2011年9月27日、航空自衛隊のF-2戦闘機が完納となった。当初よりも縮小して98機の製造(試作機含む)で終了になったが、F-4EJでもライセンス生産分は130機なのだから、それと比べて極端に少ないわけでもない。

そのF-4EJの後継機(F-X)についても、2011年9月26日に提案書の提出が締め切られて、F-35(ロッキード・マーティン)、F/A-18E/F(ボーイング)、タイフーン(BAEシステムズ)の3機種の提案が実施された。機種選定は年内に行われる予定だが、実は意外と見落とされがちなポイントがある。

F-2支援戦闘機(手前)と、退役時期が近づいているF-4EJ戦闘機(後方) 写真:航空自衛隊

F-X候補機のひとつ・F/A-18スーパーホーネット 写真:US Navy

安直に機種を増やすことのデメリット

F-XはF-4EJの後継機だから、現時点でF-4EJを使用している3個飛行隊に配備する分、プラス減耗・検査予備ぐらいを調達すればよい、と考える人が多いだろう。しかし、そこで問題になるのが「その後の話」である。つまり、F-15Jの初期型だ。

F-15Jの後期型は能力向上改修を行って使い続ける予定なので、当面、後継機の話は出てこない。しかし、諸般の事情により能力向上の改修が限定的なものにとどまる前期型は、後期型よりも早く寿命が来ることもあり、いずれ後継機問題が浮上する。

しかしその時点ですでに、F-2もF-Xも運用中である。そこで、さらにF-Xと異なる機種をF-15J初期型の後継機に充てると、戦闘機が4機種になってしまう。これでは、スペアパーツの在庫も、搭乗員や整備員などの訓練体系も、その訓練に使用する人員や設備も、ことごとく4機種分が必要である。

「F-XではF-35が有力視されているそうだけど、空自が予定している導入スケジュールに間に合うかどうかわからないから、別の機体をつなぎでF-Xに」なんてことをいう人がいるが、それはF-15J初期型の後継はF-35、つまり4機種体制が前提になる。それは運用効率や経済性の観点から見て、どうだろうか? つなぎの機体を借り物にするならともかく。

F-Xでは「国内で製造しないと部品の調達に不具合を来たして稼働率が低下する」と主張する人がいる。それならそれで、部品の製造を担当するメーカーの立場からも考えるべきだろう。これは、単に仕事があるかどうかという話ではない。

機種が増えれば製造すべき部品の種類が増えて、しかも機種ごとの生産数が減るから、それだけ投資の回収が難しくなる。それははたして、メーカーにとって美味しい話と言えるだろうか。しかも、投資の回収が難しくなれば製品の価格に跳ね返る可能性が高くなるし、損失を強要すれば、結果的に戦闘機の製造から手を引くメーカーが増えるだろう。

F-35やタイフーンが国際共同開発計画の形をとっているのは、開発時のリスク分散だけが狙いではなく、スケール・メリットの発揮によるコスト・運用・兵站支援のメリットも狙っているのだ。

では、3機種体制とした場合、「F-Xには、F-15J初期型の後継にも充てられる将来性を備えた機体を」という話が出てくるだろう。そこで注意したいのが「将来性」の中身である。そもそも、どういう運用場面を想定して、そこでどういう使い方をしたいのかが明確になっていなければ、話が始まらない。

カタログ・スペックだけの議論ではないのだ。ハードウェアという「形」だけでなく、それをいかにして使いこなし、長所を引き出して短所を抑え込むかという「運用」が重要である。それには、日本周辺の安全保障環境に照らして求められる能力とは何か、という議論が要る。それがあって初めて、何を選ぶかという話になる。

現代の戦闘機の能力は、速度や兵装搭載量や機動性だけでは決まらない。彼我の状況を適切に把握・認識・提示する能力も重要だ。写真は、ボーイング社が提案しているF/A-18E/Fスーパーホーネット用の次世代コックピットで、大画面のタッチスクリーンを用いている。全体で1枚の画面だが、用途や状況に合わせて分割表示できる(筆者撮影)

「明日も昨日と同じやり方」でよいのか?

特に若い方にとっては、物心ついた時からF-15Jのライセンス生産が当たり前だっただろうから、「アメリカの最新型と同じ戦闘機をライセンス生産するのが当たり前」という前提で物事を考える風潮があるように感じられる。

しかし、日本の経済事情も、日本を取り巻く安全保障状況も、世界的な軍事の状況も、常に変化している。そうしたなかで、「今までこういうやり方だったから、今後も同じやり方でないとダメ」というのは単なる思考停止、適応拒否ではないだろうか。

F-Xで問題になっている産業基盤維持の問題であれば、「ライセンス生産していれば産業基盤を維持できる」と考えるのか、それとも「産業基盤と日本の防衛力の維持を、できるだけ高い水準で両立するために、現在の状況で取り得る最善の方策は何か」と考えるのか。そういう問題である。

実は、[「防衛力の実効性向上のための構造改革推進委員会」( http://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/meeting/board/jikkousei-koujou/index.html )]」においてすでに「真に国内に保持すべき重要なものを選定し、その分野の維持・育成に注力して、選択と集中の実現により(以下略)」という指摘がなされている。

重要なのは、本来の目的と現在の状況を直視したうえで、取り得る最善の方策を見出し、産業界にとって予見可能性があるような、明確な方向性と戦略を打ち出すことである。その試金石としてF-Xは重要な意味があると言えるのではないだろうか?