9月3日・4日に静岡県コンベンションアーツセンター「グランシップ」で開催された、日本中のほぼすべてのホビーロボットイベントを集めた「ホビーロボットコロッセオ」で、史上初の12対12のロボットサッカーが行われた。大会全体についてのリポートは既に掲載されているが、今度はその競技「ROBO-SOCCER」のみをピックアップしてお届けする。
2足歩行ロボットによるサッカーは、国内では全国各地のホビーロボットによる競技が活発な地域で行われているが、通常は3対3。多くても4対4である。これまで、2010年12月に秋葉原で開催された「アールティ主催ロボットサッカー」のエキジビションマッチで7対7というのが行われたことがあるが、さすがに11対11は実現していない。そこで、今回のお祭りイベントで実現してしまおうということになったわけだ。
ただし、実をいうと開催前はエントリーが少なめで、11対11の開催は危ぶまれていた。大会初日になっても、最初は「多脚型もOKにするかもしれない」という、2足歩行ロボットによる11対11のサッカーは幻となりそうな雰囲気だったのである。しかし、事前エントリーなしでも参加できることにした結果、お祭りということもあって参加ロボットユーザーが増え、なんと目標を超えて12対12が実現したのである。日本一の参加台数であることは間違いなく、おそらく、世界でもホビー用の2足歩行ロボットでロボットサッカーをするようなユーザーが多くいる国はないと思われるので(ゼロとはいいきれないが)、世界記録の可能性もある。
そんな24体の戦場となるフィールドは、最初から参加台数が多いことから、従来にない大型のものを用意。サイドラインが20m、ゴールラインが10mという、小学校のプールに近いようなサイズだ。このサイズもロボットサッカーでの新記録だろう(2足歩行意外のロボットによるサッカーの競技会なら、学生対象の国際ロボット競技大会「ロボカップ」の中型リーグが18m×12mで、面積的には広い)。ともかく、この20m×10mというサイズは、下は20cm前後から上は50~60cmぐらいのロボットたちにとっては20体以上入っても広く、スペースが空いているのがすごい(画像1)。
画像1。フィールドの広さはこれぐらい。22体(撮影時点ですでに2体が不調で離脱)がいても狭さを感じることもなく、とてもサッカーらしい雰囲気。ちなみに、一部重なっていてわかりにくいが、この画像には22体のロボットすべてが写っている |
そしてチーム名は、静岡県ということで、Jリーグのご当地チームであるジュビロ磐田と清水エスパルスから名前を借りて、ジュビロとエスパルスとして対決。ジュビロ所属は頭などに青い付箋を、エスパルス所属は黄色の付箋を貼って闘った。
チーム分けに関しては、時間的に余裕がなかったことが残念なところ。本来は、ロボットサッカーを得意とする操縦者2名をキャプテンにして、戦力的にイーブンになるようにジャンケンで味方をひとりずつ選んでいくといった方式を採れればよかったのだが、ホビーロボットコロッセオ全体のスケジュールの都合もあってあまり時間的に余裕がなく、ジャンケンでザックリと2チームに分けるという形になった。そのため、戦力的に偏りが出て、初日は特にだったが、2日間ともサッカーを得意とするロボットがジュビロに多く集まった形である。ちなみに、初日はエスパルス側のロボットが2体、調子が悪くてスタート早々に戦線離脱してしまい、さらに戦力差ができてしまったという点も惜しかった。といっても、始まったらカオス状態で、エスパルスが攻める時間帯もいくらでもあったのだが。
参加ロボットの顔ぶれは、もう体重別クラスも何もないので、なかなかカオス的である。1kg以下級の小型機(画像2)もあれば、2kg後半から3kg以上の中~大型機(近年、1m大のロボットも作られているので、どこからが「大型」なのか定義が難しい)もあるという具合(画像3)。走力やキック力に大きな差があり、小学校低学年から大人までが混在しているような形となった。
画像2。中央の赤い機体「サイコロ1号」はROBO-SOCCER参加ロボットの内の最も小型の1台。ボールを追って移動するだけでも大変で、大型クラスにぶつかられた日には簡単に転ばされてしまう |
画像3。中央の機体は、参加ロボット中1、2を争う大きさの「Cavalier」。隣の画像の小型機サイコロ1号などと比較すると、倍以上の身長がある |
ルールに関してはオフサイドなしで、とにかく相手のゴールにボールを蹴り込めば1点。ファールに関しても、よほど悪質な行為でない限りはあまり採らないような感じだったが、1回だけイエローカードも出て笑いを誘っていた(画像4)。また、試合時間は前後半10分ずつ、ハーフタイムは5分。
