マイナビと日本プログレスは2011年12月13日、通信業界における企業の業務改善を支援するためのITソリューション紹介イベント「マイナビニュースITサミット~BPMによる業務効率向上セミナー」を開催した。
同セミナーでは、BPM実践総研所長とBPM協会運営幹事副事務局長を務める宇野澤庸弘氏が登壇し、「現場業務がこれからのシステム対象-BPMを起点にこれからのITシステムを考察する」と題して講演を行った。
宇野澤氏は冒頭、「企業のITシステムは、昔と今とで変化している。むしろ、変化しなければならない。新たなITシステムを作るにあたって対象とすべきは、従来のような"業務パッケージの業務"ではなく"業務そのもの"である」と述べた。この「業務そのもの」を取り扱うことができるITシステムがBPMだという。
日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)が2010年度に調査を行った「企業IT動向調査2011」によると、経営企画部門が「最も解決したい経営課題」として挙げた項目は「リアルタイム経営」「業務プロセスの効率化」だったという。これらの課題に対する認識は、IT部門のそれよりも高いが、一方でIT部門が実際に行っているのは「既存システムの保守」が中心となっている。経営企画部門が解決したいと考えている課題とIT部門の認識、そして実際に行っている作業の間のギャップが「現状のシステムが抱える問題」というわけだ。
宇野澤氏は、これからのITシステムのイメージとして、「ITの技術論ではなく、現場業務や事業そのものについて議論をして作りあげていくもの」とし、その上で「クラウド」「モバイル」「ソーシャル」といった、先進の技術要素をとり込める、変化に強いシステムであることが重要だと述べた。
「これからのITシステムは、業務を合理化、効率化するシステムから、事業と強く密着して、価値や競争力を生み出すためのシステムとなる必要がある」(宇野澤氏)
BPMが持つ「3つの側面」
「業務、事業と密着に結びついたITを実現するうえで、重要な役割を果たすのがBPM」と宇野澤氏は説明する。
ガートナーの定義では、BPMとは「経営目標を実現するための経営手法。そのために、ビジネスプロセス環境を統括して、俊敏な経営変革やオペレーション上の業績改善を遂行する。BPMとは組織内のアクティビティやプロセスをマネジメントし、継続的に最適化させるための経営手法で、ソフトウェアを利用した構造的アプローチである」とされている。ここでは、BPMを「経営手法」と定義しつつ、その実現においてITの存在が重要な役割を果たす点を強調している。
宇野澤氏は、経営者、事業部門、IT部門という企業内における役割により、BPMには「経営手法としてのBPM」「業務改善手法としてのBPM」「IT実装のプラットフォームとしてのBPM」という3つの側面があるとする。これらの3つの側面を連携させ、PDCAサイクルを継続することで、企業経営の改善、改革を実現していくことが重要だという。
「BPMの対象は日々の業務である。そのため、IT関係者ではない実務者が、BPMにどう関与するかが重要。IT関係者と実務者の間のギャップをどう埋めるかが問題となる」(宇野澤氏)
宇野澤氏は、このIT関係者と実務者との間のギャップを埋める「共通言語」として、OMGが標準として定めるBPMN(Business Process Modeling Notation)を紹介。BPMNを使うことにより、関係者間での共通認識を、直接ITシステムに取り込める点がBPMの特徴だと語った。
BPMNを取り込めるITツールは多くのベンダーから提供されている。例えば、日本プログレスが提供する「Savvion」もその1つだ。BPMの定義として「継続的に業務を改善していく手法」という表現があるが、例えばProgress Savvionを利用すると、グラフィカルなモデラーを用いた業務プロセスのモデリングとシミュレーション、業務システムへ適用しての実行、ダッシュボードを用いた業務の分析といったことが行える。これらの機能を利用して、業務プロセスのPDCAサイクルを回していくことが可能になっている。BPMは「経営手法、業務改善手法」であるが、そのスムーズな適用や改善にあたっては、ITの支援が不可欠となっているのだ。
経営手法、業務改善手法としてのBPM
ビジネスプロセスの実装と改善を速やかに実現する「BPM」について、その有効性や重要性が実証されているにもかかわらず、実際の現場への導入に至るケースは多くないのが実状のようだ。宇野澤氏は「IT担当者の側面だけでなく、経営者が必要性を感じなければ導入は進まない」と話す。
企業経営の観点で見た場合の「ビジネスプロセス」について、同氏は「標準化された仕事の流れ」と説明する。企業としては、「価値」を生み出さない仕事は実行すべきではない。そして、実際に会社の事業が価値を生み出しているかどうかを測定するにあたっては、「仕事を標準化」する必要があるのだ。例えば、異なる事業部門や部署においても、標準化・共通化できる仕事は存在する。こうした仕事のプロセスを標準化し、それを再利用することで、いわゆる業務の「ムダ」を省いていくことが可能になる。
宇野澤氏は「BPMの原則」として「プロセスは企業資産である」「プロセスは管理されなければならない」「プロセスは継続的に改善されなければならない」「ITはBPMの本質的な実現者である」という4つの項目を挙げ、企業は「機能部門別構造」から、プロセスに基づいた組織構造を持つ「プロセス型企業」に変化していくべきだと説明した。
事業部門にとってのBPMは「業務改善の手法」としての側面を持つ。BPMNによるモデリングをツールとして使うことで、ITシステムの支援を受けつつ「業務の見える化」「ビジネスプロセスの見える化」に取り組むことができる。その際の重要なポイントについて、宇野澤氏は「現場の負担にならない」「誰でも理解できる」「継続できる」「職場主体でできる」手法をとることが必要だと述べた。
BPMを前提として仕事とシステムの作り方を変える
BPMの実現にあたっては、経営、業務部門、IT部門がそれぞれの役割を持って取り組む必要がある。IT部門に求められる役割の1つは、BPMの導入を前提に業務と結び付いたITシステムを実現するグランドデザインを構成することだ。
宇野沢氏によれば、そこでは「3層」のアプリケーション構造がふさわしいという。ここで言う3層は「ユーザーインタフェース(UI)層」「業務プロセス層」「基幹システム層」から構成される。それぞれの層は、変更頻度、新技術の適用度、責任を持つべき人がそれぞれ異なるという。
基幹システムの層は、情報システム部門が責任を持つべき層であり、具体的にはERPやCRMのデータベース上に、日々の業務の中で生み出されるデータを記録しておく役割を果たす。一方の業務プロセス層は、経営者が責任を持って運営する層となる。BPMシステムは、この層を構成する屋台骨となるもので、ここで作られ、改善され続ける業務プロセスは、その会社が展開するビジネスの独自性を生むものとなる。そしてUI層は、日々の業務に携わるユーザーが直接関与すべき層であり、ここで生み出されるものは「イノベーション」となる。
この「3層構造」を実現しようとすれば、「今までの仕事の仕方やシステムの作り方が大きく変わってくる」と宇野澤氏は言う。これまでの企業システムは、SIerと情報システム部門間のやり取りだけで構築されるケースもあった。しかし、同氏は、「今後はBPMを取り入れることを前提に、「業務の可視化」や「業務コンサルティング」といった形で、実務を行うユーザーと製品ベンダーとの間に立って橋渡しを行う役割も求められるようになっていくだろう」と締めくくった。