今日の電子デバイスが複雑さを増すにつれて、各種の安定化電源の必要性が増大し続けています。また、バッテリ駆動型の電子機器はバッテリから供給される電圧と電流の制約が厳しく、何種類もの安定化電源を供給する事はさらに困難です。

LDO(Low Dropout)レギュレータは、バッテリ駆動型の電子機器をはじめ幅広いアプリケーションで一般的に使われています。しかし、機器を設計する際はLDOの機能と仕様、これらの仕様がシステム全体にどのように影響するかを正しく理解しておく必要があります。

LDOアーキテクチャの概要

LDOは電圧制御電流源を使って一定の出力電圧を生成します。LDOはバンドギャップリファレンス、アンプ、パストランジスタ、フィードバックネットワークで構成されます(図1)。パストランジスタは、出力電圧を安定化するための可変抵抗として動作します。パストランジスタには、通常、NチャネルまたはPチャネルFETを使用します。この出力電圧をバンドギャップリファレンスと比較し、2つの入力電圧が等しくなるようにアンプがパス トランジスタを駆動します。

図1:基本的なLDOのアーキテクチャ

ドロップアウト電圧

LDOアーキテクチャは抵抗成分を調整して一定の出力電圧を得るアーキテクチャであるため、LDO(そしてあらゆるリニアレギュレータ)は入力電圧より低い出力電圧しか生成できません。安定化した出力電圧を維持するために必要な最小の入出力電圧差をドロップアウト電圧と呼びます。LDOはパス素子として1つのFETトランジスタしか使わないため、他のトポロジのリニアレギュレータよりもドロップアウト電圧が低く、これが低ドロップアウト(LDO)レギュレータの名前の由来です。

LDOを使ってバッテリ電圧を安定化するバッテリ駆動型のアプリケーションでは、ドロップアウト電圧はきわめて重要な仕様です。例えば、1セルのリチウムイオン(Li-Ion)バッテリで駆動するアプリケーションを考えてみます。Li-Ionセルの開回路電圧は完全に充電すると約3.6Vで、完全に放電すると約2.7Vまで電圧が低下します。この例では、LDOを使ってバッテリ電圧を2.5Vに安定化してシステム全体に供給します。LDOのドロップアウト電圧が200mV以下の場合、LDOの出力はバッテリが完全に放電するまで安定しています。しかし、LDOのドロップアウト電圧が500mVの場合、バッテリ電圧が3Vまで下がった時点で出力が不安定となります。この場合、バッテリが完全に放電できず、結果的にバッテリ寿命が短くなります。

ラインレギュレーション

LDOのもう1つの重要な仕様にラインレギュレーションがあります。これは、入力電圧が変化した時に出力電圧をどの程度安定化できるかの指標となる仕様です。ラインレギュレーションは通常、入力電圧1Vの変化に対して出力電圧が変動した割合を表します(単位%/V)。ラインレギュレーションはDC、すなわち定常パラメータである事に注意してください。従って、入力電圧の変化によって生じた出力電圧の過渡応答は考慮しません。

前述のドロップアウト電圧の説明に使用した例では、LDOが1セルのLi-Ionバッテリからの電源を安定化した2.5Vの電圧として出力していました。この例で、LDOへの入力電圧はLi-Ionバッテリセルの放電が進むにつれて変化します。従って、LDOの出力電圧は公称では2.5 Vですが、バッテリの電圧が変わると変化します。この変動の割合は、LDOのラインレギュレーションの仕様によって決まります。

バックアップバッテリを備えたAC/DCコンバータのように複数の電源を持つシステムではラインレギュレーションも重要な要素です。例えば、主電源はAC/DCコンバータからの12V電源で、その電源が失われた場合に9Vのバックアップバッテリに切り換わるといった状況があります。LDOがこのような入力電圧の突然の変化にどのように応答するかはきわめて重要になり得ます。LDOの出力が大きく変動すると、システム障害を引き起こす可能性があります。

ロード レギュレーション

レギュレーションはLDOの出力負荷の変動に関するものです。ロードレギュレーションとは、電流負荷条件が変化する状況で出力電圧を一定に保つ能力で、通常この仕様は、負荷電流の変化に対するLDO出力電圧の変動割合(%)としてデータシートに記載されています。

電流負荷が大きく変動するようなアプリケーションでは、ロードレギュレーションが重要です。例えば、マイクロコントローラに安定化電源を供給する目的でLDOを使うシステムを考えてみます。マイクロコントローラにはシャットダウンやスリープモードなど複数の動作状態と、各種のアクティビティレベルがあります。消費電流はマイクロコントローラの動作状態に応じて急激に変化します。この時電源レールに電圧グリッチが発生すると、マイクロコントローラの動作に悪影響を及ぼします。従って、電流負荷が変化しても安定した出力電圧を維持できる事が非常に重要です。

パワーグッド インジケータ

リニアレギュレータの基本動作に加えて、Microchipの「MCP1825」などのLDOは、パワーグッドインジケータなどの機能を備えています。この機能は、LDOの出力が安定し、レギュレーションが維持されている事を示すロジック出力を提供します。通常この出力ピンにはヒステリシスが組み込んであり、ノイズなどによる誤トリガの発生を防ぎます。

図2:パワーグッド機能を備えたマイクロチップ社のMCP1825 LDO

パワーグッドインジケータは、きわめてクリーンな起動電圧を必要とする繊細なデバイスへの電源供給用としてLDOを実装する場合に便利です。このようなデバイスでは、パワーグッドインジケータがアクティブになるまでLDOの出力を負荷から切り離しておく事ができます。アクティブになってからLDOの出力を負荷に接続すれば、問題を引き起こす心配のない、クリーンで安定した電源を供給できます。

過熱保護回路

一部のLDOが備えるもう1つの便利な機能に、過熱保護回路があります。シリコンICには必ずシリコンの上限温度があります。これは最大接合部温度と呼ばれ、通常は約150 ℃前後です。最大接合部温度を超えると、シリコンが恒久的な損傷を受ける可能性があります。MCP1825等、一部のLDOはシリコンの内部接合温度を監視する過熱保護回路を実装しています。内部接合温度が最大接合部温度(MCP1825の場合150 ℃)に達すると、接合部温度が一定レベルに下がるまでLDOの出力を切り離します。これにより、過熱によるICへの恒久的な損傷を防止します。

まとめ

一見LDOリニア レギュレータは単純で、システムに簡単に組み入れられそうに見えます。この考え方は基本的には正しく、それはこの種のDC/DCコンバータの利点の1つです。しかし、システム設計時にはLDOの各種仕様と、これらがシステム設計全体に与える影響を十分に考慮する必要があります。特定のアプリケーションに適したLDOを選ぶ際は、入力電源、負荷要件、LDOの過渡応答がシステムに与える影響を考慮する事が重要です。

著者:Kevin Tretter

Product Marketing Manager
Analog & Interface Products Division
Microchip Technology