Android向けの日本語入力システムとして、無料の「Google日本語入力」が登場して話題になったが、PC向けの「Google日本語入力」もなかなかの人気だ。そこで、Google日本語入力の実力を他の日本語入力システムと比較しながら紹介しよう。
みんなで作り上げる日本語入力システム
「Google日本語入力」のPC版が登場したのは、2009年の年末のこと。この時、いち早く使ってみたユーザーが「Google日本語入力」で試したのは「有名人やアニメキャラクターの名前入力」だった。マンガやアニメのキャラクターの名前は日本人に実在しない漢字表記だったりすることが多いが、なぜかGoogle日本語入力ならスムーズに変換できると話題になった。
もちろん、どんなキャラクターの名前でも変換できるというわけではない。では、どんな名前なら変換できるのかと言えば、有名で、たくさん書かれている「有名な」名前だ。
「Google日本語入力」の辞書は、Googleがインターネット上から集めた言葉から生成されている。Googleで検索すると、似た言葉や関連語が「もしかして」と予測変換して表示されるが、あの機能から誕生した日本語入力システムなのだ。だから、誰もネット上に書きこんでいないような名前や言葉は変換されない。ある意味「Google日本語入力」でスムーズに変換できる名前は世に知られているということ。知名度のチェックに使ってもおもしろい。
逆に言えば、多くの人が間違えて書いていたり、当て字で書くのが当たり前になっていたりする言葉はそのまま間違いや当て字で出てきてしまうこともある。これは自動収集している辞書だけに仕方のない部分で、ユーザーが誤変換や変換してほしい語句の申請をして育てていくしかないだろう。実際、そのための申請フォームも用意されている。「Google日本語入力」は正に「みんなで作る」日本語入力システムなのだ。
ATOK/MS-IME/Google日本語入力における人名変換の比較
入力文字 | ATOK | MS-IME | Google日本語入力 | 注釈 |
---|---|---|---|---|
おりくちしのぶ | 折口忍 | 折口忍 | 折口信夫 | 国文学者 |
まつもとれいじ | 松本礼治 | 松本例示 | 松本零士 | 漫画家 |
あむろれい | アムロレイ | あむろれい | アムロ・レイ | キャラクター |
あいぜんそうすけ | アイゼン宗佑 | アイゼン宗助 | 藍染惣右介 | キャラクター |
たいなかりつ | 田井中率 | 田井中率 | 田井中律 | キャラクター |
さとうたける | 佐藤健 | 佐藤猛 | 佐藤健 | 芸能人 |
がなはみな | 我那覇皆 | 仮名はみな | 我那覇美奈 | 芸能人 |
※色が付いている項目が正しい変換。一部の例ではあるが、Google日本語入力は人名変換に強いことがおわかりいただけただろうか?
他の日本語入力システムとどう違う?
