10月3日(太平洋夏時間)より3日間、米Adobe Systemsの主催によるユーザカンファレンス「Adobe MAX 2011」がカリフォルニア州のロサンゼルスコンベンションセンターにおいて開催されている。2日目の基調講演では、同社Vice President & General ManagerのDanny Winokur氏やDirector EvangerismのBen Forta氏らが登壇し、同社のツール群に関する新発表や活用事例などを紹介した。

基調講演に登壇したDanny Winokur氏。ステージの背景は3Dグラフィックスで描かれたもの

Flashに対する継続的な注力

Winokur氏は最初に、もっとリッチなユーザ経験を引き出すためにFlashとHTMLはともに不可欠な技術であると述べた上で、Adobeでは両者に対する投資を今後も継続して行っていくと強調した。その姿勢はこのAdobe MAX 2011会期中にも前面に現れており、例えばFlash技術に関しては、初日の10月3日、Flashランタイムの最新版となるFlash Player 11およびAIR 3それぞれがリリースされた。

Forta氏はFlashの強みは色々なプラットフォーム向けのアプリケーションを同じコードベースで開発できることだと説明。特に最近はゲー厶分野が活発であるとして、ロボットゲーム「Machinarium」の開発事例を取り上げた。その他にもビジネス分野やソーシャル分野での活用事例を紹介した上で、それらがAIR 3で作成されていると語った。

Machinariumのデモ画面

AIR 3には様々な新機能が含まれているが、Forta氏はそのうちのふたつの機能をメインフィーチャーとして挙げている。それがランタイムとアプリをパッケージジングしてインスールを簡略化できる「Captive Runtime」と、プラットフォーム固有のネイティブ機能を利用することができる「Native Extension」である。

また、Flash Player 11/AIR 3の大きな特徴としては2D/3Dグラフィック描画能力の大幅な向上が挙げられる。これはGPUを活用した新技術「Stage 3D」によって実現したもの。この機能強化は特にゲーム分野で高い注目を集めており、世界的な人気ゲーム「Angry Bird」などにおいて、Flash Player 11/AIR3で極めて高度な2D/3Dグラフィックを高速に描画できる様子が紹介された。

2Dグラフィックスが向上したFlash 11ベースのAngly Bird

3Dグラフィックスを駆使した戦車対戦ゲーム

日産Judeのプロモーションサイト。3Dグラフィックスによって実際に目の前にあるかのようにデザインや内装を見ることができる

その他、Flashアプリ開発環境の次期バージョンとなるFlash Builder 4.6では、タブレット端末向けのフィーチャーにフォーカスが当てられていることが明かにされた。Flash Builder 4.6はプレリリースが開始されることも発表された。

ツール、フレームワーク、ブラウザの3方向からのWeb表現力の強化

HTMLへの注力に関しては、まずPhoneGapの開発元であるNitobiの買収が発表されている。PhoneGapはHTMLやCSS、JavaScriptを用いてiOSやAndroid、Blackberryなどのネイティブアプリケーションを開発できるフレームワーク。

基調講演にはPhoneGapの開発社でありNitobiの創立者Andre Charland氏がゲストで登壇し、PhoneGapを用いて作成したアプリケーションの事例や、PhoneGap Buildを用いたアプリケーション開発のデモを紹介した。PhoneGap Buildはマルチプラットフォーム対応アプリケーションのビルドやダウンロードを容易にするWebサービス。複数のプラットフォーム用ビルド環境を用意することなく、マルチプラットフォーム対応のアプリケーションを構築できるというメリットがある。PhoneGap Buildは新たに発表されたAdobe Creative Cloudにも含まれるとのことだ。

様々なプラットフォームをターゲットにアプリケーションをビルドできるPhoneGap Builder

HTML関連の新しい発表としては、その他にAdobe Edge Preview 3のリリースがあった。EdgeはHTML5/CSS3ベースのアニメーション・オーサリングツール。昨年のAdobe MAXでデモが公開され、今年8月に最初のプレビュー版が公開された。AdobeのVP of Engeneering、 Web & InteractiveであるPaul Gubby氏は、Webアプリケーションを開発する上で不可欠となる要素は「ツール」、「フレームワーク」、「ブラウザ」の3つだと指摘。そのうち、Edgeはツールにあたる。

HTML5対応のオーサリングツールAdobe Edge

フレームワークとして紹介されたのはjQueryだ。jQuery Mobile 1.0に合わせて、Adobe製品群からのサポートも強化していくとのこと。そのひとつとして、ブラウザ内で動作するテーマデザインツール「ThemeRoller for jQuery」が紹介された。簡単に切り替え可能なカラーテーマをCSS3で実現するツールであり、Adobe Kulerと連携してカラーバレットの取り込みや共有を行うこともできるという。ThemeRollerは数週間以内に利用できるようになるとのこと。

カラーテーマツールThemeRoller for jQuery

jQueryはすでにDreamweaverには統合されているが、Firewors向けの拡張機能もAdobe Labsにおいて公開されている。この拡張機能には、Fireworksで作成したプロトタイプから、CSSプロパティを抽出するという新機能も含まれている。これを利用すれば、デザイナーがFireworksで作成したプロトタイプから、デベロッパが簡単に色指定などのプロパティを取り出すことができるようになる。

最後の要素である「ブラウザ」については、HTMLやCSSに関する新しい標準の提案によって、Webの表現力を向上させることでサポートしているという。その一部として、基調講演では画面サイズに合わせた動的なレイアウトを実現できる「CSS Regions」と、複雑なテキストの回りこみを実現できる「CSS Exclusions」が紹介された。

CSS Regionsのデモ。画面サイズに応じて最適なレイアウトに自動調整される

CSS Exclusionsのデモ。円グラフに合わせたテキストの回りこみが表現できている

CSS Regions/Exclusionsを活用したオーサリング環境CSS Shader Studio

今回の発表は、マルチプラットフォーム開発のためのFlash、Webコンテンツ開発のためのHTMLの双方を同時にサポートしていくという、従来のAdobeの姿勢が直接反映されたものだったように感じた。継続的な取り組みによってベースとなる技術が確立し、それが各種ツールの新機能となって手元に届くようになった形と言えるだろう。