画像4。2試合通して、1回だけ出たイエローカード。エキジビションなので「アマアマ」ジャッジということだったが、パンチやキックを相手ロボットに与えてしまう攻撃にはカードを出すということで、シュートを空振りしてうっかりジュビロのキーパーの蹴ってしまった「クロムキッド」にイエローが出されていた |
サッカーの試合としてどうだったかというと、さすがにダイレクトパスをつなぐとか、サイドチェンジをする、なんていうアクションはちょっと無理。もちろん、やたらと決定率の高い名前つきの必殺シュートなどもない。よく見かけたのは、ボールが転がっていったところに元から多数のロボットがいて、そこに機動力のあるロボットたちが駆けつけてきて、混戦になるという感じ(画像5)。
何台ものロボットが集まっていても、ロボットは人間のように軟らかく微妙なキックができないので、みんなそろって次々とキックを空振りするようなこともあれば、バランスを崩してバタバタと自ら倒れていくような面白おかしいシーンも続出である(画像6)。
画像5。ゴール前で密集している様子。この画面では大多数がエスパルス側のロボットなのだが、なかなか自分でやるようにはボールをさばけないので、みんなであたふたという感じ |
画像6。フィールドのちょっとした凹凸でバランスを崩してしまったり、ロボット同士でぶつかってはじき飛ばされたりなど、20体以上もいると、ロボットが倒れてない時間帯を探す方が難しいほど。決して、PKを誘っているシミュレーションではない |
特にゴール前は、攻撃に参加できるほどの移動速度のないロボットがディフェンスとして待っていたりするため、そこに両チームの機動力のあるロボットが駆けつけてくると、一気にグチャグチャッとなる。中には絡みまくる時もあり、それはそれで楽しい光景だった(画像7)。
画像7。1台が転んだところに重なるようにしてほかのロボットが転んでしまうこともあり、ロボットは人と違って絡まりやすいため、ロボットの山ができてしまうことも。これは主審が絡まっているところを外している場面 |
その一方で、サッカーらしい場面も多数見られた。ゴール前の混戦をくぐり抜けてゴールに押し込んだり(画像8)、単独でサイドを上がっていって超ロングシュートを決めたり(画像9)、パスを出す姿が決まっていたり(画像10)、キーパーのゴール死守したり(画像11)といった場面も。
ともかく、20体以上のロボットが動き回っているのは、とてもカオスな感じである。周囲で観ている人も面白かっただろうけど、だけでも楽しそうだったので、実際に参加している選手は我を忘れて楽しめたのではないだろうか。正直、参加してみたいと思ったほどである。
通常の3対3のロボットサッカーだと、優勝を狙うには当然ながらひとりひとりの責任が重い。チームワークの良さ、戦術の理解度、もちろんロボットそのものやモーションの完成度、指揮を執れるキャプテンの存在(これが意外と大きい)など、優勝を狙うには必須となる要素が複数あるわけだが、今回はあまりそういことを気にせず「ボールいったぞー! とにかく蹴れー!(笑)」みたいなノリだったので、あまり深く考えずに楽しめたのではないだろうか。
なお、試合は1日1回ずつ行われ、2日目は初日で帰った人たちもいたために10対10と少なくなったが、どちらもジュビロが勝利を飾った(メンバー編成はそれぞれ異なる)。初日は2対1、2日目は3対1である。
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初日の12対12の様子のUSTREAM中継映像。小学生サッカー全開かと思うかも知れないが、意外とサッカーっぽいのがわかるはず |
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2日目の10対10の中継映像。2日目は、前日よりも戦力バランスがイコールに近くなったチーム分けとなったが、この2日間はジュビロに運があったという感じ |
直接今回のROBO-SOCCERとは関係ないが、前述したロボカップは西暦2050年には人のサッカーチームと試合をして勝てるロボットの開発を目指しているわけで、それが西暦2050年よりも前になるか後になるかわからないが、おそらくいつかは間違いなく実現する時が来ることだろう。もしそうなった時にロボットサッカーの歴史を振り返って、2011年9月3日に史上初の11(+1)対11(+1)の2足歩行ロボットサッカーが行われたということも、ぜひトピックにしてほしいものである。そんなわけで、ここに楽しくも歴史的なロボットサッカーが行われたことを記しておく。