ソニー・エリクソンが、米国で開催された家電見本市「International CES 2012」で「Xperia」の新シリーズを発表した。グローバルモデル「Xperia S」(日本モデルはXperia NX)、AT&T向けモデル「Xperia ION」の2モデルだ。発表にともない、ソニー・エリクソンのUX Product Planning UX Creative Design &Planningのトップで、クリエイティブディレクターの黒住吉郎氏に話を聞いた。

黒住吉郎氏

そぎ落として、さらにそぎ落として生まれたデザイン

Androidを搭載したXperiaシリーズは、デザインには「Human Curvature(人間の曲線)」を「フィロソフィー(哲学)」として採用し続けている。Xperia arcでは、薄型ボディに独特のカーブであるHuman Curvatureを描き、弓道の弓をイメージした「弧」がデザインコンセプトとしていた。

Xperia SとXperia ION

今回の2モデルは、いずれもXperia arcのような弧ではなく、背面をやや膨らませたカーブを描くデザインとなっている。このデザインには、プロセッサがシングルコアからデュアルコアに、ディスプレイサイズが4.2インチから4.3インチ(Xperia S)、4.6インチ(Xperia ION)に、解像度も1280×720のHDになるなど、「デバイスのランクが上がって重くなり、それを動かすためにバッテリが大きくなった」(黒住氏)ことが大きく影響している。

「この状態でアンテナの感度などをキープしながら、よりセクシーで、より魅力的なデザインにするにはどうすればいいか」を考え、Xperia arcとは逆の弧だが、Xperia arcと同じように手に収まりやすい形にしたという。Xperia arcと比べて「中身が違うので、収め方、表現が違う。逆の表現になったが、同じ持ち心地はキープした」と黒住氏は語る。

Xperia Sの背面。滑らかな曲線を描いている

デザイン上の大きな特徴は、Xperia Sの下部にある透明部分。「フローティングプリズム」(海外ではTransparent Element)と呼ばれるデザインは、デザイナーがデザインの方向性を考えた結果「どんどん(デザインの要素を)そぎ落としていって、最後に残ったものが絶対に価値のあるもの。(ドイツの建築家ミース・ファン・デル・ローエの言葉である)less is more(より少ないことは、より豊かなこと)というが、それをやったらどうなるのか」としたものだという。そして「それ以上のもの、less is moreのまたそれ以上に、もっといったら(そぎ落としたら)どうなるのか」という考えのもとに出来上がったのが、電話の一部を透明にするというデザインだという。

本体下部のフローティングプリズム。後ろにある手が透けているのが分かる

「普通、電話の中は削らない」と黒住氏は笑うが、本来は基板や配線が入る部分を削って透明にしつつ、「技術革新で削ってもちゃんと成立するようにしたら、何か新しいものができるのでは」というデザイナーの考えを、透明な配線を通すことで成立させたのがXperia Sのデザインだという。

デザイン上のインスピレーションは、「閉じられた部屋があり、天井に穴が空いていて外が見えたらどう感じるか」だったそうだ。それが「外を見たときに空や雲が見えたら、閉じられた部屋なのにそこに行けるのではと思う」という感覚で、「手に持つと、エモーショナルな意味でどこかにつながっている、どこかに行けるという表現」を示したデザインなのだという。

こうして出来上がったXperia Sのデザイン。Xperia Sではディスプレイが高精細化、大型化したため、これを前面に押し出して訴えたいという戦略があり、本体サイズ的には大きくなったが、フローティングプリズムで間に空間を設けたことで、ディスプレイがより引き立つという副次的な効果もあったという。

Xperia IONはフローティングプリズムを採用していないが、全体として北米市場では受け入れられないデザインであったことから、異なる表現にしたそうだ。「マーケットによって色々なトレンドがあるし、嗜好性が違うのしょうがない」ため、デザインは変更しつつ、LTEを搭載したXperia IONでは、ディスプレイサイズを4.6型に大きくするなどの工夫も盛り込んだ。

Human Curvatureを示す背面の曲線にも工夫がある。最近のスマートフォンは全体的にフラットでエッジの部分を丸くするという基本のデザインがあり、アップルだけは全体をフラットにしている、という。この両方のデザインから離れ、背面全体を滑らかにカーブさせたのが特徴だ。

それでありながら、特にXperia IONでは、本体の上から下にかけてのカーブと、右から左にかけてのカーブ、そして左から右にかけてのカーブという3つの異なる曲線を採用したことで、「複雑な曲線で、一面と同じ曲線はない」デザインとなった。フローティングプリズムのようなインパクトはないが、黒住氏は、「シンプルだが表現がある、表情があるデザインに仕上がっている」と強調する。

Xperia IONの背面。これだと分かりにくいが、複雑な曲面が組み合わさっている

デザイン上では、ソニーの完全子会社化によるブランド変更も大きい。国内向けには「Sony Ericsson」のロゴは残るが、グローバルモデルでは「Sony」に変更されることになっている。ただし、背面にあるソニー・エリクソンのアイコンは残されている。「グリーンボールとかリキッドアイデンティティといわれているこのアイコンは、今までのユーザーにはシンボルとして残っている」と黒住氏。そのため、そうしたユーザーを驚かせないように残すというのが、現在の位置づけという。ただし、「過渡期の表現なのかもしれないし、ブランドは時間とともに変わるものなので、今後どうなるかは分からない」と話す。

従来はSony EricssonだったロゴがSonyに変更になった

背面のグリーンボールまたはリキッドアイデンティティ。ソニー・エリクソンのアイコンだが、今回はこれを残す形に

Xperia S/IONでは、バッテリ交換ができなくなっているのも特徴。黒住氏は、ユーザーや携帯事業者の声から判断して、バッテリ交換できるかどうか、どちらがいいかは「言い切れない」と話す。ボディが大型化した分、バッテリを埋め込み型にして交換不可にしたほうが「より効率的にコンパクトにまとめる」ことが可能だったため、今回は埋め込み型を採用。「それで容量が少なかったらしょうがないので、バッテリも大型化して不都合がないようにした」と黒住氏。

それでも「賛否両論は絶対にある」と黒住氏は認めつつ、「ユーザーに一番いい商品を提供するための手段の1つとして、今回はビルトイン(埋め込み型)を採用した」と強調する。