社会のネットワーク化が進み、ものづくりの現場も変わりつつある。しかし、それでも現場でネットワークをいかに活用して効率を向上させていくか、そうした課題に頭を悩ます場合は多い。これまで、スタンドアロンで稼働していた設備や装置をどうやって連動させ、それを効率向上に結び付けていくか、そう考えているうちにクラウドだ、ソーシャルだと、さらに新たな技術や概念が出てきて、そうした対応も求められる。そうしたネットワークへの対応に苦慮するものづくりの現場に向けた取り組みを日本マイクロソフトがシステムコントロールフェア 2011のデジタルならびにオムロンブースにて紹介していたので、その模様をレポートしたい。

生産設備の稼働状況などをクラウドで管理

デジタルのブースで行っていたのは、大規模生産施設向けソリューション。工場の各過程の情報をWindows Server/Azureを介してクラウドベースで可視化し、それをWindows Phoneの端末でWebサービスを利用することで生産進捗の確認や工場設備の稼働/停止などをリモートで操作・確認することができるようになるというものである。

Microsoftの製品を活用したネットワークソリューション。Windows Phoneを活用することで、スマートフォンでも容易にデータ連動を行えるようになるというのが同社の主張するところ

デジタルのブースではAndroid端末を活用した同じようなソリューションも紹介していたが、決定的に異なる点は「データが手元にあるかないか」ということ。つまり、Windows Phoneで見るのはクラウド上にあるデータであり、決して端末側にデータが存在している訳ではないということである。携帯電話/スマートフォンはもはやなくてはならないものという状態だが、紛失や故障、盗難などということが往々にして起きる。遠隔ロックなどのセキュリティ対策も施せるが、データが手元にないことには変わりがないので、回収されるまで仕事になりません、では済まされない。そうしたリスクを回避しつつ、セキュリティも意識したものが同ソリューションだという。

では、どういったユーザー層が利用することを想定しているのか。例えばFAの分野では、従来は各工程ごとにプログラマブル表示機(GP)などが設置され、オペレータがそれらをコントロールしていた。しかし、それらの機器をすべて統合コントロールしたいといったニーズや、マネジメント層が生産量の確認をするといったものがまずは浮かぶが、「経営者やマネージャ、現場の監督者など、人や役職によって見たいデータは異なってくる」とのことで、そうしたデータオブジェクトをシームレスに統合して、必要な人が必要なデータを見れる環境を構築できるようにできることを強調する。

実際のデジタルのGPやモニタと制御機器、スマートフォンを連動させた様子。データそのものはサーバにあり、スマートフォンにダウンロードしているわけではないため、仮に端末を紛失したとしても、重要データが直接的に流出する、といったことは回避できる

また、GPに表示されるUIなどもMicrosoft Visioを用いて作られているため、それを流用したり、携帯電話側のUIのみを作るだけで済むといった、面倒なUIのデザインの簡易化も可能で、「Visioにテンプレートが各種用意されているので、それらを組み合わせるだけでUIを作れる」とのことで、これをSilverlightに変換するだけでGP、携帯電話などの機種に依存せずに最適化したものを作ることが可能だという。

全世界の工場をクラウドでつないで運用

一方のオムロンブースでの取り組みは、というと、オムロンのマシン オートメーションコントローラ「Sysmac」とデータベースを接続して活用しようというコンセプトのデモを4軸ロボットを活用して行っていた。

具体的にはSysmac NJシリーズの動作状況などをSQL ServerやWindows Azure、SQL Azureなどを介して、工場内部での生産状況の表示・分析を行ったり、工場外部から装置状態の確認を行ったりするというもの。実際のデモでも、タブレットやPC、スマートフォン上で、ネットワーク上から稼働データをリアルタイムで表示するといった様子を見ることができた。

4軸ロボットで「R」と書かれたプレートだけを識別してピックアップするというデモ

こうしたソリューションを活用することにより、例えば管理チームは日本だが、アジアの工場でトラブルが発生したといった事例でも、その現場の様子をリアルタイムで知ることができるようになったりするという。

PC/タブレット/スマートフォンと端末側の機種を問わずにネットワーク上にあるサーバにアクセスすることで、稼働状況のデータをリアルタイムで確認することが可能となる

Microsoftとしては、「クライアントが何をどう活用したいかを加味したサーバからエンドまで届く一貫したソリューションの提供を目指している」としており、こうしたクラウドまで含めたトータルな現場で活用可能なソリューションを、標準ハードウェアと標準ソフトウェアだけで低コストに構築できることを示すことで、ものづくりの新たな姿を提案できればとしている。

左が今回のデモのコンセプトの説明。右がロボット側のコントロールモデルの概要

ただ、そうした取り組みの中で最大の課題となるのが、企業のセキュリティの考え方だという。「生産管理側の人間とIT運用管理側の人間の連携がこれからのものづくりには必要。社外からのアクセスは遮断したりしている企業は相当数いるが、社内の有線ネットワーク上でしかデータにアクセスできないでは、これからのグローバルな市場競争から取り残されていく。エンドユーザーの生産技術や装置メーカーなどからはこうしたソリューションが欲しいという声はすでに聞こえており、効率向上などへの期待は高い。そうしたことを踏まえて、データ1つひとつに重みをつけたりするなどのセキュリティの考え方そのものを変える必要がある」とのことで、今後はこうしたサービスの実用化を目指して、実際にクラウドサービスの運用などを行ってくれるSIerなどの連携なども模索していくとしている。