑波大学付属駒場高等学校(東京都)」(実験競技2の最高得点を獲得)
  • 旭化成賞:「埼玉県立浦和高等学校(埼玉県)」(総合競技1の最高得点)
  • パナソニック賞:「滋賀県立膳所高等学校(滋賀県)」(総合競技2の最高得点)
  • JR東日本賞:「山形県立山県東高等学校(山形県)」(東北6県の中の最優秀校)
  • 帝人賞:「北杜市立甲陵高等学校(山梨県)」(女子生徒3名以上を含むチームの中の最優秀賞)
  • 日立賞:「北杜市立甲陵高等学校(山梨県)」(もっともイノベーションを予感させるユニークな解答をした優秀校)
  • 三菱電機賞:「埼玉県立浦和高等学校(埼玉県)」(ものづくりの基本となる実験競技における優秀校)

なお、各競技ごとの採点結果は公表されていないが、優勝した浦和高校については、「総合競技1の最高得点と、実験競技2つを合わせた点数での最高得点の2つが勝利の要因の1つ」と主催者側ではコメントしている。

これに関して、浦和高校キャプテンの原雄大君に聞いたところ、「チームワークのおかげで勝つことができたと思う」とコメント。実際に、例えば原君が参加した総合競技1では3人で、制限時間90分の間に発想、構想、そして組み立てまでやる必要があり、「3人いたからこそ、アイデアも出てきたし、綿密な体積の計算も、丁寧な組み立てもできたと思う」(同)とするほか、「筆記競技もチームワークが重要で、それぞれの問題に対し、誰がどの教科が得意か、ということを前提に誰がこの問題を解くかをあらかじめ割り振っていたので、話を進めやすかったし、分からないときは、みんなに聞くというスタンスで行ったことで、それぞれの得意分野に集中できた」とする。

優勝した浦和高校には、平野博文文部科学大臣から賞状とメダル、トロフィーが授与された

ちなみに、同チーム8人目の選手で、参加できなかった西颯人君は物理部の部長で、クリップモーターに専念していたとのことで、もし、彼が参加できていれば、クリップモーターカーをはじめ、物理分野でのさらなる成績向上も見込めた可能性があるという。

この浦和高校のチームワークについて、主催者である科学技術振興機構(JST)理事長の中村道治氏も「総合力で栄冠を手にしたが、一人ひとりの科学的思考、想像力に加えて、チームワークが互いのコミュニケーションにおいて一歩秀でているところがあったのではないかと感じている」とコメントを寄せており、このチームワークを大切にするという点を今後の科学の甲子園の軸の1つとして行きたいとしており、「彼らのように日本の将来を託す若者がいることは心強いことで、これからも若者の才能を伸ばしていくことが我々の使命だと思っている」と、現代の研究開発の現場で必要とされるチームワークを養う場として科学の甲子園を提供していくとした。

優勝チームメンバーのコメント

最後に、優勝を果たした浦和高校のメンバー1人ひとりのコメントを掲載しておく

白金佑太君(2年)

順位の発表でドキドキしてて、入賞できれば良いなと思っていたので、4位までに名前が出なかったため、入賞できなかったのかと思いましたが、(優勝した)今はびっくりしてて、気持ちが整理できてない状況です。

加藤亙貴君(2年)

結果的に総合1位が取れました。筆記も難しいと思ってたんですが手ごたえを感じていて、1位をとれてうれしいです。

大塚拓也君(2年)

自分の担当競技は正直、あまり思わしくなかったので、入賞も危ういと思ってました。それでも1位になって、今でも涙が出そうです。

原雄大君(2年。キャプテン)

(優勝会見の場にて)まだ、(優勝したという)実感がありません。記者のみなさんに写真をこうして撮られてみて、ようやく優勝したという気がしてきました。うれしいのかな、まだ頭の中がごっちゃになってます。

加藤伸忠君(2年)

この2日間、みんなと協力して楽しみたいと思ってて、それは満足させてもらいました。その上に1位になれてうれしいです。

篠沢智伎君(2年)

開会式の時に(日本全国から集まってきた)48校が並んでいたときには1位になるとは思ってなかったので、正直うれしいです。

宗里啓君(2年)

まだ実感があまり湧かないですが、1位が取れて驚いているのと、嬉しいです。これ以上はちょっと言葉にできません。

優勝会見では、ノーベル化学賞受賞者で、科学技術振興機構 総括研究主監でもある根岸英一先生から祝福の言葉が贈られた(ちなみに根岸先生は湘南高校出身。同校は、浦和高校とは毎年5月中旬に「湘南浦和対抗定期戦」を行う間柄であり、悔しいような、うれしいようなといったことも話していた)。なお、浦和高校の出場選手の各氏名は左の写真左側から、白金佑太君(2年)、加藤亙貴君(2年)、大塚拓也君(2年)、原雄大君(2年)、加藤伸忠君(2年)、篠沢智伎君(2年)、宗里啓君(2年)。このほか、実は8人目のチームメンバーとして西颯人君(2年)が居るが、インフルエンザを発症し参加できなかった

なお、JSTではすでに第2回 科学の甲子園の開催を決定しており、第2回の会場も兵庫県で開催される予定となっている。