Windowsユーザーが深く意識せずに使っている日本語入力と言えば「MS-IME」だ。マイクロソフトがWindowsに標準で装備している日本語入力システムで、普通に使っている分には困らない程度のクオリティにはなっている。しかし、普段の文章では使わないような難しい漢字は変換できなかったり、たまに間違った日本語が含まれていたりもするため、使いづらいと感じているユーザーも少なくないだろう。
そして、日本語入力にこだわるユーザーが使っているソフトと言えば、ジャストシステムの「ATOK」が思い浮かぶ。有料のパッケージソフトだが、今では月額課金制のパッケージもあり、Android向けも人気だ。その特徴は、とにかく「正しい日本語」を追求していることだろう。例えば、よくある誤用は入力時に誤用であることを表示してくれるし、文章として発表した時に問題になりそうな差別用語などはそもそも変換候補として表示されない。非常に親切で、手が滑った程度のちょっとした入力の乱れは修正してくれたりもする。
対する「Google日本語入力」はというと、先に示したようにインターネット上で収集した語句を使っているから、難しいけれど多くの人が使っている漢字や専門用語は変換できる。しかし、規制のようなものはないため差別用語も表示されるし、多くの人が間違えている言葉はそのまま出てくる。
このように特性を並べてみると、とりあえずこだわりなく日本語入力ができればよいならば「MS-IME」、ビジネス文書の作成や論文など正しい日本語を使って他人に見せることを前提とした文書を作成するなら「ATOK」というイメージが見えてくる。「Google日本語入力」は、ブログやSNSなど、気軽に書きたいものや今時の話し言葉、ネットスラングなどを織り交ぜて書きたい文書に向いているだろう。
ATOK/MS-IME/Google日本語入力における漢字変換の比較
入力文字 | ATOK | MS-IME | Google日本語入力 | 注釈 |
---|---|---|---|---|
はだける | はだける | 肌蹴る | 肌蹴る | 正しくは「開ける」 |
いたいけ | 幼気 | いたいけ | いたいけ | 正しくは「幼気」 |
かどわかす | 拐かす | かどわかす | 拐かす | 正しくは「拐かす」 |
かつぜつ | 滑舌 | かつぜつ | 滑舌 | 正しくは「滑舌」。放送系専門用語 |
※難しい漢字や業界用語でも、使っている人が多ければGoogle日本語入力で変換できる
ATOK/MS-IME/Google日本語入力における誤用の修正の比較
入力文字 | ATOK | MS-IME | Google日本語入力 | 注釈 |
---|---|---|---|---|
ふいんき | 雰囲気 | ふいんき | 雰囲気 | 「雰囲気」の正しい読みは「ふんいき」 |
ちかじか | 近々 | 地価じか | 近々 | 「近々」の正しい読みは「ちかぢか」 |
はなじ | 鼻血 | はなじ | 鼻血 | 「鼻血」の正しい読みは「はなぢ」 |
※誤用、誤字があった時にATOKは指摘して変換し、Google日本語入力はそのまま変換する
ATOKには日本語そのものを修正するような親切機能が搭載されている |
「おもしろ変換」や各種機能を生かすには入力方法も工夫しよう
「Google日本語入力」に限らず、日本語入力システムの威力を発揮させるには、使う側の工夫も必要だ。工夫とは、ある程度区切りのよいところまで長い文章で変換することである。
「ATOK」は長い文章も正しく区切って変換入力してくれるのが特徴の1つだが、単語ごとに変換しているのではその威力を見ることはできない。「Google日本語入力」が得意な人名変換も、名字と名前を分離して入力するのでは目的の名前が表示されるまでの道のりが長くなる。
「Google日本語入力」は予測変換もおもしろい。携帯電話やスマートフォンには不可欠な予測変換機能がPCでも使えるのだが、その予測にはネットからかき集めた言葉が使われているため、なかなか面白い結果が表示される。途中まで言葉を入力して、表示されている変換候補を見てみよう。Tabキーを押すと予測変換の候補が出てくる。
例えば「おやじに」と入力すると、「オヤジ日記ブログ」や「親父にもぶたれたことないのに」と出てくる。「ただしい」と入力すると、標準では「正しい」が出てくるところ、Tabキーを押すと「ただしイケメンに限る」というネットでよく使われる言い回しも出てくる。これも「おやじ/に」というように区切って変換していたら絶対に出てこない。
無料で使える日本語入力システムとして、「Google日本語入力」はかなり高性能であり、日常的なプライベートシーンでの利用ならばまず問題を感じることはないだろう。ただし、ビジネスシーンで利用するならば多少の注意は必要だ。
これはMS-IMEでも同じだが「変換できるから正しい」とは限らない。「漢字が思い出せない」「漢字を知らない」時にとりあえず変換してみて、出てきた候補を鵜呑みにしてしまうと、おかしな間違いをしかねない。知識の裏付けがない言葉はせめてネット辞書で確認してから使うようにしたいものだ。
Tabキーを押しておもしろい変換予測が出てくるのもGoogle日本語入力の魅力だ |