宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2月9日、「全球降水観測計画(GPM)主衛星」に搭載するセンサ「二周波降水レーダ(DPR)」をプレス向けに公開した。GPM主衛星は、日米で共同開発している地球観測衛星。米国で組み立てられたあと日本に輸送され、2014年初頭にH-IIAロケットで打ち上げられる予定。
「二周波降水レーダ(DPR)」は、電波を地球に向けて照射し、その反射波を観測することで、地上の降雨量を調べられる装置。1997年より軌道上で運用している「降雨レーダ(PR)」の後継機として、JAXAが情報通信研究機構(NICT)と協力して開発していた。
従来のPRでは、観測にKuバンドの電波のみを使っていたが、DPRはその名称の通り、これに加えてKaバンドの電波も利用する。KaバンドはKuバンドよりも周波数が高く、強い雨などでは減衰してしまうが、感度が高く、弱い雨の観測や、雨と雪の区別が可能。この2つの周波数を組み合わせることで、熱帯の強い雨から高緯度地方の弱い雨までを、精度良く観測することができるようになる。
DPRを搭載するのが「全球降水観測計画(GPM)主衛星」。PRを搭載した「熱帯降雨観測衛星(TRMM)」は軌道傾斜角が約35°で、熱帯・亜熱帯の観測に特化していたのに対し、GPM主衛星の傾斜角は約65°となっており、より広い範囲の降水観測が可能。GPM主衛星にはDPRのほか、同じく降水観測を目的とした「マイクロ波放射計(GMI)」も搭載される。
GPM主衛星は、JAXAとNASAが共同で開発。衛星バス(本体)とGMIはNASA、DPRはJAXAが担当し、打ち上げもJAXA側で実施する。こうした役割分担は、現行機のTRMM/PRでも同様だった。
GPMは、主衛星と副衛星群のコンステレーションで実施される国際協力プログラムである。「雨は変化が激しい事象なので、観測頻度が少ないとデータが使い物にならない」(JAXA宇宙利用ミッション本部の小嶋正弘GPM/DPRプロジェクトマネージャ)ため、多くの衛星が協力して観測。約3時間以内にほぼ全球の観測ができるようになっている。GPM主衛星には、各衛星のセンサを校正するための「基準」になる役割もある。
GPM衛星群のデータは、水資源管理や風水害防災、天気予報や台風進路の予測精度向上、地球温暖化や気候変動の研究、農業生産性の予測などに活用される計画。昨年はタイで発生した大洪水により、現地に生産拠点を置く日本企業も大きな影響を受けた。世界の自然災害はおよそ3分の2が洪水や豪雨と言われており、こうした災害対策への貢献が期待されている。
GPM主衛星の設計寿命は約3年。人工衛星の寿命は、バッテリ・太陽電池の劣化、燃料の枯渇、ミッション機器の故障などによって決まってくるが、GPMの場合、大きなポイントになるのは燃料だ。
GPM主衛星の周回高度は407km。一般的な地球観測衛星よりも低い高度を飛行するため、大気による抵抗を受けやすく、軌道を維持するための燃料消費が大きい。燃料は「5年分を搭載している」(小嶋プロマネ)ということで、3年以上使える可能性が高いが、大気密度は太陽活動の影響を強く受けるので、それ次第ではこれより長くも短くも成り得る。
DPRに関しては、「可動部がないので信頼性は高い。5年後でも残存確率が0.8以上あるので、実力的には5年以上のミッションを達成できる設計になっている。事実、TRMM/PRは打ち上げからすでに14年が経過しているが、まだ動いている」(同)とのことで、寿命に関して心配はないとした。
さて、GPM主衛星の外観だが、全体的に白っぽいのに気が付くだろうか。これは周回高度が低いため、原子状酸素の対策が必要であることが理由の1つ。
一般的に、衛星の多層断熱材(MLI)は金色のイメージが強いが、そのままだと原子状酸素によって穴が開いてしまうため、DPRにはゲルマニウムコーティングされた銀色のMLIが使用される。この最外層のGBK(Ge-coated Black Kapton)は、「きぼう」の材料曝露実験「SEED」において、原子状酸素への耐性は実証済みだ。