Webブラウザーのシェア(占有率)争いが加速するなか、Microsoftは古い遺産となるInternet Explorer 6からのバージョンアップをうながしてきた。しかし、他社製Webブラウザーを選択するユーザーも多いため、同社は最新のInternet Explorerへの自動アップデートを搭載すると発表。今週も同社のブログに掲載された記事を元に最新の動向をお送りする。

Internet Explorerのアップデートを自動化するMicrosoft

Windows OSの標準WebブラウザーであるInternet Explorer。1995年にリリースされたPlus! for Windows 95に収録されたのが最初のバージョンだが、この時点では米Spyglassからライセンスを受けたNCSA Mosaicを元に開発を行い、バージョン3からようやく自社開発に移行。ここからバージョンを重ねつつ、現行版はバージョン9。そして、パフォーマンスの向上やWeb標準規格への対応を強化したバージョン10の開発が進んでいる(図01)。

図01 画面はWindows 95上で動作するInternet Explorer 3。バージョン情報にSpyglassの名前は残っているが、最初のMicrosoft製製品である

バージョンアップ自体は決して悪いことではない。だが、度重なる仕様変更によりWeb開発者は、各バージョンへの対応を強いられるため、へき易している方も少なくないだろう。加えて現在はMozilla FirefoxやGoogle Chrome、Safariなどレンダリングエンジンが異なるWebブラウザーが多数存在しているため、どのWebブラウザーでも正しく表示させるための互換性維持に要するコストも膨らみ続けている。

このような状況に一石を投じる記事が、Internet Explorerの開発チームのブログ「Exploring IE」に投稿された。記事によると、Windows XP、Windows Vista、Windows 7を対象に2012年からInternet Explorerの自動アップデートを開始すると述べられている。

エンドユーザーから見れば、何ということもないつまらない話に見えるかもしれない。だが、現在でも多くのシェアを維持しているWindows XP+Internet Explorer 6のように古い環境は依然と残っている。もちろんWindows XPユーザーがMozilla Firefoxなど、ほかのWebブラウザーを選択するケースも少なくないが、Internet ExplorerコンポーネントはWindows OSと密接な関係にあるため、セキュリティホールが発見されると、OS全体の問題につながってしまう可能性が高いのだ。

Microsoftとしてもセキュリティホールを埋めるために、修正プログラムをリリースしなければならず、開発コストは増大してしまう。しかし、ユーザーがソフトウェアをバージョンアップせず、セキュリティホールが残った状態で運用するケースは決して珍しくない。例えば2004年に大流行したウイルス「Sasser(サッサー)は、Windows 2000およびWindows XPのセキュリティホールを悪用し、全世界で猛威を振るった。

このセキュリティホールを塞(ふさ)ぐ修正プログラムは、2004年4月14日にリリースされているが、Sasserが発見されたのは同年4月30日。国内で報じられるようになったのはゴールデンウィークを終えた同年5月6日以降。ここで述べたいのは、修正プログラムが公開されても適切に適用しないユーザーが多かったことである。

また、Internet ExplorerのバージョンアップはWeb開発者のように全バージョンを維持するようなケースや、イントラネットの互換性問題でバージョンアップを禁止するケースも少なくない。そのため、同社もバージョンアップを抑制するブロッカーツールを配布しているが、本音はInternet Explorer 8から搭載された互換表示機能を使って欲しいはずだ。

既にInternet Explorer 6が登場してから10年の月日が経つ。改めて述べるまでもなく技術的実装は陳腐化し、あえて使用するメリットは前述のケースを除けばなにもない。同社自身もInternet Explorer 6の使用停止をうながすサイト「The Internet Explorer 6 Countdown」を用意し、啓もう活動を推し進めているが、そもそもセキュリティホールを放置するようなユーザーに影響を与える可能性は低い(図02~03)。

図02 Internet Explorer 8から搭載された互換表示機能。古いバージョン向けに最適化されたページを最新のInternet Explorerで正しく表示できる

図03 Internet Explorer 6消滅までのカウントダウンを行う「The Internet Explorer 6 Countdown」。執筆時点では8.3%まで低下していた

その結果、今回の自動アップデートにつながったのだろう。ただし、アップデートが自動的に適用されるのはWindows Updateを有効にしている環境に限られ、前述のブロッカーツールを導入しているマシンには適用されない。また、Service Pack導入時のように、以前の環境(この場合は古いInternet Explorer)は残されるため、アンインストールによるロールバック操作も可能だという。なお、最新版であるInternet Explorer 9がサポートしているのはWindows VistaおよびWindows 7のため、Windows XPにはInternet Explorer 8へ自動アップデートされる。

Google Chromeを筆頭にMozilla Firefoxも自身の自動アップデート機能を備えるようになり、後発ながらInternet Explorerも同様の機能を持たせるのだろう。ここで気になるのが、どのようなロジックを用いるのかという点。ブログの記事では概念的な説明にとどまり、具体的なロジックまで語られておらず、Internet Explorerも自身をアップデートする機能は備わっていない。

既に最新のInternet Explorerを使用しているユーザーは興味がわかないかもしれない。だが、筆者としてはMicrosoftが苦悩している新バージョンへの移行推進よりも、どのようなロジックで自動アップデートを実現するのか。その点が興味深い。

阿久津良和(Cactus

関連記事
大容量ディスクと大型セクターをサポートするWindows 8」(2011年12月6日)
Windows Updateによる再起動を最小限に抑えるWindows 8(2011年11月21日)
バッテリ消費量を軽減するWindows 8(2011年11月14日)
Kinect for Windowsの存在とWindows XPをサポートするWindows 8 (2011年11月28日)
Metroスタイルアプリを支えるWNSとマルチコアサポートを強化するWindows 8」(2011年11月3日)