スマートフォンやタブレットの登場により、インフラとしてのモバイルネットワークの重要性が高まっている。モバイルブロードバンド分野における目下の話題は3.9G(4Gとも言われる)となる「LTEサービス」だ。日本でもNTTドコモが「Xi」という名称でサービスを開始し、ソフトバンクやauも今年ローンチする見込みだ。そこで、世界最大の無線通信インフラメーカーであるEricssonのCTOを務めるHakan Eriksson氏にLTEを中心に話を聞いた。

Ericsson CTO Hakan Eriksson氏

--世界的に見たLTEの動向について教えてください。--

Eriksson氏: 景気が減速するなかで、LTEの実装とサービスローンチが進んでいる。牽引しているのはCDMAオペレーターだ。世界で最初に商用サービスを開始した北欧のTeliaSoneraはGSMオペレーターだが、米Verizon WirelessなどのCDMAオペレーターが積極的にLTEの実装を進めている。

CDMAに加え、中国独自の3G規格「TD-SCDMA」もLTEに合流する。例えば、世界最大のChina MobileがLTEサービスを開始することが予想されている。さらに、WiMAX陣営からのLTE移行もある。例えばインドでは、WiMAX用と言われてきた周波数帯でLTEが展開されると予想している。

--LTEにはFDD-LTEとTD-LTEがありますが、TD-LTEの動きが活発になってきました(注:FDDは周波数分割複信のことであり、上りと下りの通信を別の周波数帯で行う。TDは時分割複信のことであり、同じ周波数帯を時間で区切って上りと下りの通信を行う)--

Eriksson氏: オペレーターにとって大きな問題は、「どの周波数帯がアベイラブルなのか」「どのエコシステムに属するのか」だ。

TD-LTEは周波数帯が入手しやすいことから、広く利用されるだろう。FDDは上りと下りのペアバンドが必要だが、TDは1バンドでよい。これは大きな魅力だ。エコシステムという点では、2G、3G、4Gなどの話になるとシリアルな連続したものと見る人が多いが、そうではない。平行して進むものだ。

900MHz周波数帯はGSMエコシステム、2.1GHz帯はHSPAエコシステムができており、平行して使われている。2.3GHzはTD-LTEのエコシステムができるだろうし、2.6GHzはFDD-LTEのエコシステムができるだろう。これは、別の見方をすると、各国の政府が行っている周波数帯の割り当てに歩調を合わせることが重要ということになる。独自の周波数帯を持つと、端末の調達が難しくなるからだ。

TD-LTEは、先に挙げたChina Mobileやインドで利用されると思われる。FDD LTEはVerizonが強力にプッシュしており、Voice over LTE(LTEで音声通話サービスを提供するための標準)も積極的に進めている。

FDD LTEとTD-LTEは協調の関係となる。標準化も共存を念頭に策定されており、Ericssonでは同じ基地局で両方を展開できるので同じ製品として取り扱っている。端末側のチップセットも両方に対応するので、同じエコシステムを共有する。

--そのTD-LTEを中国のHuawei Technologiesも積極的にプッシュしています。Huaweiは大きくシェアを伸ばしていますが、競合をどのように見ていますか?--

Eriksson氏: 他社について言うことはないが、TD-LTEの契約を世界で最初に獲得したのはEricssonだ。EricssonはLTE全体で業界のリーダーで、TD方式、FDD方式の双方において好位置に付けていると自負している。

--Huaweiと中国ZTEは価格、それに端末をセットにした展開を強みとし、急激に追い上げています。Ericssonはソニーとの合弁会社である英Sony Ericssonをソニーに売却することを発表しました。--

Eriksson氏: 端末で一番重要なのはカメラや画面ではなく、無線チップセットだ。Ericssonは半導体ベンダーのST-Ericsson(STMicroelectronicsとの合弁会社)を持っている。端末メーカーの中で無線チップセットを自前で持つところは少なく、ST-EricssonやQualcommなどを利用している。

Ericssonのインフラ事業は常に最新技術で世界最速を最初に記録することで知られている。われわれが達成した速度をST-Ericssonがサポートする――これが大切だ。このST-EricssonのチップはSony Ericsson、HTC、Samsungのどの端末でも搭載できる。

例を紹介しよう。われわれが上り最大42Mbps/下り最大84Mbpsの世界最速のHSPAネットワーク技術を開発し、T-Mobile USAが導入した。この時、端末はST-Ericssonのチップセットを搭載したSamsungだった。ST-EricssonとEricssonの組み合わせは、Sony Ericssonがなくても競争における大きな強みとなっている。

--スマートフォンの増加によりデータ通信が増え、キャパシティの問題からHSPAなどの通信網をWi-Fiで補完する手法をとるオペレーターが増えています。今後LTEやHSPAなどの無線技術とWi-Fiとの関係はどのように発展すると見ていますか?--

Eriksson氏: オペレーターの役割はサービスを提供することだ。一般的に、コンシューマーが抱いているサービス品質への期待レベルを考えると、Wi-Fiに比重を置きすぎることは、リスクを高くすると考える。Wi-Fiの品質管理は難しいからだ。

一方で、Wi-Fiを補完として高品質が求められていないところで利用することは、理にかなっていると思う。アプリケーション側はWi-Fiを利用しているのか、3Gを利用しているのか理解できる。だが、オペレーターの中でインテリジェントに使い分けている例はまだ少ない。

それでも、トレンドとしては(補完としてWi-Fiを利用することは)正しい方向にあると言える。以前からフェムトセル(家庭などに小型基地局を設置することで、屋内での通信と容量を改善する考え方)が注目されているが、個人的に、今の時点でフェムトセルは現実解ではないと思う。音声をカバーしたければフェムトセルでよいが、データ容量の問題はフェムトセルでは解決できない。そして、多くのオペレーターが解決したいのは後者のデータ容量だ。

フェムトセルは固定ブロードバンドをバックホールとして利用するが、固定ブロードバンドがあるところにはすでにWi-Fiがあり、フェムトセルを設置しても解決にはならない。このように、セルラー網とWi-Fiを組み合わせることは、家庭にフェムトセルを設置するよりも効率の良い策と言える。