豊田自動織機の空気エンジン車「KU:RIN」の仕組みを知る

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豊田自動織機の空気エンジン車「KU:RIN」の仕組みを知る

笠井美史乃  [2011/10/05]

先日、小誌では豊田自動織機の「空気エンジン自動車・KU:RIN」について紹介したが、その後、取材により詳細な情報を得たので改めて紹介しよう。同社の主力製品であるカーエアコン用コンプレッサを基に開発されたのが、今回KU:RINに搭載された高効率なスクロールタイプの空気エンジンだ。

「同社のクラブ活動・夢の車工房で開発された空気エンジン自動車『KU:RIN』が、テストコースで時速129.2kmを記録し、ギネス記録への申請を行う」というのが前回お伝えした内容だ。

出発点は、「電気でも内燃機関でもない、新しい動力に取り組みたい」という思いだった。そこから、「モーターと発電機の関係のように、コンプレッサも逆から空気を入れたら回るのでは?」という発想が生まれ、同社の主力製品であるカーエアコン用コンプレッサを基に、KU:RINに搭載された高効率なスクロールタイプの空気エンジンが開発された。スクロール式の空気エンジンは世界初だという。

積むのは「空気」だけ、燃料もバッテリも不要なクルマ

スクロール式コンプレッサは、2つの渦巻状の部品を組み合わせて、片方を固定、もう片方を円運動させ、外側の吸気ポートから吸入された気体を中央へ移動させる。この際、2つの渦巻きの間にできる空間が徐々に小さくなることで気体が圧縮され、最終的に中央の排気ポートから排出されるという構造だ。カーエアコン用のコンプレッサでは、この仕組みで冷媒を圧縮している。

これに対し、空気エンジンは逆に中央から圧縮された空気を送り込み、膨張させながら外側の排気ポートへ移動させることで回転力を発生させている。車両には300気圧の空気ボンベが搭載されており、これを20気圧に下げてエンジンに送り込む。エンジンではこれを2気圧まで膨張させることで、回転するエネルギーを得ているというわけだ。

スクロール式エンジンの模式図。赤い渦巻きが、青い渦巻きとの空間にある空気の膨張によって回転する

空気エンジンは小型軽量で高出力のため、瞬発力に優れているほか、過熱しないため過負荷に強い、燃料や電気を使わないので引火爆発・感電の危険がない、耐水性が高い、排気が低温であることも、特徴として挙げられる。

KU:RINの主なスペックは以下のとおり。

車両寸法 L3510×W830×H760
車両重量 100kg
主構造 CFRP+ハニカム、モノコックボディ
エンジン スクロールコンプレッサ
駆動圧力 2MPa
最大出力 11.3kW
最大トルク 46.8Nm

流線型の車体で、後部にボンベとエンジンを積載している

タイヤは前2、後1の3輪。トランスミッションはなく、電気系統もないためバッテリも搭載されていない。アクセルペダルによる圧縮空気の流量調節のみでスピードを制御し、アクセルを離すとエンジンブレーキがかかる形となり、最後は前輪のブレーキで停止する。ちなみに、パワーウェイトレシオは手元の計算でおよそ6.51kg/psとなる。

目標を絞った開発で「世界一」を目指す

このエンジンの特性を生かして開発チームが目指したのは、空気エンジン車による世界最高速記録への挑戦だ。クルマの開発にはさまざまな要素が必要となるが、若手技術者中心の開発陣は「技術で世界一を目指したい」という想いから、スピードにポイントを絞った。

世界最高速記録の目標として設定したのは、乾電池で走る車の世界記録(時速105.95km)などを参考に、時速130km。小型のエンジンで効率よい加速を得るため、排気量はアップせずに高圧化でパワーを引き出し、ボディはカーボン複合素材を使用することで、軽量かつ剛性の高い車体を実現した。

正式な記録に向けた計測を行ったのは、2011年9月9日。場所は日本自動車研究所(JARI)の城里テストセンター テストコース(茨城県)で、当日の天候は晴れ、無風で気温は32度。路面はドライ。

1,000mの直線コースを走行し、500m地点に設置した1,000秒分の1の計測が可能な光電管で速度を計測。計測後に減速してUターンし、今度は逆方向からスタートして同じく500m地点で速度を計測。2回の走行による記録の平均を最高速とした。これは、風などの影響を除くためだ。結果として、ほぼ目標達成となる時速129.2kmを記録した。

今後はギネス認定委員会に提出した証拠物が審査され、正式な認定を受けるのを待つこととなる。

目標の時速130kmに近い、時速129.2kmを達成

空気エンジンは"エコカー"か?

このKU:RINには、動力として化石燃料や電力を必要としない「新しいタイプのエコカー」という特徴もある。一方で、読者からは「圧縮空気の充填には電力が必要なのではないか?」などのコメントもいただいていた。確かに、ボンベの充填には空気を圧縮するためのコンプレッサを稼働させねばならず、外部のエネルギーをまったく使用せずに走行できるわけではない。

だが、それよりもこの開発で注目すべき成果は、スクロール式コンプレッサの構造を応用して、圧縮空気が膨張するエネルギーで動力を得る「世界初のスクロール式空気エンジン」を開発し、それを搭載したクルマで高速走行を可能にした、というところにあるのではないだろうか。化石燃料で動くエンジンとも、電力で動くモーターとも異なり、かつ陸上を高速走行するだけのパワーを持つ小型・軽量な動力が、現実に開発されたのだ。

エコカーという特徴は、この技術が将来的に実用化に近づく機会が来た時に生きることになるだろう。排気が低温で、空気しか排出しないため、「目的や場所を限定し、適所で動力源として活用できる可能性はある」(同社広報)との見解もある。例えば、山や森林の環境保護区などで使用される乗り物や、ヒートアイランドが問題となっている地域での発生熱量削減などに応用される可能性も出てくるかもしれない。

「夢の自動車工房」では今後、燃料のいらない安全性や、水中でも稼働できるなどの特徴を生かした応用のアイデアを検討したり、空気エンジンとはまったく異なるコンセプトによる自動車開発などにも取り組んだりしたいとしている。

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